トラベルブルーなヤサグレ会【世界多分一周旅会議⑮】
先週は久しぶりの外食続きで非常に忙しかった。
年末にはもう私は旅立っているためいつもの焼肉忘年会ができないということで、高知に住む昔の職場の先輩が大阪に来たタイミングでご飯を食べに行き、その数日後に仕事絡みで20年来の付き合いのある人と焼肉を食べに行き、友達のしめちゃんとヤサグレ会でサムギョプサルを食べに行った。
どれも個室での密談で、私の退職と旅立ちの日を伝え、先輩と仕事絡みの人からは質問攻めにあい、その質問にに頭を悩ませながら答えを探し、しめちゃんには質問される前に自分が話したいことを話した。
先輩からは、「日頃の人間関係をものすごくミニマムにしてできるだけ人とのかかわりを避けている君が、旅では人と知り合って世界中に友達をつくり、その人の家を訪ねたり再会したりする旅の仕方について、どういうことなのか自分のために解き明かしたい」と言われた。知らんがな。
やたらと質問をされて、それに答え続けた結果、「矛盾があるようで、ものすごく辻褄があっていたね」という結論を出してもらった。
先輩が出した結論までの説明はここで文章化するのがとても難しいからやめておくが、先輩の中ではものすごく腑に落ちたらしい。
私はまだ自分自身のことではあるがピンとこない。
だけど「君は常に矢印が自分に向いている、決して悪い意味ではないよ、まあ特にいい意味でもないけど」という先輩の言葉がすべての答えとつながっているような気がした。
「とにかく気を付けて行ってらっしゃい。また旅の間に何か書いて送っておくれ。君の旅の文章を読むのは好きだから。分かってると思うが、無理せず、お金であれメンタルであれ、しんどくなったら帰ってくりゃいいんだから」と言って、晩ごはんをおごってもらった。
ごちそうさまです。
続いて、仕事絡みで20年来の付き合いのある人(以下、仕事絡みマンと略)との焼肉接待では、「物凄い決心をしたね」という部分に焦点があてられた。
本人的にはそうでもないのだが、知り合った20年前よりもえらく上の方まで出世街道を登ってしまったサラリーマンの仕事絡みマンからすると、私の選択は考えられない決断らしかった。
「でもさ、そちらもワーホリでオーストラリアで1年くらい住んでた人だから分かりますよね私の気持ち?」と尋ねてみたが、「いや、あれは20代やったし」と一蹴された。てへへ。
5つ年上の彼は、シビアに「俺はもう50やからね。のりまきさんも言うても45歳ですよね、今の職場でも管理者ですよね」と釘を刺されて慌てて「それが何か?」と強気に出て笑ってごまかす技を繰り広げてみた。
ごまかせたかどうかは謎だが、「そんなの関係ねぇ」と言ったら「こじまよしお、もう古いし」と言われたのでごまかせてはいなさそうであった。
とりあえず、「のりまきさんがいつまでも若くて綺麗で輝いているのは(彼はそういうお世辞を平気で言うタイプの男である)いつまでも自由だからですね。25歳で知り合った時からちっとも変わってませんよ。(そんな訳がない)」と言われて、「帰ってきたら連絡してください、また同じ業界の仕事で繋がれたらいいですね。待ってますよ。」と言っていただき、焼肉をおごってもらった。
ごちそうさまです。
そしてその次の日はしめちゃんとやさぐれサムギョプサル食べ放題会だった、略してヤサグレギョプサル。
しめちゃんには、その2人と会って話した話、モヤっとした話を聞いてもらった。
先輩も仕事絡みマンも帰国後の仕事について触れてきたが、正直何にも考えていないし考えたくない。
どこに行くのかとか、何をするのかとか、旅の目的とか、その後の人生とか何も考えていない。
仕事絡みマンに「親は何て言ってるの?」と聞かれて、「え、親に言ってませんけども」と言ってびっくりされたが、特に言うつもりもなかったし、何を言われても関係ないのになと思ったりした。結婚も出産もしないで旅に出るとか言う45の娘をどう思っているのか、人の親として聞きたかったのだろうと思う。
それよりも、仕事絡みマンから「今までの毎年恒例の3週間連続の有休だって普通は職場は許してくれないですよ。それはのりまきさんが可愛いから許されてきたんですよ」と言われて、椅子からひっくり返りそうになるくらい驚いた。
いや45歳に可愛いも何もないやろ、ほんでそんなん関係ないし。
その話をしめちゃんにしたら
