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今夜も、あたたかくして、おやすみ

単身赴任中の夫・ぺこりんと毎日電話をしている。

会うのにはかなわないけれど、電話で声を聞くだけでも、やっぱりほっとする。

今回は、そんなぺこりんとの電話にまつわる小ネタのつめあわせをお送りします。



hmmm hmmm…

いつもは夜に電話するが、ときどき、朝に電話する。

朝は夜よりバタバタ忙しいことが多くて、のんびり電話できないけれど、朝に電話するメリットもある。

それは、朝のねむそうなぺこりんの声が聴けること!

ねむいぺこりんの声は、ぽやぽやだ。普段からぽやぽやだけど。ねむいときは、ぽやぽやがマシマシになる。

あまりにもねむいと、こちらが何を話していようと、ぺこりんの返答は「hmmm…hmmm…」になる。

「ふむ、ふむ」でも、「うん、うん」でもなく、ハミングのような「hmmm hmmm」なのだ。

ぺこりんの寝顔をなにかに例えるなら、羽根を休める天使ちゃんといった風情なのだが、そんな寝顔を脳内再生しつつ、ぺこりんのぽやぽやな声を聴くのが、私の朝の楽しみなのだ。

「こんなにねむそうなんだから、寝かせておいてあげなよ」という天使の声と、「でも、このかわいい声が聴きたいんだい!」という悪魔の囁きが私の中でせめぎあい、いつも悪魔の囁きが圧勝する。

私が電話したときには、ぺこりんが既にすっきりと目覚めていることもあり、そういうときはいつものぺこりんがおしゃべりしてくれる。

けれど、ぽやぽや度MAXのぺこりんを期待している私は、「あれ、期待していたのとちがう…」とこっそり思ってしまうのである。


お呼びでない

友だちと横浜で会うことになっていた前の晩、明日横浜でみんなに会うことをぺこりんに話した。

すると、ぺこりんはとても悲しそうな声で「呼ばれてないよ」と言う。

だって呼んでないもん(笑)

会うことになっていた友人は、全員ぺこりんと会ったことのある子だったし、ぺこりんと一緒にごはんを食べたり、一緒にボードゲームで遊んだりした仲ではあるのだけど。

友人たちと会った日。
「今日のことをぺこりんに話したら、“呼ばれてないよ”って嘆いていたんだ」と教えた。

「ぺこりんさんっておもしろくて、かわいいよね」「ももちゃんのお家に行ったとき、一緒にボードゲームしてくれたね」「おいしいコーヒーとお茶も淹れてくれてたよ」と友人たちが笑顔で話してくれた。

私の友人が来るとき、ぺこりんは「緊張するなぁ」と言いつつ、数日前からどのボードゲームで遊ぼうかなぁ、おいしいお茶買っておかなきゃ!などと私よりもソワソワして、いざ友人が来ると緊張など微塵も感じさせずににこにこして一緒に遊んでもらっている。


横浜に行った日の夜、私はぺこりんに電話して、「ぺこりんが呼ばれてないって嘆いていたことをみんなに話したら、ぺこりんさんかわいいねって言ってたよ」と報告した。

ぺこりんは、「それで、それで?」と尋ねる。

私は「それで?」と聞き返す。
それで、おしまいだけど。

「それで、今度こそ、ぺこりんのことも呼んであげようねって話になったのかなと思って」

「いや…、そういう話にはならなかったかな」
と伝えると、
ぺこりんは「そっかぁ…」とショボンとしていた。

心優しい皆さん、ぺこりん込みのお誘い、心よりお待ちしております。


かわいすぎる部下


ぺこりんは最近ボーナス前の面談があったらしい。

「面談で、上司からショックなことを言われた」とぺこりんが言う。

むむむ、ぺこりんにパワハラなどしようものなら、この私が黙っておりませんよと穏やかならざる心持ちでつづきを聞く。

「上司からさ、『ぺこりん君は、かわいすぎる!』って言われたんだ。」

…かわいすぎる?

ぺこりんの上司さん、パワハラを疑ってごめんなさい。
私もその意見には大賛成です。

「『ぺこりん君はいつも一所懸命でかわいくて。なんだか応援したくなるんだよ!』って言われたんだけど…。」

なるほど、なるほど。
その上司さんとは、仲良くなれそうな気がするぞ。

ぺこりんの仕事ぶりはよく知らないが、家事を頼んだときは嫌な顔ひとつせずやってくれるし、そのうえ心底楽しそうなのだ。

たとえば、「お米を研いでほしい」と頼むと、ぺこりんは蓋のついた容器に水とお米を入れて、シャカシャカとまるでマラカスを振っているかのように楽しげに米を研ぐ。普通にボウルとザルで研いでほしいな…と結婚当初は思っていたが、ぺこりんが楽しそうならそれでいいやと温かい目で見守ることにした。

きっと上司さんも、なんでも楽しそうに引き受けてくれるぺこりんを温かい目で見守ってくれているにちがいない。

とはいえ、かわいがられすぎて、単身赴任先から帰してもらえなくなると困るから、ほどほどにかわいがられてほしい。


思慮深さとは

夜遅かったから、もう寝ているかなと思いつつも電話をかけた日、ぺこりんは案外すぐに電話に出てくれた。

「起きてたの?」と聞く。
「うん、ちょっと考えごとをしていたんだ」ぺこりんが答える。

「考えごと?珍しいね」
「ううん、ぺこりんは思慮深いからさ。全然珍しくはないんだけどさ」

たぶん思慮深い人は、自分のことを思慮深いとは言わないと思う。

「何を考えていたの?」
「うーんとね、えーっとね」とぺこりんは言葉を探している。

ちょっと言いづらいことのようだ。
急かさずに、ぺこりんの言葉を待つ。

「あのね、今日、テレビショッピングを見ていたらね」

ん…?ちょっと嫌な予感がするぞ。

「そのプレゼンターの人のプレゼンが、あまりにもすばらしいからさ。」

うん、うん…?

