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選書企画★言語この希望に満ちた本たち:『言語 この希望に満ちたもの』(北海道大学出版会)刊行記念 野間秀樹選書フェア 紀伊國屋書店 札幌本店

私たちは生まれ落ちたときから,ことばの奔流の中に生きていて,その中でしばしば息もできずにいます.でもことばは希望に満ちたもの.ことばを問い,ことばを考え,ことばを慈しむ書物たちと共にするひとときを.合言葉は 花ことば 夢ことば 生きることば,言語 あゝ この希望に満ちたもの.

この選書リストは、紀伊國屋書店札幌本店における2021年8月15日-10月14日開催の『言語 この希望に満ちたもの』(北海道大学出版会)刊行記念 野間秀樹 選書フェアのパンプレットからのものです。出典さえ明記していただければ、どうぞご自由にご利用、引用、配布などしていただいて構いません。文章の改変はなさらないでください。
pdf版がオリジナルです。このnoteのページはそれを転記したものです。
*入手しやすそうな、比較的概論的なものを多く挙げたのですが、それでも〈品切〉のものがかなりありました。悲しい!
次のような出版社の本に言及しています。品切れの本はぜひ再版してください ♪
明石書店 / 朝日出版社 / 和泉書院 / 岩波書店 / 笠間書院 / 河出書房新社 / 汲古書院 / クオン / くろしお出版 / 慶應義塾大学出版会 / 勁草書房 / 講談社 / 光文社 / 作品社 / 三省堂 / 集英社 / 小学館 / 晶文社 / 書籍工房早山 / 新潮社 / 水声社 / 世界思想社 / せりか書房 / 大修館書店 / 筑摩書房 / 中央公論新社 / 東京大学出版会 / ナツメ社 / 白水社 / ひつじ書房 / 藤原書店 / 文藝春秋 / 平凡社 / 勉誠出版 / 法政大学出版局 / 北海道大学出版会 / みすず書房 / 未来社 / むぎ書房 / 明治書院

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 ▼写真:紀伊國屋書店札幌本店のツイッターより

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目次

第Ⅰ部:野間秀樹の著作から

第Ⅱ部:『言語 この希望に満ちたもの』と共に萌える本たち


『言語 この希望に満ちたもの』(北海道大学出版会)刊行記念
野間秀樹 選書企画
■■言語この希望に満ちた本たち■■

第Ⅰ部:野間秀樹の著作から-------

●『言語 この希望に満ちたもの:TAVnet(タブネット)時代を生きる』2021.北海道大学出版会
世界の半分は言語でできている―私たちは言語をめぐって,いかに生きるのか.大量高速のことばが襲いかかって来る今こそ,ことばのパンデミックを生きる〈構え〉を.ことばに関心のある,あらゆる人々へ.そしてことばに今は関心のない身振りの,あらゆる人々へ.生きるための言語.
定価:2,970円(本体2,700円+税)
ISBN 978-4-8329-3413-1

●『言語存在論』2018.東京大学出版会
〈言語はいかに在るか〉〈言語はいかに実現するか〉という根源的な問いから言語学や言語哲学を問い直す,言語の原理論.言語存在論とは,言語場とは,言語の存在様式と表現様式,音が意味となるとき,光が意味となるとき,〈話されたことば〉と〈書かれたことば〉,発話論,文論,主語述語論,省略論,真偽論,時制論,命名論.A5判,全447ページ.うち66ページに及ぶ詳細な索引,注,文献一覧.
定価:6,050円(本体5,500円+税)
ISBN 978-4-13-086054-3

●『ハングルの誕生:音から文字を創る』2010.平凡社
ハングルという文字体系を広く〈知〉という地平において,言語の原理論から多角的に照らす.文字からの言語学入門としても読める.豊かな図版,用語解説を兼ねる索引,年表,16ページに及ぶ親切な文献紹介,計369ページの新書判.
アジア・太平洋賞大賞.
定価:1,078円(本体980円+税)
ISBN 978-4-582-85523-4

●『韓国語をいかに学ぶか:日本語話者のために』2014.平凡社
〈韓国語をいかに学ぶか〉という問いを問う.韓国語だけでなく,言語を学ぶ全ての人々への応援歌.教科書の文を音読するのは,単に音に変換しているだけだ.悲しいことに,それでは話せない.〈話されたことば〉と〈書かれたことば〉は全く異なるのだから.詳細な索引つきの熱き371ページ,新書判.
定価:1,078円(本体980円+税)
ISBN 978-4-582-85737-5

