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感想 雪のひとひら/ポール・ギャリコ


 空から生まれ降りてきた「雪のひとひら」に女性の一生を仮託して描いた短編小説。

 なのだが、中盤で「雨のしずく」くんが登場するまで雪のひとひらが女だという描写は特にないので、ろくに裏表紙も読まないままブックオフで立ち読みした段階では男だと思っていた。

 つまりは「自分を雪のひとひらだと思い込んでいる小さいおっさん」の話だと冒頭を読んで思ったのである。きもすぎて即レジへ持っていった。

 たまーにこういうおもしろ誤読に巡り合えるので、自分は古本屋で立ち読みするときにはあとがきや紹介文をあんまり読まない(読んだ方がよい)。

 小説の出来としては工夫が足りていないというか、不自然さが際立っている。三人称視点ではあるが一人称的な視点漏れが読んでてしんどい。空から降りてすぐ、見たこともないであろう「宝石」を知っていたりする。

 例えばアルジャーノンみたいに「雪→水」「川→水車」と場面転換していく中で文体を変化させたりとか? もっと遊んでもよい。

 女性の一生をキリスト教的な内省(創造主の意思とは?)を交えながら類型的に書いているようだが、雪のひとひらは空から降ってきたのに雨のしずくとの間に子供をもうけていたりと、ファンタジー小説としてみればだんだん設定が雑になっていく。

 しかし女性を雪のひとひらに異化することでようやく個別具体性を取っ払って「女性一般の類型」を描けるというやり口は分かりやすいし、その題材に雪のひとひらを選んだのは実際センスがよい。普遍的で、きれいで、そして汚れるから。

 起承転結も良く、雪山や川の水面や海へ行ってからの「老い」を象徴するような苦労の連続など、場面場面で生起していることやその描写も良い。

 話のまとめ方も王道で、古臭くて悪くはない。

 橇(そり)に乗る女の子の快活さや、雪だるまを哂う楽しさや、雨のしずくと川の流れのように愛し合った記憶など。瞬間、瞬間がきらりと光れば、それを思い出して死に際には安らかに天に帰れる。

 最近見た映画の「CATS」のようだなと思う。メーモリー。ふふふふふふーふふーん。

 今リメイクして書くとしたら、雨のしずくに出会ってから突然女として目覚める辺りをもうちょっと工夫して……とかこねているとシンプルさがなくなるんだろうか。なかなか難しいよね。今の時代の女性一般の類型なんて。



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