熊野古道には、必ず「パンダべんとう」
私は、普段の食べ物に関しては、あまり冒険しない保守的なタイプで、このジャンルならここのもの、この店ではコレと決めて小さな世界で生きている。
例えば、ポテトチップスはカルビー絶対神、コンソメパンチかコンソメWパンチで間違いないのである。ただ持ち運ぶ場合は、仕方なくチップスターの赤。これは味優先ではなく持ち運びの利便性優先で例外。
まだ付き合いはじめの頃の彼氏がコイケヤのコンソメを買ってきたときに、違う違う、そうじゃ、そうじゃな~いと怒りながら鈴木雅之を歌ったことがある。
好きなのはコンソメなんだけどコイケヤじゃないのよ、イモの食感が全く違うからね、と懇切丁寧に伝えた。
また、コンビニで買うドリンクは午後の紅茶のレモンティー。
スーパーやコンビニによっては、品揃えが午後の紅茶は赤のストレートと白のミルクティーのみで、レモンティーだけリプトンの時がある。これでリプトンのレモンティーを買ってこられるとやはり心の中の鈴木雅之が歌い始めるから要注意だ。
リプトンのレモンティーは甘ったるいから違うのよ、とこれも全私の関係者に伝えたい。
そういう訳で、「コンビニ寄ってくけど何かいる?」と聞かれたら、「いつもの2つ」と答えて察してほしいし、何なら、いちいち「何かいる?」などと聞かずにその2つとハーゲンダッツの1つでも買ってきてくれること。これが私が求めているものである。ノルウェイの森のミドリよりも簡単な条件であるから世の男性には頑張ってもらいたい。
"私が求めているのは単なるわがままなの.完璧なわがまま.たとえば今私があなたに向って苺のショート・ケーキが食べたいって言うわね,するとあなたは何もかも放りだして走ってそれを買いに行くのよ.そしてはあはあ言いながら帰ってきて「はいミドリ、苺のショート・ケーキだよ」ってさしだすでしょ,すると私は「ふん、こんなのもう食べたくなくなっちゃったわよ」って言ってそれを窓からぽいと放り投げるの.私が求めているのはそういうものなの"
"私は相手の男の人にこう言ってほしいのよ.「わかったよ,ミドリ.僕がわるかった.君が苺のショート・ケーキを食べたくなくなることくらい推察するべきだった.僕はロバのウンコみたいに馬鹿で無神経だった.おわびにもう一度何かべつのものを買いに行ってきてあげよう.何がいい?チョコレート・ムース,それともチーズ・ケーキ?」 私,そうしてもらったぶんきちんと相手を愛するの."
【ノルウェイの森】より
そしてかまどややほっかほか亭などのほか弁屋ならかつ丼オンリー。
他に選択肢はない。ノーチョイス。
「いつもの」と言えばかつ丼なのでよろしくご査収ください。
スーパーやコンビニの弁当に関しては悩むけど、それは「いつもの」を食べたいわけじゃないから悩んで良いことにしている。まあだいたい唐揚げが入っているか、ごはんの上に何らかの肉が乗っているか、カレーライスの上に何らかのものが乗っているタイプかをその時の気分で迷うだけだが。
しめちゃんとヤサグレ会をしに行く居酒屋も9割同じメニューの繰り返し。1割はその時の期間限定のメニューでめぼしいものがあれば頼んでみるくらい。
お決まりメニューは、ごはんセット(ファースト)、サイコロステーキ、から揚げ、一口餃子、肉の乗ったガリバタライス(セカンド)、焼き鳥盛り合わせ、ししゃも、だしまき、キュウリの漬物、ポテトサラダ、ポテトフライ。そして、私が豚の角煮か牛すじ煮込みか、しめちゃんが大根サラダかシーザーサラダか悩むくらい。ほぼほぼ悩まないし、冒険しない。そしておしゃべりも止まらない。ヤサグレたクリエイティブな会話に力を注げるのである。
私のことを「食のスティーブジョブズ」と呼んでもおかしくないくらい、定番のものを繰り返し続けている。いわゆるジョブズのとっくりセーター現象。
私は食べるもののメニューに悩む時間がもったいないし、美味しくなかったときにがっかりするのが嫌で、決めてしまえば楽だし失敗しないので繰り返される。
服を選ぶ時間と頭を別のクリエイティブなことに使うためにジョブズはとっくりセーターと決めていたらしいが、私はiphoneやクリエイティブなものを全く何も生み出さないくせして、その時間と労力を惜しんで、食べるものなどを決めてしまっている。