●『日本語とハングル』2014.文藝春秋
ハングルという文字体系を根拠地に日本語という言語を照らす.これが日本語と韓国語の対照言語学的な面白さだ.仮名,漢字,ローマ字,そしてハングル―おお,文字から日本語が見えて来る,(覆された宝石)のやうな文法論.
定価:847円(本体770円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-16-660973-4
※電子書籍版あり.Kinoppyにて購入可
定価:815円(本体741円+税)

●『史上最強の韓国語練習帖【超入門編】いきなり 読める! 書ける! 話せる!!』2021.ナツメ社
開きやすく,軽い,A5判,わずか128ページ,2色刷.とにかくやさしいところだけを入門してみるための本.騙されたと思って,騙されても,騙されない,楽しく嬉しく,できちゃってる,ことばの学び.文字と発音を学ぶ最初から,あれ,話してる! 音源DL,QRコードでいつでもどうぞ.
定価:1,100円(本体1,000円+税)
ISBN 978-4-8163-6944-5

●『新・至福の朝鮮語』2007.朝日出版社
A5判296ページ,2色刷.「至福があれば,何もいらない」と言われてきた伝説の入門書.自然なことばを辞書なしで学ぶ,入門から初中級まで.巻末には発音の変化,教室表現,数詞,こそあど,助詞,活用,用言の様々な形,韓国の姓人口順,日本語=朝鮮語漢字音対照表(漢字の音を知らずに韓国語を学ぶのは丸損です),日韓韓日の単語集兼索引など満載.CDつき.
定価:3,190円(本体2,900円+税)
ISBN 978-4-255-00389-4

●『韓国語学習講座「凜」1 入門』野間秀樹編著・金珍娥著.2012.大修館書店
A5判,262ページ,2色刷.初級用,最新の学習エンジンによる入門書.生きた韓国語を体系的に学ぶ.ゆったりした文字で読みやすく.人生の貴い時間に辞書引き不要,意味は文まで全部書いてある! ハングルのアイウエオもアカサタナも,巻末のハングルのabcソング〈Swingingハングル〉で.スウィングしなけりゃ学びじゃない! CDつき.
定価:3,080円(本体2,800円+税)
ISBN 9784469142440

●『韓国語教育論講座 第1-4巻』野間秀樹編著.2007-2018.くろしお出版
日本と韓国の最前線の研究者70名以上が執筆する,韓国語学と韓国語教育の一大叢書.各巻680-815ページ,詳細を究める索引.韓国語のことはまずこれに聞く.音論,文字論から語彙論,文法論,談話論,コーパス言語学,社会言語学などはもちろん,文学,漫画,飲食,歴史,宗教など言語と関わる周辺分野も扱う.日韓対照言語学的な視座が満載,日本語学や日本語教育に関心のある人々にも必須.
【第1巻】定価:5,170円(本体4,700円+税)
ISBN 978-4-87424-374-9
【第2巻】定価:6,380円(本体5,800円+税)
ISBN 978-4-87424-566-8
【第3巻】定価:5,720円(本体5,200円+税)
ISBN 978-4-87424-754-9
【第4巻】定価:5,940円(本体5,400円+税)〈品切〉ISBN 978-4-87424-410-4

●『韓国・朝鮮の知を読む』野間秀樹編.2014.クオン
エンタメは語られても,〈知〉が共に語られることは,これまで一体どれだけあっただろう―これが韓国・朝鮮の〈知〉を初めて語る書物.柄谷行人・金石範・谷川俊太郎・白楽晴・津島佑子・亀山郁夫・山本義隆・西谷修・関川夏央・柴田元幸・申京淑・星野智幸・中村文則……日韓の錚々たる知性140名が共にする,知の万華鏡.
パピルス賞受賞.
定価:4,180円(本体3,800円+税)
ISBN 978-4-904855-18-8

●『韓国・朝鮮の美を読む』野間秀樹・白永瑞共編.2021.クオン
〈知〉は手掛かりを得た,それでは〈美〉は?―これが韓国・朝鮮の〈美〉を知るための1冊.日韓の知性86人が語る,美術,音楽,映画,工芸,デザイン,そしてことば……芸術から日常の美まで.
定価:4,180円(本体3,800円+税)
ISBN 978-4-910214-19-1

