将棋から麻雀へ。いまMリーグが面白い

 昨年の9月に僕はこの欄で「将棋にハマっている」というタイトルで将棋にまつわる記事を書いている。それを書いた頃は王座戦の真っ只中で、世間でも「藤井八冠」誕生なるかが大きな注目を集めていた時期だった。

 ご承知の通り藤井聡太竜王・名人が王座を獲得し、全タイトル制覇となる「八冠」を達成。大きな話題となったことは記憶に新しい。さらに加えて言えば、その「八冠」をいまもなお維持しているわけだ。これを驚異的と言わずしてなんと言おう。それだけに現在2勝2敗で最終局を迎える叡王戦第5局(6月20日)はとりわけ目が離せないものになっている。どちらが勝ってもニュースになる。挑戦者の伊藤匠七段も含め、まさに将棋ファン必見の対局だ。

 将棋にハマってからというもの、タイトル戦やNHK杯戦はもちろん、ABEMAで放送されている地域対抗戦やトーナメント戦(チーム戦)といった対局にも目を凝らすようになった。タイトル戦やNHK杯のような公式戦ではなく、お祭り的なムードが漂ういわゆる非公式戦なのだが、普段はあまりお目にかかれない棋士たちの一面が垣間見えるなど、個人的には視聴を楽しみにしている番組のひとつだ。

 ところが、そんな将棋にハマって1年以上が経過したいま現在、僕の目の前に突如として将棋以上に輝きを増して見えるものが出現した。依然として将棋にも目を凝らしているのだが、少なくともこれから記すもののほうが「熱量」は断然上になる。

 そのものとはズバリ、麻雀。Mリーグである。将棋と同じくABEMAで放送されているこの日本初のプロ麻雀リーグに、昨シーズン(2023-2024)から一気にのめり込んでしまった。

 Mリーグが発足されたのは2018年7月。昨シーズンは創設から6年目のシーズンだったわけだが、筆者がこのMリーグに興味を抱くきっかけとなったのは何を隠そう、アメトーークの「Mリーグ芸人」(2023年1月12日放送)を見たことにある。

 この「Mリーグ芸人」の回が面白かったことはもちろんだが、それ以上に個人的には“麻雀”そのものの魅力に再び気付かされてしまった。というのも、筆者は高校生の頃、親戚の大人たちと混じってよく麻雀をしていた時期があるのだが、当時麻雀にハマっていた熱が「Mリーグ芸人」を見たことで再び蘇ってしまった。そんな感じになる。

 麻雀が面白いことはもちろんだが、このMリーグというコンテンツが面白い。麻雀にハマったというより、Mリーグにハマった。個人的にはそうした言い回しになる。

 1試合見るだけでも十分楽しめる。そこにはプロの技術がこれでもかというほど凝縮されているのだ。

 「麻雀は実力が3割、運が7割」という言葉もあるように、勝敗が運に左右される場面はとりわけ多い。だが、アマチュアの筆者には運よりもプロ雀士の実力を感じる場面のほうが圧倒的に多い。それを特に感じるのは、いわゆる危険を察知する能力だ。相手の当たり牌はまず打たない。敵の攻撃をかいくぐる力になにより驚かされる。個人的にはプライベートで麻雀を打つ際の大きな参考にさせてもらっている。

 試合自体も面白いが、そこには当然魅力溢れる選手の存在も欠かせない。9チーム(1チーム4人)となった昨シーズンのMリーガーは全36人。Mリーグを視聴するまでは知らない人たちばかりだったが、何人かは見たことがある人もいた。そんな現役のMリーガーの中でいま最も旬な存在と言えるのは、KADOKAWAサクラナイツ所属の岡田紗佳選手だろう。

 優れたルックスを武器にモデルやタレントとしても活躍する、現在のMリーグを代表する選手のひとりだ。そんな岡田選手を筆者が初めて目にしたのは、7年ほど前の水曜日のダウンタウン(2017年4月19日放送)だったと記憶する。松本人志さんの横にパネラーとして座っていた。当時は売れっ子というより「スタジオに1人はいる知らない女性タレント」という感じだった。

 そこから6年ほどが過ぎ、先述のアメトーークでMリーガーとしての活躍が取り上げられて以降、昨年あたりからメディアでの露出はまさに急増。クイズ番組やトーク番組など、岡田選手の姿を見かける機会はここ最近はとりわけ多い。昨年3月にはプロ雀士としてドンジャラをするためだけに「ラヴィット!」(TBS)に出演したこともあったが、いまの岡田選手にはさすがにさせられないだろう。そのタレント価値はまさに1年前を大きく上回った状態にある。

 岡田選手は言ってみればMリーグのアイコン、その象徴的な存在だ。タレントとしての彼女の活躍とMリーグの発展は深く関わっている。岡田さんがタレントとして活躍するほどMリーグも宣伝されるわけで、両者はまさにWin-Winの関係にあると言える。さらに言えば、いまの時代に重宝される物事をハッキリ述べる系のタレントだけに、この先さらにもう一段ブレイクする可能性は高い。