例外として、海外を旅すると、食は挑戦の連続となる。そういう挑戦やメニューを悩む時間も労力も全く惜しくないし、一日中、次は何を食べようか悩んでいたいくらいだ。
その土地のお勧めを聞いて食べてみたり、現地の人が食べているのを見て同じのを注文してみたり。正体の分からないものまで手を出せてしまうのである。だから、ピーマンやシイタケのカレーを完食したりができるのである。
同じ旅は旅でも、私が熊野古道を歩きによく行く和歌山はどうかと言うと。
これは旅先であるにもかかわらず、「パンダべんとう」で決まりなのである。挑戦はしない。
もう古道に必ずパンダありな状態。
(回り道してやっと到着、パンダべんとうの話)
パンダべんとうは、ごはんの上に柔らかい唐揚げが乗っているお弁当なのだが、ごはんは鳥そぼろ弁当で錦糸卵も乗っていて、食べてみてびっくりだが、ごはんが2層になっていて真ん中に焼き海苔としそが敷いてあるというやってくれるじゃねえのな工夫。そして表面に高菜と和歌山の梅干しと奈良漬けがドドーンと乗っている。
何を隠そう私は梅干しが食べられない(だからしそも食べない)のだが、私が唯一口にする梅干し(としそ)がこの熊野古道で食べるパンダべんとうの梅干しなのである。だから梅干しのことをよく知らないんだけど、この和歌山の梅干しは特に美味しいと思う、知らんけど。挑戦はしないと書いたが、ある意味、パンダべんとうを選ぶということは梅干しを食べることで、かなり食において挑戦しているとも言える。
そして、唐揚げ大好き人間として40年以上生きてきたが、この唐揚げは冷めても美味しい、何なら冷めた方が美味しい類の唐揚げである。紀州梅を食べてるせいだろうか。
そう考えるとそんな紀州梅なら梅干し嫌いの私も食べちゃうよなそりゃ、と関連性があるようで無いのに、ある気すらしてくる。
熊野古道で食べている証明ができないくらい写真が毎回弁当にズームインしているが、正真正銘、熊野古道で食べている。
時には和歌山のバス停のベンチだが。
バックパックのチャチャをひっくり返して食べるパンダべんとう。
和歌山はいささかパンダに頼りすぎているが。
実はパンダべんとうは、以前はパンダのいるアドベンチャーワールドがある白浜駅と紀伊田辺駅の売店で販売されていて、熊野古道を歩く始まりの場所が紀伊田辺駅だったため、駅の売店で必ず購入していた。
しかし、最近駅舎が新しくなって売店がセブンイレブンに変わってしまい、紀伊田辺駅でパンダべんとうが買えなくなってしまった。
えーーーー!これを買わないと熊野古道に歩けない…。
メインはキャンプだったので仕方なく一度は諦めたのだが、前回の4度目のソロキャンプでまた紀伊田辺に寄ることとなったため、どうにかしてパンダべんとうが買えないか調べてみた。
もうそうなると、時間と労力が惜しい私の中の食のスティーブ・ジョブズはどこかに消え去っている。
どうやら駅弁の販売元の「味三昧」という業者が紀伊田辺駅から徒歩5~7分ほどの距離にあることが分かって、そこへ電話してみた。
すると、そこのお店まで行けばその場で作ってもらえることが分かった。
「なんと!できたてのほかほかのパンダべんとうが食べられるとは!」喜びいさんで味三昧のお店まで行き、パンダべんとうを作ってもらい、手に入れた時の喜びたるや。
いつもと全く一緒なんだけど、その場で作ってもらえた特別感のせいか、いつもよりもおいしい気がする。
唐揚げ1つのサイズが小さいのは子供向けに作られているせいらしいが、関係ありませんよそれは。誤嚥しがちになってきた大人にも優しいサイズ。
これからも、和歌山に来て熊野古道を歩く時、そしてキャンプをする時は、必ず紀伊田辺の「味三昧田辺本店」でパンダべんとう(930円)を作ってもらってこれを食べる。
これからも続ける。
飽きることなく食べ続ける。
これは決めていた方が楽だからという理由を超えている。
もう「熊野古道とパンダべんとうと私」は、歌にしちゃってもいいくらい切り離せないもの、セットなのである。
偏愛かもしれないが、ぜひ覚えておいてほしい。
あと、熊野古道の素晴らしさが全然伝わらないのでついでに数枚写真を貼ります。パンダべんとうとセットで覚えておいてほしい。