「1万円のフライパンを買ったの。すばらしいプレゼンだったんだよ。プレゼンターさんへの賞賛を込めて注文したんだ」とぺこりんは言う。

あー、買っちゃったのかぁ。

1万円のフライパンは高い気がするけれど、ぺこりんは私よりも稼いでいるし、欲しいものを買うのは別に悪いことではない。フライパンは以前からもうひとつあってもいいねと話していたし。

それにしても、テレビショッピングかぁ。

思慮深さはどこに行ったんだよ、と心のなかでツッコむ。

「おいしいガレットがつくれちゃうんだって。ももにも、ぺこりんがおいしいガレットつくってあげるからね。あとはなにをつくろうかなぁ。あれもつくれるかなぁ、これもつくれるかなぁって考えていたところで、ももから電話が来た」

ぺこりんがほくほくと楽しそうだから、ちょっと高い買い物だけど、まぁいいかと思うことにした。
私も2万くらいするストウブ鍋使っているし。

しかし、金輪際ぺこりんにはテレビショッピングを見せないようにしようと固く心に誓った。


ぶどうのピンバッジ

京都旅行中、ぺこりんが私の父にお土産を買った。
ぶどうのピンバッジだ。

先日、私ひとりで実家に帰省したとき、ぺこりんからだよと言い添えて、父にそのピンバッジを渡した。

父は喜んで受けとって、さっそく帽子につけていた。

ぺこりんからのお土産
反対側にはスヌーピー

「どうして、ぺこりん君はこのピンバッジを選んでくれたんだろう?」と父に聞かれる。

「さあ、なんでだろう。ぺこりんがかわいいと思ったものをあげたくなったんじゃない?」と言ってみる。

「もしかすると、ぺこりん君は、このポシェットのピンバッジを覚えていたのかもしれないなぁ」と父がポシェットを見せてくれる。

ポシェットについている
カワセミのピンバッジ

うーん、ぺこりんはそんなところまで見ていたかなぁ?しかも、それを覚えているだろうか?
たぶん、ただなんとなくこのぶどうのピンバッジをあげたくなったんだと思うけど…と思いつつ、そうかもしれないねと答えた。


自宅に帰ってきた日の翌朝、ぺこりんに電話する。
「お父さん、ピンバッジ喜んでたよ。さっそく帽子につけてた。」

「あれ?帽子?ポシェットじゃなくて?」
ぺこりんは、少し困ったような声で言う。

父の言っていたとおり、ぺこりんはあのポシェットについていたピンバッジを覚えていたのか。

「あのぶどうはね、カワセミの餌だよ。」

カワセミの餌…?

ああ、ぺこりんのあのぶどうは、カワセミと並べてほしくて買ったのか。

カワセミが食べるのは虫とか小魚だと思うけど。
ぺこりんのメルヘンな世界において、カワセミはかわいらしくぶどうをついばんでいるのだろう。


すぐに、母に電話をかける。母はここ最近祖母の介護のために祖母の家に寝泊まりしている。父は、毎朝母のところに寄っていくと話していた。

電話に出た母に、すぐ父に代わってもらう。

「さっき、ぺこりんに電話したんだけどね。お父さんにあげたピンバッジはカワセミの餌なんだって」

父は笑っていた。「ぺこりん君はやっぱり面白いね」と言って。

母にも教えてあげると、「なんだろうねぇ、ぺこりんちゃんは。かわいすぎるね」と言っている。

父は家に帰ったら、帽子からポシェットに移しておくよと約束してくれた。

「でもさ、カワセミの餌は魚じゃないかな」
そうつけ加える父は、やっぱり私の父なのだった。


あたたかくして、おやすみ

昔、私たちが遠距離恋愛をしていた頃は、なかなか電話を切りがたくて、「ぺこりんが切って」「ももが切ってよ」「じゃあ、せーので切ろう」などと初々しいやりとりをしていた。

しかし、結婚した今となっては、単身赴任だといえども、そんなためらいはなくなり、私もぺこりんもあっさり電話を切る。

だが、電話を切る前にいつもぺこりんが言ってくれる言葉がある。

「電話してくれてありがとう」と「ちゃんとおふとんかけて、あたたかくして寝るんだよ」(朝の場合は「気をつけていってらっしゃい」)の2つだ。

私は眠いところに電話をかけたり、無理やり起こしたりしているのに、ぺこりんはいつもありがとうと言ってくれるのだ。なんて心が広いのだろう。

そのうえ、ちゃんとおふとんがかかっているかも心配してくれる。
まるでお母さんだ。
そういえば、寝ぼけているときに、間違えてぺこりんのことをお母さんと呼んでしまったことが何度かある。

ぺこりんと電話した夜はいい夢が見られる気がするし、ぺこりんと電話した朝はいい1日がはじまる気がする。

ぺこりんとの電話を終えたあとは、いつもぬくぬくぽかぽかだ。


ぺこりんが帰ってくるまであと少し。

もう少しだけ、この電話の時間を楽しみながら、風邪をひかないようにあたたかくして、ぺこりんが帰ってくるのを待っていよう。