 タレント的な活躍が目立つMリーガーは岡田選手だけではない。岡田選手を除くその代表格はTEAM RAIDEN/雷電所属の萩原聖人選手。数々の映画やドラマなどに出演してきた有名俳優のひとりだ。その他ではKONAMI麻雀格闘倶楽部に所属する声優の伊達朱里紗選手、現役の医師でもある赤坂ドリブンズの渡辺太選手など、プロ雀士以外の顔を持つ選手が実は結構いる。そうした俗に言う「二刀流Mリーガー」の中でも昨シーズン、特に話題をさらった選手、有名人が2人もいた。新たに新規参入したBEAST Japanextに指名された2人の新Mリーガーといえば、Mリーグファンならばお分かりいただけるだろう。

 まずひとりは中田花奈選手。言わずと知れた乃木坂46の元メンバー(1期生)だ。乃木坂46にさほど詳しくない筆者でもその顔は知っている。麻雀好きというのはうっすら耳にしたことはあったが、まさかプロ雀士としてMリーグの舞台を踏むとは。率直に驚いた。

 アイドルグループを卒業後、タレントとして埋もれていく人は数多くいるが、そうした意味では中田選手は例外だ。その特別感は半端ない。乃木坂時代から熱心に見てきたファンはどう思っているかはわからないが、少なくとも僕にはいま現在の中田選手がとても格好良く映る。タレントとしても、アイドル時代よりその存在感は数段上。白石麻衣さんや秋元真夏さんといった有名メンバーよりむしろ輝いて見えると言えば少し言い過ぎだろうか。

 アイドル時代の印象は比較的薄いが、その分、Mリーガーとしての現在の姿には親近感が湧く。そんな中田選手だが、デビューした昨シーズンの個人成績は36人中35位と、結果としてはMリーグでプロの洗礼を浴びることになった。出場試合数14も全選手最小。まだキャリアが浅いこともあるが、1年目は成績的にチームに貢献することはできなかった。

 すでにMリーガーとして実績のある岡田選手とは違い、中田選手はまだ経験が少なく、選手としての信頼度も正直なところ低そうに見えた。先述の出場試合数を見ればそれは一目瞭然。2年目となる来シーズンに期待したいが、そんな中田選手とは裏腹に、新チームBEASTで昨シーズン最も出場試合が多かったのが、将棋のプロ棋士として初のMリーガーとなった鈴木大介選手だった。

 中田選手のタレントとしての知名度はそれなりに高かったと思うが、こと有名度合いに関しては、このチームメイトの鈴木大介選手も決して負けてはいない。

 少なくとも将棋ファンでこの方を知らない人はいない。現在こそ順位戦のB級2組に所属するが、最高リーグのA級に4期も在籍した経験を持つ九段の棋士である。タイトル獲得こそないが、将棋界最高段位の九段まで昇段する人は数えるほど。その全盛期は文句なくトップ棋士のひとりに数えられた。そんなトップクラスの九段の棋士がMリーガーになったことは、将棋好きの筆者としては中田選手以上に喜ばしいものだった。

 岡田選手、中田選手はもちろんだが、この鈴木大介選手の存在も昨シーズンのMリーグの盛り上がりと深く関わっていたと僕は思う。成績的にはいまひとつ(36人中24位)だったが、キャラクターも含め、その雀風や打ちっぷりに魅了された人は決して少なくなかったはずだ。
 繰り返すが、九段のプロ棋士である。この文章を書いている現時点では、今期王座戦の挑戦者決定トーナメントでベスト4まで勝ち残っている。つまりあと2回勝てば、鈴木九段は挑戦者として藤井聡太王座に挑戦することができるわけで、そうなればまさに偉業。二刀流(棋士とMリーガー)としてそのカリスマがさらに一気に跳ね上がるわけで、この王座戦の対局も大いに注目を集めること請け合いだ。麻雀界と将棋界、いまやどちらの世界においても特別感漂う存在となった鈴木選手の今後から目は離せなくなっている。

 Mリーグは現在シーズンオフ。この間にはMトーナメントといういわゆる個人戦が行われているが、やはり見ていて面白いのは団体戦だ。チームが次のステージに行けるかどうか、そのトップ争いやボーダー争いに何より見応えがある。

 中田選手、鈴木大介選手が所属するBEAST Japanextは来シーズンも同じメンバーで戦うことが先日発表された。それすなわち、もし来季もレギュラーシーズンで敗退(7位以下)となれば、規定によりチームは最低1人のメンバー変更を余儀なくされることになる。1人だと角が立ちやすいのでおそらく2人の入れ替えが既定路線だと思うが、とにかく来季は背水の陣であることに変わりはない。BEAST(昨季7位)と同じく昨季レギュラーシーズン敗退に終わったTEAM RAIDEN/雷電(8位)とセガサミーフェニックス (9位)も同様。来シーズン、少なくともこの3チームは絶対に負けられない戦いとなるわけだ。個人的には昨季の上位チーム以上に目を凝らしたくなる。