*定価は10%税込

第Ⅱ部:『言語 この希望に満ちたもの』と共に萌える本たち

01●飯田隆編(2007)『哲学の歴史 11:論理・数学・言語』中央公論新社
哲学史の本はいろいろあって,どれも面白い.そんな中でもこれは副題が論理・数学・言語という,お互いが嫌がりそうな組み合わせになっている巻で,それ以前のロマン主義的な言語観への訣別を宣言せんとするエポックの英知を総括している.ヴィトゲンシュタインが中核.編者の総論「科学の世紀と哲学」が解り易く,図版や年表,索引,注の位置,解説付きの参考文献一覧など,造りが工夫されていて,頼もしい.751ページ.これらを踏まえて,21世紀の今日には論理・数学・言語などと言っているようではいけない,というエポックに突入することになるわけです.同じ中央公論新社のシリーズの現代の巻,珠玉の総論を擁する野家啓一編(2008)の第10巻,そして鷲田清一編(2008)の第12巻も素晴らしい.
定価:3,960円(本体3,600円+税)
ISBN 978-4-12-403528-5

02●野本和幸・山田友幸編(2002)『言語哲学を学ぶ人のために』世界思想社
言語哲学について日本の11人の哲学者が説く.「言語哲学の基礎」「意味論」「行為としての言語」という3部,15編の,ぎゅっと詰まった概説集.どれも短すぎて,ちょっと,ちょっと,これで終わらないでよと,もっと読みたくなる造りになっているところが,大切.これ以前の時代の「言語」がいかに「文」という単位に支配されていたかも,よく見て取れる.
定価:2,090円(本体1,900円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-7907-0945-9

03●ヴィトゲンシュタイン(2014)『論理哲学論考』丘沢静也訳,光文社
訳文の読みやすい文庫本.巻頭の30頁ほどの野家啓一の「高校生のための「論考」出前講義」が凄い.哲学史などもさりげなく織り込みながら内容をこれだけに凝縮する技には驚愕.高校生同志諸君に幸あれ! 逆に,あのヴィトゲンシュタインを何とばらばらに解体して,アンソロジーにしてしまった黒田亘編(2000)『ウィトゲンシュタイン セレクション』,平凡社ライブラリー版も驚きだ.
定価:968円(本体880円+税)
ISBN 978-4-334-75284-2

04●クワイン,W.V.O.(1984)『ことばと対象』大出晃・宮館恵訳,勁草書房
『言語存在論』でも触れたように,20世紀の欧米の哲学者たちの,言語に関する議論は,しばしば危ないところに落ち込むのだが,その危なさ加減まで含めて面白いのが,クワイン.この人は憎めない.文を論じるのに,〈学ぶ〉という観点を突っ込んでくるなどは,嬉しいではないか.
定価:5,170円(本体4,700円+税)
ISBN 978-4-326-19873-3

05●マルクス(2010)『経済学・哲学草稿』長谷川宏訳,光文社
『ことばへの道 言語意識の存在論』(1978勁草書房;2012講談社)などという,言語についても鋭い著作を有する訳者の手になる,マルクス経哲草稿.私たちの日々の暮らしが苦しいこともあり,資本主義社会に向けての怒りも日々沸々と沸き上がるので,きょうびは何かとその名も『資本論』に助けを求めたくなるのだけれど,初期マルクス,このあたりでの覚醒も忘れがたい.疎外論から言語疎外論へ.疎外論のヘーゲル『精神現象学』は,樫山欽四郎訳が1997,平凡社ライブラリー,熊野純彦訳が2018,ちくま学芸文庫.
定価:748円(本体680円+税)
ISBN 978-4-334-75206-4

06●井筒俊彦(2009)『読むと書く:井筒俊彦エッセイ集』若松英輔編,慶應義塾大学出版会
30に迫る言語を自由にし,英文での著作も日本語での著作ほどにあって,20余年を海外での研究教育.本物の知の巨人の文章集.50年ほどの70編,740ページに,言語に関わる面白さがこれでもかと装填されていて,刺激的.「存在はコトバである」という巨大な井筒言語形而上学がユーラシアを覆い尽くす.レベルが違うとはいえ,「劣等生だった」などと書いてあると,頑張ろうかなと,勇気づけられるではないか.若松英輔の解題がまた,井筒俊彦の全体像が見えるほどに高密度.
定価:6,380円(本体5,800円+税)
ISBN 978-4-7664-1663-3