「いやいやのりまきちゃん。20代の頃を知ってる50歳の男から見たら、45歳はいつまでも5歳年下の女の子やねんで」という驚きの説を言われて震えた。
「のりまきちゃんだって、職場の30代の子見たら若いなあって思うやろ。20代から見たらおばはんでも。そういうことやで。ほんで異性やしな。2軒目誘われた?毎回『今日ものりまきさんは落ちひんかったかー』って思いながら帰ってはるわ。のりまきちゃんは好きじゃない男をこの世から排除しすぎてるから、たまにはそういう扱いされといてもまあええわな。」とのこと。
「なるほどね。悪い男と悪い女やな」とそういうことにしておいて笑った。
「せやけど、可愛いから許されてるとかいう発想はおかしいで。私が思うに、答えは一つ。のりまきちゃんが変わってるからやで。」としめちゃんが語り始めた。
「人間は、人からどう思われるかを考え過ぎて生きているから自分のやりたいことの半分もできないし、自分の言いたいことをほとんど言わずに生きてる。私が『変わっている人』って思うのは、自分を通している人のことやで。人からどう思われるかとか考えないで別次元で生きてるから。だからやりたいように生きてるけど、人間社会ではどうしてもそういう人は浮いてしまうねん。
そういうのを分かった上で私は、会社では人間に擬態して生きてるから、のりまきちゃんと同じ人間もどきではあるけど正直のりまきちゃんよりも生きづらいよ。
でもそれ以外では、人に合わせて生きている人間を嫌って人間を避けて生きてるからのりまきちゃんと同じではあるけど。」とのこと。
人間もどき2人がサムギョプサルをしこたま食べ続けて話し続けた。
「そういや最近(と言っても1週間)、全然連絡なかったけど何か内側にこもってんのかな~って思ってた。何かあったん?」としめちゃんが聞いてきたので、ここのところちょっとモヤモヤしていたことをいくつか話した。
「マリッジブルーみたいなやつやな。トラベルブルーやん」と名づけられた。
旅に特別な意味なんてないと言いながら、そうは言っても無職になってどこかでぷらぷら風来坊に生きることに自分の中に少し特別な意味が出てきている。
不安が出てきている。
旅に対しての不安はないが、無職になること、お金が足りるのかなということ。
そしてしめちゃんと会えずに1年間過ごすこと。これに耐えられるのかどうか。
以前の数か月間のインド放浪旅も、恋人や家族と離れることは別にそれほど寂しくなくて、私はそういうホームシック的な感情が欠落している人間だと気づいたのだが、しめちゃんと、もう一人の友達と会って長々とだらだら話せないのが、長旅で私が最もキツかった記憶である。
他の友達は半年に1回ほどのペースで会うような関係だったから、まあ別に半年や1年会えなくても大丈夫だ、何も変わらないという余裕がある。当たり前だが、そんなに私がいなくてもご機嫌に生きていける人たちである。
しかし、しめちゃんともう1人の友達は、月に何度も近所で会って長々と話す間柄だったから、共依存に近いのかも知れない。
疎遠になりかけていた友達とは交流は再開したものの、2年も会わなかったことから、これから会えなくなることに対する渇望感はそこまでない。
しかししめちゃんのことは、かなり渇望しそうな気がしている。
しめちゃんロスに耐えられるのか。
特に海外に行くと、英語で話すことがメインになり、日本語(それもコテコテの大阪弁)でものすごいスピードで何から何まで言葉にして喋り倒すということができなくなる。
それのフラストレーションがかなりたまると思う。
日本人と話せたら解消されるのかというと、それは全く別次元で、しめちゃんとのヤサグレ会は、激しいスポーツのような、ジャズセッションのような、芸人のラジオ番組のような、ジェットコースターのような観覧車のような、そういういろんな側面があり意味がある。
そして、この時間が持てなくなることで、私だけではなくしめちゃんの方が落ち込んでしまって扉を閉めるんじゃないかなという心配もあった。
のりまきちゃんロスに、しめちゃんが耐えられるのかどうか。
それを話すと、「まあな。のりまきちゃんには私の他に友達が4人くらいおるけど、私が心を許せる友達は、いまやのりまきちゃん1人やからな。もう人間に対しては扉の鍵閉めてるしな。でものりまきちゃんには鍵渡してるから、そんなん心配せんでええで。一応今のところは日本に戻ってくるんやろ。
