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躊躇った先に居る私

その仔は
助けを求めていたのか不安からか、早朝から鳴いていた。その内うちの猫も鳴き止まないその声に反応し、窓に神経を注ぎだした。


耳をピンと立て、窓辺に近づいては目を見開いてその声から何か情報を得ようとしていた。


土曜の朝8時前、まだ辺りは起ききってなく
光のない朝にその声は雲に反響しているかのように音を広めた。


流石に気になってベランダに出る。
どこだ…?見えるかな?
きょろきょろと左右を視線を下向きにして探す。


あれか…
向かいのマンションの階段に黒く曲線的な生き物発見。子猫だ。
階段とは言え勝手に入っていいんだろうか?あそこはオートロックのマンションだ。そもそも入れない。


人間の私が入れないオートロックのマンションへどうやって入った?飼い猫が出ちゃったかな…。



答えも正解もここには無い。
ないけれど考えてしまう。そして一旦、部屋に入る。飼い猫の逃走なら捕獲されて無事終わる話。野良猫が迷いこんでいても、じゃ保護して飼えるかというと即答出来ない。


無責任ながら勝手な思案。



もう一度、ベランダへ出てその仔を見た。
自分で階段を登り下りするところ、声の高さから生後半年未満か。


と、上階からスーツ姿の男性が階段を下りてきた。飼い主現れたか、とホッとしながら動向を見ていると仔猫の上の階でまた上へ戻ってしまった。



違ったかな…さてどうする?
物件内の猫を保護というより、飼い主の捜索が先だ。どうやって?それは簡単に進む話じゃない。はぁ…解らない。


するともっと上の階から、男性が階段を下りてきた。仔猫は登ったり降りたりしながら結局、最初に見たところと同じ所にいた。


男性がその仔に近づく。あ、やっぱり飼い主さんか。それは良かったと思いながら見ていたら


抱き上げた黒い仔は男性の腕の中でぴょんぴょんと弾けるように飛びあがり、それを捕まえようと男性の両手が動く。


その仔は恐怖を爪に込めたのか、
痛ってぇ!!と男性は言葉にし腕を飛び出したその仔に左脚を振り払い、蹴る仕草をした。


ちら、と男性は左下を見てから自分の両腕を何度も見て痛ってぇな、と階段を振り返らず上がって行った。
あんなに鳴いていた声は、途端無くなったがその脚が当たったのか空振りなのか見えない角度だった。


今の何…?
目の前の事象が噛み砕けない。
況してや飲み込めない。
何が起こったんだ。


曇った土曜の朝、静けさがやけに響く。
続いていた声が途絶え、静寂は戻ったのに耳鳴りみたいな静けさが高音で聞こえているようだ。


私はそこへ入れない。
その黒い仔はどうなったのかとても知りたいのに、動く術が分からない。
見たことを説明出来ない。


ただ、後悔に似た何かが蔓延る胸に
一瞬振り向いた黒い仔の残像がある。

いっそ、マンションに行った方が良かったのか警察に電話して…何をどう説明するのか解らないが躊躇った先に、今の私が居ることだけが確かだった。

その私は
うちの猫をただ、両手で抱きしめた。

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読んで下さりありがとうございます。
何が起こったのか、どうなったのかを知ることも出来ずただそのマンションの前を覗いて見たり、ベランダから階段を眺めるだけでした。
皆さんならどうされたでしょうか?
今でも何か出来ただろうかと考えてしまっている。


そんな今日、ママは朝起き抜けにランチパック照りたまをペロッと平らげ運動へ行き、安穏とした時間を過ごした。


私は米を買いに行き、10kg6000円超という今年初めの倍に近くの値段で手に入れた。


躊躇った先にいるため、植物の最低限のお世話で心は収縮したままだった。


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咲く麦茶
これからも人の心に何かが灯る記事の為と猫のために大切に使わせて頂きます(*´▽`*)