07●互盛央(2009)『フェルディナン・ド・ソシュール:〈言語学〉の孤独,「一般言語学」の夢』作品社
本書によって,著者と共に,現代言語学の祖,ソシュールの「「一般言語学」講義を可能なかぎり授業の順序どおりに読むことを試みる」という恐るべき体験を共有することになる.A5判全660ページ.その過程は19世紀から20世紀への言語学と言語思想を逐一点検していく過程でもある.果たして「一般言語学」は可能だったのか? 膨大な文献を読み,壮大な物語を紡ぎ出す,驚きの著作.
定価:6,600円(本体6,000円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-86182-243-8

08●バフチン,ミハイル(2002)『バフチン言語論入門』桑野隆・小林潔編訳,せりか書房
言語についての面白い着想に満ち満ちたロシアの言語学者,思想家であるミハイル・バフチンの言語論の小ぶりのアンソロジー.「西欧における最新言語学思潮」ではソシュール批判も.バフチンは新時代社の著作集水声社の全集が刊行されたのだが,入手しにくくなっている.本書と,桑野隆訳『マルクス主義と言語哲学 改訳版』(1989 未来社)が原理論的な著作として貴重.
定価:2,640円(本体2,400円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-7967-0242-3

09●時枝誠記(1941;1979;2007)『国語学原論』岩波書店
時枝誠記,言語過程説の志向するところは,既存の国語学のありようを根底から覆してしまった.その仮想敵こそ,小林英夫訳,ソシュール(1940; 1972)『一般言語学講義』(岩波書店)であった.時枝誠記も小林英夫も,そしてかの河野六郎も,京城帝国大学で教鞭を執った学者たちであった.ちなみに時枝誠記は日本の知識人たちからも評価が高い.フランス語圏で知識人たちに愛された,バンヴェニストを彷彿とさせる.時枝誠記こそ,日本のバンヴェニストである.もう1つちなみに,文章も良い.
【上巻】定価:990円(本体900円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-00-381501-4
【下巻】定価:990円(本体900円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-00-381502-1

10●マクルーハン,M.(1986)『グーテンベルクの銀河系:活字人間の形成』森常治訳,みすず書房
言語と単音文字=アルファベットを考えるには,やはりこの本がないと始まらない,もはや古典.アルファベットと印刷機を発信源にする縦横無尽の探索,博引旁証には驚かされる.事項索引を書き込んで作りながら読みたくなる本というものに,時々出会うが,本書はまさにそれだ.人名だけでも数百人が登場し,英語圏では知られているのかもしれないが,常識不足と誹られても,なにせ東洋の私たちには知らない人物だらけ,原著の不親切な造りに比べ,日本語訳には丁寧な訳注があって,どんなにありがたかったか.
定価:8,250円(本体7,500円+税)
ISBN 978-4-622-01896-4

11●オング,W. J.(1991)『声の文化と文字の文化』桜井直文・林正寛・糟谷啓介訳,藤原書店
オラリティーと呼ぶ,声の文化と,リテラシーと名付ける文字の文化との違いを主題とする.ことばにもとづくのは,一次的な声の文化,電話やテレビなどは二次的な声の文化とされる.〈話されたことば〉と〈書かれたことば〉の違いに最も肉迫していた一人がオング.記念碑的論考.
定価:4,510円(本体4,100円+税)
ISBN 978-4-938661-36-6

12●河野六郎(1994)『文字論』三省堂
この本を抜きにして文字を語ることはできない.文字の原理論をさりげなく深く大胆に描いて余りある,日本語圏の言語学の渾身の一撃.短く圧縮されていて,かつ解り易い.欧米の文字論が霞んで見えるのは,本書の威光による.旧制高校時代に既にギリシャ,ラテンをがりがり読んで,中国音韻学,朝鮮漢字音研究,朝鮮方言学,言語類型論,合間に仏語からの訳,ジルソン(1974)『言語学と哲学』(岩波書店)をものし,仏和辞典を造りかかったがこれはなしになって,『河野六郎著作集 1-3巻』(1979-1980平凡社)へ,そして世界最大の言語学辞典,亀井孝・河野六郎・千野栄一編著(1988-1996)『言語学大辞典』(三省堂)へと到達する言語学の鬼神,珠玉の論考.
定価:2,990円(本体2,718円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-385-35587-0