 昨シーズン優勝したのはU-NEXT Pirates。全ステージで首位の完全優勝だった。早い話がダントツだ。その優勝争いに特段ハラハラとした展開は少なかった。そして昨季は、麻雀の華とも言える役満和了がMリーグ史上初めて一度も出なかった。

 優勝チームの圧勝。役満ゼロ。これだけ見ればつまらないと感じる人もいるかもしれない。だが、筆者の印象はまるで違った。昨季初めてフルシーズンMリーグに目を通して感じたのは、試合そのものが滅茶苦茶面白いということだった。予想もつかない和了、逆転劇は数えきれない。そこにアメトーークでも紹介された日吉辰哉さんの実況などが加わると、見応えはさらに増した。役満こそなかったが、役満聴牌はいくつもあったわけで、その時の緊張感やスリルは視聴しているこちらでさえワクワクする、まさに最高のエンターテインメントのひとつだったとは率直な感想になる。

 そんな僕が挙げたい昨シーズン見たなかで最も印象に残った試合は、3月21日(火曜日)の第1試合。ハイライトはTEAM RAIDEN/雷電の本田朋広選手が役満・四暗刻(単騎)の聴牌まで辿り着いたオーラスの南4局になる。聴牌となったその時、山に当たり牌(五萬)はまだ3枚も残っていた。その直後に立直をかけたBEASTの猿川真寿選手にあがられ惜しくも実らなかったが、その聴牌までの過程にこちらは痺れた。しかもオーラス。もしあがっていれば大逆転のトップとなっていたわけで、チームの残留争いにも大きな影響を及ぼしていたに違いない。この本田選手の四暗刻(単騎)聴牌が、昨シーズン筆者が目にしたMリーグナンバーワンシーンとなる。

 役満ついでにもうひとつ挙げたいのは、同じく実りはしなかったが、小四喜・字一色のダブル役満の聴牌を見た3月29日(金曜日)の第1試合南2局だ。披露したのはKADOKAWAサクラナイツの堀慎吾選手。もし成就していれば96000点(親番)。その聴牌打牌が相手の当たり牌で放銃となりダブル役満は幻に。「降りれないです」と、悔しそうに漏らした試合後のインタビューに、役の価値とその思いの程が窺い知れた。小四喜と字一色。どちらもまだMリーグでは出ていないが、それを同時に見られるところまでもう一息だったこの試合も筆者の印象に強く残っている。

 国士無双、大三元、四暗刻。Mリーグではまだこの3種類しか出ていない役満だが、はたして新たな役満を達成するのは誰か。来シーズン、注目したいポイントだ。

 お笑い絡みで言えば、Mリーグを見るようになってから、その関連番組に出演する芸人の姿もよく目にするようになった。田中裕二(爆笑問題)や児嶋一哉(アンジャッシュ)などがその代表格になるが、個人的に急上昇したのはじゃい(インスタントジョンソン)になる。知る人ぞ知るお笑い界きってのギャンブル好き及び麻雀好きの芸人だ。アメトーークの「Mリーグ芸人」を見た時も感じたことだが、この人の喋りはなかなかいい。トリオではネタ作りを担当していることもあってか、面白味を感じさせる喋りを随所で披露する。その知名度の割に実力があるといえば失礼だろうか。ギャンブル絡みではなく、もっと普通にも活躍できる力があるとは率直な印象。今後Mリーグが成長するほど、この人の株も上がる。そんな気がする。

 麻雀にかつてのダーティーで不健康なイメージは少なくとも筆者にはない。Mリーグを見ているとつくづくそう思う。「麻雀は頭脳スポーツ」とはMリーグが掲げるキャッチコピーらしいが、スポーツかどうかはともかく、試合自体はとにかく抜群に面白い。昨シーズンも新たなチーム(BEAST)が参入したように、今後もチーム数及びその規模は少なからず肥大していくことが予想される。Mリーガーに関しても、先述の中田選手や鈴木大介選手のような有名人が新たに加わる可能性も高い。今後も筆者のような新規のファンを獲得していきそうなムードを感じるが、はたしてどうだろうか。

 近ごろ「麻雀ブーム」という言葉をちらほら耳にすることもある。麻雀のルールが理解できて、なおかつABEMAに加入していること。これが少なくともMリーグファン(になる)最低限の条件だろう。この両方の条件を満たしていなければ、少なくともMリーグが視界に入ることはあまりない。新規のファンを獲得することは意外と難しそうにも見える。

 麻雀の普及と発展に大きく貢献しそうなこのMリーグというコンテンツ。少なくとも試合のエンタメ性や話題性はいまのところ十分ある。将棋ブームに続く、目に見える麻雀ブームははたして起こるのか。その辺りの可能性も含め、来シーズンのMリーグにも目を凝らしたい。

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