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世界多分一周旅を終わらせる。【アルゼンチン、燃えるフィッツロイにて】

2023年10月23日現在、南米のアルゼンチンのエル・チャルテンという町にいる。
午前4時前から山を登り始めて2時間後、カプリ湖で朝日に焼けるフィッツロイを眺めながら、今日、私の世界多分一周旅をここで終わらせることにした。


南米大陸に来てからの旅についての細かいことは追々noteに書いていくとして。
また、それを全てすっ飛ばして最終回を書くという禁じ手を。
それくらいどうしても今書いておきたい。

簡単に書くと、グアテマラで1ヶ月スペイン語修行をしてから、ペルーに2週間、そしてパタゴニアを旅するべくチリに来て、最南端のアルゼンチン、ウシュアイアに来てからはパタゴニア地域をバスで北上している。アルゼンチンとチリを行ったり来たりして、今自分がどちらの国にいるのかよく分からなくなることもあった。

ウシュアイア、プンタアレーナス、プエルトナタレス、エル・カラファテとバスを乗り継いできて、昨日エル・チャルテンという町に着いた。
フィッツロイというアウトドアブランドのPatagoniaのロゴマークになっている山が見どころの町。
フィッツロイももちろんすごいけれど、町を囲むように岩山がずらーっと聳え立っているのもすごい。
トレッキングをしにくる客のためのレストランやカフェやバーや商店が少し並んでいるだけの町だが、なんとなく居心地が良い。

ネットが不安定なので、写真は適当にチョイスして貼り付けてます。どれも絶景だからいいやと思ってる。

3泊することにしていたので、のんびりとフィッツロイに近づくトレッキングのタイミングを見計らおうと思っていたが、宿に着いた途端に、宿で働くお姉さんが言った。
「フィッツロイを見るなら明日の早朝しかチャンスはないわよ。」
全然のんびりチャンスを見計らえない天気らしい。
刈り上げがだいぶ上まできているお姉さんがパソコンの画面を見せてくれた。この先1週間の天気予報で、明日の午前しか太陽マークはなかった。
移動に移動を重ねていたので今夜はゆっくり眠りたかったが、仕方ない。
そして、刈り上げのお姉さんは衝撃的なことを言った。
「フィッツロイを1番近くで見られるメジャーな場所ラグーナ・デ・トレスへは、山火事が原因で立ち入り禁止になっているのよ。残念だけど行けないわよ。」
え?
ラグーナ・デ・トレスまで往復8時間、夜中に登山するために備えてきたのに。
ちゃんとした登山靴をレンタルする等の準備も念入りにしてきた。
往復8時間夜中のトレッキングが控えているから、色んなことを無理せずに調整してきたのに。

そうか。
この気合いと覚悟の行き場所がなくなり、自分のツキのなさに茫然となったが、そんな私にお姉さんがこう言った。
「別の湖、ラグーナ・カプリまでは山火事の影響を受けてないから、片道2時間弱で行けるし、道も凍ってないし、普通の靴で行けるよ。トレッキングポールは貸してあげるし、午前4時に出発すれば朝焼けに間に合うよ。4時に手作りのバナナブレッドを包んでおいてあげるから、それを持っていけばいいよ。」

片道2時間か。物足りないな。高さもそれほどないからそんなに間近にフィッツロイを見られないだろうな。
そう思って少しガッカリはしたが、今ある選択肢から最良の選択をしていくしかない。それにバナナブレッドは好物である。
おにぎりも握って、温かいお茶と一緒にカプリ湖で食べて飲んで朝日を待とう。

そんな流れで、多めに米を炊いておにぎりにし、晩ごはんにはステーキを焼いて食べてさっさと寝て、午前3時半に起きて、ラグーナ・カプリに向けて午前4時に出発した。

この辺りは曇ることが多く、フィッツロイがくっきり見られるチャンスは少ないらしい。それに今はオフシーズンで寒すぎてベストではないため、そこまで期待はしていなかった。
でも歩いてすぐに、手ごたえを感じた。
夜空に星が見えすぎている。
小さい星が見えすぎてオリオン座が判別しにくくなる時。それがベストのサンライズの前兆であることを私は体験的に知っているが、今日はすごかった。
私の人生で1番星空が美しかったのは、16年前のインド、ブッダガヤ近くのスジャータ村で雨が降るみたいに流れ星を見た夜だったが、その記録と記憶を塗り替える夜も今夜だ。

ピース

2時間の登りは、正直に言うと大したことがなかった。
確かに寒いし、午前4時で真っ暗だが、標高が4200mだったペルーのウマンタイ湖まで登った時の苦しさを思い出せば、普通のお散歩レベルだ。そう思った。
2時間、お散歩レベルに登り続けたからって、そこまで絶景が広がるなんて期待はしていない。
期待などしていなかった。
真っ暗な森の中をヘッドライトをつけて進む。ヘッドライトを照らして夜道を歩くのは5月のカミーノ旅以来である。

突然、異様な何かが、うっすらと白くて少し赤みがかった何かが、木々の隙間から見えてきた。

まさか、そんな。
森を抜けたら突然現れた。
フィッツロイである。

2時間のお散歩レベルの気楽な登山の末、気づいたら小走りになって道を進んだ。
空が明るくなってきているし、ライトの明かりを消してこの目で見たかったので、ヘッドライトの明かりを消した。

森を抜けたら逆さになった山が見えてきた。
ラグーナ・カプリに到着すると、目の前の景色が2倍になっていた。


目の前に広がる景色が信じられなかった。
すごすぎる。
圧倒的な静寂と神聖さと寒さに震える。
私の好きな剱岳もそうだが、圧倒的にかっこいい山は、神聖で美しくて怖い。この怖さを畏怖と呼ぶのかなと思う。

