セイジ・オザワに捧げる音楽祭
今年もまた、セイジ・オザワ松本フェスティバルが長野県松本市で開催されています。
1992年に始まったこのフェスティバルは、いまではすっかり松本の夏を彩る一大祭典として定着し、街のいたるところではためく青のフラッグを眺めるのも楽しみのひとつとなっています。
2024年2月に小澤総監督が永眠されてから、はじめてのフェスティバル。
開催されるのか、どうなるのか?
気になっていましたが、予定どおり開催されると知り、とても楽しみにしていました。
昨年は伊那会場で無料のスクリーンコンサートを楽しみましたが、ことしは行ってきましたよ、現地へ!
入口は撮影スポット、みなさん写真撮影にいそしんでいます。
もちろんわたしも、パシャリ。
この会期中のキッセイ文化ホールはちょっと特別。
いつもとは大分雰囲気がちがい、まるでヨーロッパの〇〇音楽祭のような文化的な香りがただよっているのです。
はやめに会場へ着いたので、グッズ売り場をみたり(CDとステッカーを買いました!)、来場者の人間観察をしたり。
わたしは飲みませんでしたが、ワインの試飲コーナーもあって賑わっていました。こういう雰囲気、いいですね~。
なんとなく、以前ほど人がごった返していないような、都会的マダムの姿が少ないような気がしたのですが、席についてみて、それが気のせいではないとわかりました。
2階席から会場を見渡すと、開演間際になってもまだ空席がちらほら見えます。やはり小澤さん不在の影響は大きいということでしょうか。
マエストロが旅立ったからといって、そう簡単にオーケストラの音は変わらないし、むしろだからこそ、今年は熱い思いがこもった演奏が聴けると期待していました。
2024年8月22日 <オーケストラ コンサートCプログラム>
なんと、ブラームスの交響曲2本立て。ブラ祭り!
こんなプログラムはなかなかお目にかかれません。
バッハやベートーヴェンと並んで、ドイツ3B(ドイツの偉大な作曲家3人の呼び方)のひとりであるブラームス(1833-1897)は、生涯4曲の交響曲を生み出しました。
サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)にとっては、初録音の曲がブラームス4番、その後1番・2番・3番と続き、SKOの歴史そのものと言っても過言ではありません。
🎶 🎶 🎶
さてその交響曲第3番(略してブラ3)、
NHK交響楽団で正指揮者を務める下野竜也氏が登壇し、めくるめくブラームスの世界の始まりです。
冒頭からズシっと重厚な弦楽器の迫力、
あぁ、これだ!
この音!
一瞬でSKOのうねるような音の渦に心をさらわれ、そこからはブラームスの海をただ流れに身を任せて、たゆたうのみ。
はじめはステージ上のメンバーの様子を目で追っていましたが、しばらくして止めました。目を瞑り、音に集中します。
耳から、肌から、伝わる空気の振動。
一音一音にこめられた、音楽への情熱。
これはまずい。
こんなすごい演奏を聴いてしまったら、もう他のオーケストラのブラームスでは物足りなくなってしまいそう。
SKOの演奏はこれまで幾度か聴いてきたし、群を抜く上手さなのは知っていたけれど、それでもなお、こんなにも心を揺さぶられるなんて。
喉の奥が熱い。
鼻腔がツーンとする。
第一楽章が終わりに差しかかったころ、目にはじんわりと涙が浮かんでいました。
ーー 休 憩 ーー
後半はブラームス交響曲第4番(略してブラ4)。
この曲を聴くのは初めて。
前回フェスティバルに足を運んだ2016年、当初この曲が演奏される予定でしたが、小澤総監督の体調面の大事をとり、ベートーヴェンの交響曲第7番に変更されました。
それはそれで好きな曲だから良かったけれど、わたしにとっては8年越しのブラ4、とても楽しみにしていました。
その演奏、感想をひとことで表すと、
す、すごい・・・
ささやきのような、或いはため息のような出だしから始まり、ドイツ作曲家らしい古典的要素が強い曲かと思いきや、ときに哀愁ただよい、ときに情熱的で、そのまま映画音楽として使われそうなドラマティックな音楽展開。
なるほど、これは体調に少しでも不安があっては演奏に集中できないであろう激しさです。あたまが空っぽになるほどに夢中になった40分間でした。
それにしても、
もう、うっとりです。
これぞドイツロマン派音楽!
どうしてこんな素晴らしい曲をこれまで知らずにいたのか・・・まったく。
これからしばらくは、覚えてしまうくらい繰り返し聴こう。
夢のような時間はあっという間。
拍手のしすぎでひりひりする手の平と、頭のなかで流れ続けるブラームスの余韻にひたりながらの帰りみち。長野道を伊那へ向かって走る車の窓から、燃えるような空がみえました。
偉大なマエストロ亡きあと、このさきもどうかフェスティバルが続いて欲しいと願わずにはいられない夜でした。
何度でも、聴きに訪れたい。
ここまでサイトウ・キネン・オーケストラを育て、松本のまちにフェスティバルを根付かせてくれた小澤征爾さんに、心からの感謝をこめて。
ありがとうございました。