ものすご長いLINE送ってきたらいいやん。いつも通り1〜2行くらいの返事はするし。先月のLINEも長文来てたけど、1行で返してるしな。それくらいがちょうどいいんやろ、知ってるで。
時々タイムリーじゃない3週間遅れくらいのポストカードも送ってくれるんやろ。いつもの旅と一緒やん。
おもろいTVとかドラマあったらLINEするし。NetflixとTVerで海外でも見るんやろ。それやったら、コロナの時と変わらんやん。
そんなん考えてんと、やらなあかんことしいや。
歯医者とか門真の免許証センターとか税務署とかも行かなあかんのやろ。」と諭された。
何もかもの答えである。
ありがとう。しめちゃん。
ちょっと泣きそうになったよ。
それからオダギリジョー監督のドラマ「オリバーな犬」の話をして、「とにかくオダギリジョーって才能に溢れたいい男」「最後犬が2匹になってたん気付いた?小西も犬やったで」「2世俳優めっちゃ出てたな」「虹郎、寛一郎な」「緋美くんだけ気づかんかった」「松田兄弟の贅沢な使い方」など盛り上がり、「鎌倉殿の13人」の話になり(やたらとNHKドラマが好きな我々)、「中川大志くんはもう福士蒼汰じゃない方の子ではなく、完全に福士蒼汰を抜いたな」「いずれ大河の主役をやるであの子」と絶賛し合った。
それからしめちゃんが「きいちの孫の演技もうまいわ」と言うため、「…。宮澤エマか?宮澤元総理のことをきいち呼ばわりするん、しめちゃんだけやで」と注意し、「だって宮澤喜一やんか!」「きいちって言ったらもうそれは中井貴一って決まってんのよ。私しか分からんよ、きいちが宮澤喜一のことやって。宮澤元総理って言いーや」「きいちでええやろ、通じたやん」「きいちは中井貴一!」「でものりまきちゃんは中井貴一のことをいつもきいちゃんって言うてるやん」という喧嘩をしていると「お客様、そろそろ閉店なので…」と店員に仲裁(?)され、お開きとなった。
もう誰も他に客はいなくなっていた。店員はきっと呆れている。
友達なのでヤサグレギョプサルは割り勘だったが、しめちゃんにはお礼を言いたい。
ごちそうさまです。
まだまだ話し足りなかったので、梅田から私の家まで私がいつも歩くルートを1時間かけて一緒に歩いて帰ることにした。
時々しめちゃんに「さっきの道まっすぐの方がこの道よりも近かったんちゃうん?」と言われたが、「私はこの道って決めてるからこの道しか通らんのよ。あ、そこのファミマでお茶を買うのも決まってます。この辺りのコンビニはトイレを貸してくれないからそこのホテルで必ずトイレに寄るのも決まってますんで。」と私が説明し、しめちゃんはファミマの前でタバコタイムをとった。
帰り道では、しめちゃんのお兄ちゃんが訳アリの大分年下の女性と結婚することになってしめちゃんちに挨拶に来た話、「結婚願望がないのは、ただお前がまだ本当の相手に出会ってないだけ」というしめ兄のマウント発言に一緒に憤慨し、お互いの異性の話を少しして、私が父の携帯をauからUQモバイルに変える手続きに行きまたauで喧嘩した話(私は携帯会社に行くたびに揉めている人です)、藤井風の話などしていたら藤井風のTシャツを着た集団に出くわしてライブが会ったことを知ったりしているうちに、あっという間に地元の私たちの町に着いた。
次は、コリアタウンに一緒に行って天神橋筋商店街を歩く約束をして、いつもの角で別れた。
この時間が私の宝物だし、日本、大阪でこれからも生きていたい理由の一つだ。
しめ兄の説でいくと、もしも私が本当の相手に出会ってしまったら大阪に戻らない決断もあるのだろか。
あるわけない、と今の私としめちゃんは確信している。
私もしめちゃんも、本当の相手に出会った中でも自分がちっとも変わらなかった女たちだったから、しめ兄の説は全力で否定したい。
みんながみんな結婚したいと思うと思うなよ。
「最近ののりまきちゃんのパターンでいくと、ちょっとした恋はするやろけどな」としめちゃん。
まあしてもしなくても、帰っては来る。
良くも悪くも私の矢印はいつも私に向いているから。
帰りたい場所があるから、私は旅をするのである。
ここがあるから、ここではない場所に行きたいのである。
トラベルブルーは少し赤みを帯びてきた。
とても良い夜だった。
(旅についてものすごく考えて話をしたので、これが今週の世界多分一周旅会議である。)