13●クルマス,フロリアン(2014)『文字の言語学:現代文字論入門』斎藤伸治訳,大修館書店
欧米の教科書的な文字論の本はたくさんあるが,なかなかどれも今一つ.これはそんな中でも,広い観点から論じており,文字をめぐって言語学ではどんなことが問題にされているかを,一望できる.
定価:2,750円(本体2,500円+税)
ISBN 978-4-469-21347-8

14●伊藤悠(2013-2017)『シュトヘル』小学館
人間にとって文字とは何か,などという帯文に出会える,恐るべき漫画全14冊.文字が人の身体にも焼き付けられるものであることを忘れた言語学は,やはり何かを忘れているのだ.西夏,金,蒙古……ツォグ族の皇子だの,チンギス・ハンだの,西夏の女性戦士シュトヘルだの,魅力的な人たちが多々登場するのだが,主人公は何と,砂漠に埋もれたかの西夏文字ではないか.漫画にとっては命の,絵も高水準.
【1】~【11】定価:649円(税込)
【12】~【14】定価:693円(税込)

15●町田和彦編(2011)『世界の文字を楽しむ小事典』大修館書店
32名で分担執筆の,文字を〈楽しむ〉姿勢で作られた小百科.第1部では「文字は言語に憑依して」「さまざまな「文字」のかたち」「発音と文字の一筋縄ではいかない関係」「時代・社会で変わる文字」のように,エピソードごとに10章,第2部は44種の文字について1ページで図版と共に解説.全265ページだが,なかなか豊かな内容が凝縮されている.同じ編者の,町田和彦編(2021)『図説 世界の文字とことば』(河出書房新社)は45言語の文字とことばについて.
定価:2,860円(本体2,600円+税)
ISBN 978-4-469-21335-5

16●町田健(2008)『言語世界地図』新潮社
46の言語を紹介しながら,〈国家≠言語〉という原理を小さな新書が視覚的に教えてくれる.国境で区切られた地図と異なる言語地図は,日常では意外に眼に触れにくい.これを簡潔な地図で豊富に見せてくれる点で,なかなかに貴重.その地域で主となる言語の話者の分布で区分けしてみただけでも,国家の境界との違いが歴然とする.
定価:770円(本体700円+税)
ISBN 978-4-10-610266-0

17●柴田巌・後藤斉編,峰芳隆監修(2013)『日本エスペラント運動人名事典』ひつじ書房
本書自体が,日本のエスペラント運動の一大決算であり,金字塔.長谷川二葉亭から宮沢賢治まで,北一輝も大杉栄も,柳田國男がいて梅棹忠夫がいる,あるいは英語の勝俣銓吉郎そして日本語の新村出……エスペラントが単なる道具などではなく,文字通り,〈言語〉であったことが,そう,胸にね,ひしひしと伝わって来ます.
定価:16,500円(本体15,000円+税)
ISBN 978-4-89476-664-8

18●金文京(2010)『漢文と東アジア:訓読の文化圏』岩波書店
漢文という〈書かれたことば〉を,東アジアという世界において照らした快著.漢文の訓読が仏典の漢訳の過程をヒントに生まれたのだと説き,日本語圏における漢文訓読からその背景の思想と世界観,そして朝鮮語圏における漢文訓読,東アジアの変体漢文を論じ,漢文文化圏の概念を提唱する.なるほどこうして見ると,漢文の訓読は世界言語史における巨大な咆吼であり,言語と文字の原理の深部に触れる冒険であったことが,解る!
定価:880円(本体800円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-00-431262-8

19●亀井孝・大藤時彦・山田俊雄編(1963;2007)『日本語の歴史 1-7』平凡社
日本語を語るなら,まず本シリーズを押さえてからにしよう.巻ごとに異なる多様な執筆者.第1巻「民族のことばの誕生」,第2巻「文字とのめぐりあい」,第3巻「言語芸術の花ひらく」,第4巻「移りゆく古代語」,第5巻「近代語の流れ」,第6巻「新しい国語への歩み」,第7巻「世界の中の日本語」,そして別巻は何と「言語史研究入門」で,これは貴重.タイトルの付け方など,オールド・ファッションだが,中身はどの巻も実に面白い.
【1】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76595-3
【2】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76601-1
【3】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76607-3
【4】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76612-7
【5】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76616-5
【6】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76623-3
【7】定価:1,430円(本体1,300円+税)ISBN 978-4-582-76629-5

