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欲しいもの以上の事

満員電車の日常にはすっかり慣れてしまい、あの頃の空いていた車内が懐かしくも、途中で座れるようになるとつい瞼が閉じてしまいがちな自分です。

なぜあんなにも電車の揺れとは心地が良く、眠りへと誘われてしまうのかいつも不思議でならないが、移動手段としての役割以外にもこうした副産物を感じている人は私だけでないはずと勝手に思ってます。


世の中にはありとあらゆる物やサービスが存在していて、それぞれにそれぞれの役割や責務や目的が存在していると思います。ボールペンには字を書く役割があり、電車には人やものを運ぶ役割があるように。


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価値観とニーズ


以前にも書きましたが、美容室や美容師の役割とはお客様に継続的な美の提供が主であり、日常においての身嗜みやキレイ、ひいては精神衛生までもその役割を担っていると自負しております。


美容室のサービスにもさまざまな幅があり、それこそカット専門店やカラー専門店からメンズ特化サロン、またヘアだけでなくネイルやマツエク、エステなどトータルで美を提供していたり、また価格帯もそれぞれです。


その中からお客様の価値観や判断基準の中で取捨選択が行われ、ご来店へと繋がる。お客様はインターネットを通して、または友人知人からの口コミを通じて価格や雰囲気、施術内容や立地などいろんな基準を元にして、自身が欲しいサービスを判断しているのでしょう。


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目的以外のこと


キレイでまとまるヘアを届けよう。ご要望に沿ったカラーにしよう。ツルツルサラサラなヘアにしよう。などなど美容師目線で考えると"キレイ"や"美容"がサービスである以上、この考えはごく当たり前で、お客様満足度としてもこのことが全て叶ったらアベレージ以上の評価はいただけるかもしれません。


ですが、自分たちが色々なサービスを受けるときに、また行きたい、もう一度訪れたいと思う理由は本当にそれだけなのでしょうか?


例えば、朝食を取る為に職場の近くのイートインできる店を探していると、なにやら最近できた噂の新しい店があるという。小道を歩いているとパンの焼けるいい香りがしてきた。その香りに釣られて店内に入ってみる。温かみのある木の温もりを感じる店内に今時珍しい電球色のランプ。豆から挽くコーヒーの香りと流れる音楽が心地よさを増幅させる。笑顔で微笑みを返す店員さんに心躍らされつつ、焼きたてのパンと挽き立てのコーヒーをすする。なんて心地のいい時間なんだろうか。この時ばかりは何も考えず心を無にしてこの空間を五感で感じていたいと思わんばかりである。この後の仕事がクリエイティブに捗りそうである。


なんて小説の一節みたいな想像をしてみるけど、事実としてパン屋さんとはパンを売り物にしている。もちろんパンが美味しいからという一つのきっかけを基に通うのであり、味が先頭バッターであることは間違いない。

だけど、選択肢として味以外のことも自分はとても重要なのではないかと考えてしまう。



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感覚的なものの重要性


パンが焼ける香り、コーヒー豆を挽く香り、温かみのある店内インテリア、感じのいい接客、流れる音楽、居心地の良い空間、美味な味そのどれもが、また来たいと思わせる選択肢の一部として印象に残っているのではないだろうか?


人に何かを訴求する事は、何も目に見える事実だけではないことが多い気がします。そこに存在する香り、見た目、味覚、音、雰囲気という感覚的なことが多いに関係していると感じます。そしてそれは言葉では言い表せないなんとなく心地よい感じ。もしかしたら選ぶ基準とは、そんなぼんやりした事が多いのかもしれません。


それは人に伝えるには表現が難しいことや、また人それぞれが求めていることが違うし、そして感じ方が違うから、一概にこれがいいという定義が難しい。商品そのものだけを判断するなら基準はあるだろうけど、感覚的なものには答えがない。だけどもしあるとするならそれが自身にとって心地いいかどうかだということ。



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ファンになっていただく


美容室における売り物はヘアデザインである。前述でもお伝えしましたが、毎日の生活において、そして身嗜みというカテゴリーではそれはかなりの比重を占めていると思っています。


だから私たち美容師は日々の研鑽と流行りを加味しながらも、そのお客様のその人らしさに向き合うことが大切だと感じます。


そのことは美容として先頭バッターではあるが、そこに付随されるスタッフの接客応対、店内インテリア、流れる音楽や水の音、ハサミのリズム、シャンプーの香りや調光そして、雰囲気など感覚的なことへの訴求も選ばれる一つの要素なのかもしれないと思います。


もちろんお客様が、"あなたの作るヘアデザインが好きだから"と言ってもらえる事が本望であり、美容師冥利に尽きると言っても過言ではないと思います。ですがそれ以上に、お客様がお店のファンになってくださることが僕自身はこの上なく嬉しい。


個人経営であればあるほどこれは直結することであり、組織になると決まった空間で決まった人たちと共同で行っていく。だからとても難しいが、それはそれでやりがいもある。


そしてお店のファンなってくだされば、例え自分が何かの拍子でハサミを持てなくなってしまった時もお客様が路頭に迷わずに済む。


また、アシスタント時代にシャンプーさせていただいたお客様を自分がスタイリストになった時に担当できる喜び、そしてそれを応援してくださるお客様がいてくれること。


そしてなによりも、個人としては何か新しいことを打ち出すのには限界がある。だけどお店単位なら打ち出すイベントや企画も格段に幅が広げられる。お客様も働くスタッフもマンネリ化しなくなる。


新しい何かにチャレンジしている空気は伝わり、楽しみに思ってもらえたり、応援してもらえたりと。


きてくれた方が心地いいと感じてもらえる空間。そしてまた来たいと思ってもらえる自分たちやお店であるかどうかを、常に自分に問えるかどうかがとても大切なような気がします。


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まとめ


何度も書いてしまうが、美容師の提供するサービスはヘアデザインである。お客様の髪を綺麗に美しくそしてご満足いただけるようにと。


そしてそこには、ほんの少しの非日常感や、癒し、雰囲気、シャンプーの香りやシャワーの音、スタッフの応対や笑顔など、様々な要素が加味されている。


故に僕らの仕事とは、五感を刺激し、お客様の髪だけでなく心も満たせられることがとても大切なんではないだろうか?


そして沢山のお客様がヘアスタイルをそしてお店を気に入ってくださり、また足を運んでもらえることが本当にありがたいし、それこそファンになっていただけることが最大の喜びである。


一人ではできないことも、お店単位で目指していくことでそのスケールを大きくすることができる。


自転車では己との戦いでどこまでもいけるかもしれないが、体力の限界がある。それに比べれば電車は沢山の人の手によって、どこまでもどこまでも運んでくれる。そしてそこには移動という手段だけでなく、心地よい揺れ、移りゆく景色、広告から見る社会経済の現在や、今を生きる人々の髪型やファッションなど、沢山のことが得られる。


お客様にとっても、また働くスタッフにとっても欲しいもの以上のものがここにあれば、選んでいただけるし、ずっと働きたいと思うのではないかなと思う秋の夜長のコラムでした。





















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