時々鳴く鳥の鳴き声と、少し前に私を抜いて先に湖に辿り着いていた2人が夢中で切るカメラのシャッター音と、私のため息と。
それしか聞こえない世界。
最高だった。


ラグーナ・カプリに着いた時は、すでにフィッツロイが薄い赤で染まっていた。
これが燃えるフィッツロイというやつか。
ああ、あと10分早く出ていれば、もっとこの赤いフィッツロイをここで見られたのにな。
だんだん白くなるフィッツロイを見ながら少し後悔した。
でもしばらく見ていたくて岩に座ってぼーっと見ていた。

パタゴニアからのパタゴニア


寒いのでPatagoniaのリュックからブランケットを取り出して足に巻くことにした。そして、まだほんのり温かい2個目のおにぎりを取り出してほおばって、ふとフィッツロイに再び目をやると、度肝を抜かれた。
赤く染まる燃えるフィッツロイってこれのことだったのか。
初めてフィッツロイを見た時以上の驚きが、やってきた。
信じられない。
目を疑う。
赤くなり始めた瞬間を見逃してしまったことも自分で信じられないほどマヌケだと思ったが、刻一刻と色が濃くなる。
先ほどの薄い赤みとは全く違う強烈な色。
燃えている。
フィッツロイが燃えていた。
徐々に炎が広がるかのように、隣の山並みにも赤みが増す。
ああ、GRが故障中なのも悔やまれるが、ここは、iPhoneの限界に挑んでもらうしかない。

そして、黄金色に輝いたかと思うと、白いフィッツロイに戻った。
この10分くらいの出来事を、私は忘れない。
他にいた2人のうちの1人が日本人の若い男性で、私にこう言った。
「むちゃくちゃ感動しました。」
素直でいい子だと思った。
私は感動したのだろうか。
よく分からない。
確かに驚いた。
2度も驚いた。
初めて間近に見た時と、突然赤に染まり始めた時と。
心が震えた。
釘付けになった。
この景色は、この旅で見たたくさんの景色の中で、ベストかも知れない。
ノルウェーのフィヨルドが私の中のベスト1絶景だったが、旅の記憶が薄れているせいもあるけど、今のところここがベストだと言い切れる。
思っていた場所と違ったが、行く予定だった湖は凍っているらしく鏡張りのフィッツロイは見られなかったはず。そして、この場所はそれほど人気がないため3人しかいないという条件もラッキーだった。
結果的にこの選択は良かったのである。

簡単に辿り着いてしまってこんな絶景を見られるなんて、パタゴニアは恐ろしいなと思った。
だが、簡単とも言い切れない気がする。
確かに2時間のお散歩の延長線でラグーナ・カプリに到着したが、ここに来るまでの道のりは果てしない距離だった。
日本との時差が12時間の、ほぼ地球の裏側とも言えるこの場所。
12月に日本を出て西に進み、アジア、ヨーロッパと紆余曲折もありながら、色んなことがあって、中南米に来て、10ヶ月後にここに辿り着いたのである。
私をここに連れてきてくれたのは、旅で出会った人たちのおかげかも知れない。
来る予定のなかったパタゴニアだった。

最南端のウシュアイアをゴールにと考えていたが、ここがフィナーレだというそこまでの実感がなかった。しかし、トーレス・デル・パイネ公園、ペリートモレノ氷河とパタゴニアの絶景を見てきて、今ここの燃えるフィッツロイ。
こんな景色を見られたなら、もうここでゴールにしようと思った。

私の世界多分一周旅は、アルゼンチンのフィッツロイの前、ラグーナ・カプリをゴールとします。

楽しかった。
達成感しかない。
やはり感動と言えるのかも知れない。
いや、感動というより満足。
お腹いっぱい。
それに近いかも知れない。

このあと、もう一つのやりたいこととして、最南端からチリのサンティアゴまでの道のりを陸路で戻るということを自分で掲げている。
日本列島の沖縄から北海道よりも長い距離を、どうしても陸路だけで移動したい。
トルコからノルウェーまで、バルカン半島を怒涛の陸路旅をした興奮を再び、それよりも長い距離の陸路移動を南米で味わいたいのである。移動こそが旅。
困ったもんだと思う。飛行機で飛べばすぐだし飛行機の方が安いのに、24時間バスに乗りっぱなしの初挑戦が待ち構えている。(その後17時間バスに乗って、着いたその日に飛行機でペルーに戻って空港泊してからメキシコに入るという、クレイジーな行程にしてしまっている。)
メキシコで10日ほど過ごすから、私の旅はまだもう少し続く。
カミーノで出会ったクリスティーナの家に居候させてもらって一緒に死者の日を過ごす予定。楽しみはまだまだある。

だけど、このラグーナ・カプリに背を向けて下山する1歩目からは、日本への帰国の道のりとなる。
もうここから先は帰路に入る。
まだ寄り道はたくさんするけれど、これからは日本への帰り道である。
家に無事帰るまでが旅。

そんな訳で、私の世界多分一周旅は、ここで終わらせることにした。
さあ帰ろう。
日本へ。
今、私の心は晴れ晴れしている。

帰り道に見つけたキツツキ
アルゼンチン人の魔法瓶はメッシだらけ
マテ茶を振る舞ってもらった。

ありがとう、フィッツロイ。
ありがとう、パタゴニア。
ありがとう、ここを教えてくれたデイヴ。
ありがとう、私と出会ってくれた人たち。


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のりまき
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