20●小松英雄(2006)『日本語書記史原論 補訂版』笠間書院
巻頭の50ページほどの総説「日本語書記史と日本語史研究」は多様な問題がコンパクトにまとめられている.書記論/書記史を言語研究/言語史研究から独立した自律的領域として確立し,改めて両者のありかたを確認することを説いている点で貴重.1-8章は各論詳説.こうした理論的な提起に対し,資料の方からの教科書的なアンソロジーとして,秋本守英編(2006)『日本文章表現史』(和泉書院).上代から近代まで117種のテクストを2ページずつで提示,解説した資料集.一部は図版でも示している.
定価:3,080円(本体2,800円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-305-70323-1

21●平川南編(2000)『古代日本の文字世界』大修館書店
編者は古代史専攻.古代史の水野正好と国語学の犬飼隆による論考,さらに上代文学の稲岡耕二と古代史の和田萃を加えた5人のシンポジウムからなる.1978年埼玉県稲荷山古墳の鉄剣の発見から,20世紀末の多くの木簡の出土に至る蓄積を踏まえ,広い視野から論じられている.その後,朝鮮語圏の研究なども大々的に加わって,こうしたテーマを扱う書物の刊行が21世紀には大いに進むのだが,そうした大河の重要な起爆剤の一つとなった書.図版も豊富で,広く人文書として読める.言語と文字を考える問いをあちこちに装填していて,楽しい.なお専門書だが,藤本幸夫編(2014)『日韓漢文訓読研究』(勉誠出版)は,近年急速に進んだ日本語圏と韓国語圏の漢文訓読研究の集大成.
定価:2,860円(本体2,600円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-469-23210-3

22●中西進校注(1978-1983)『万葉集 全訳注原文付(一-四)』講談社
原文と共に覗き見る万葉集は,私たちの万葉集幻想を幾度も打ち砕いてくれる.万葉仮名などと簡単に片付けてはいけないことが,じわじわと見えて来る面白さ.現代語訳も語釈も丁寧.こんな書物が文庫で存在するところが泣ける.文字があって,ことばがあって,そして歌が.うーむ,眠れなくなる.
【1】定価:759円(本体690円+税)
ISBN 978-4-06-131382-8
【2】定価:748円(本体680円+税)
ISBN 978-4-06-131383-5
【3】定価:649円(本体590円+税)
ISBN 978-4-06-131384-2
【4】定価:704円(本体640円+税)
ISBN 978-4-06-131385-9

23●奥田靖雄(2015)『奥田靖雄著作集 第2-4巻:言語学編1-3』奥田靖雄著作集刊行委員会.むぎ書房
現代日本語研究の,〈書かれたことば〉を,ソビエト言語学の影響も受けつつ,その強靱な思弁力で論じて前人未踏,言語学研究会を率い,多くの弟子,追従者たちを生んだ,言語学者・奥田靖雄の重要な著作集.文法論が中心.単行本が絶版になっているようで,仕事は著作集にまとめられている.小説などから多くの用例をカードにとって収集,調査する,言語事実主義とも言うべき研究の方法論の実践によって,凡百の日本語研究を粉砕し,20世紀日本語学の方法論的制覇に至った到達点.現代のコーパス言語学も学ぶべきところ大,単に量だけではだめなのだということも,鮮明に教えてくれる.
【第2巻】定価:7,150円(本体6,500円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-8384-0117-8
【第3巻】定価:7,150円(本体6,500円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-8384-0116-1
【第4巻】定価:7,150円(本体6,500円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-8384-0115-4

24●金珍娥[キム・ジナ](2013)『談話論と文法論:日本語と韓国語を照らす』くろしお出版
談話論とは〈話されたことば〉の研究をいう.談話論と文法論を交差させた研究.今日の日本語の〈話されたことば〉が本当はどのような姿をしているか,日本語東京ことば,韓国語ソウルことばの話者,異なり人数160名の実際の克明なる調査によって描き出した,恐るべき書物.他に照らして初めて己が見える.めくるめく言語事実が語る,このリアルなる恐ろしさは,既存の文法論を打ち砕く.私たちは本当の〈話されたことば〉を知らなかったのだ.今後じわじわと21世紀の日本語学や韓国語学を,そして言語学を変えゆかん.
定価:3,850円(本体3,500円+税)
ISBN 978-4-87424-601-6

25●呉人惠[くれびと めぐみ]編(2011)『日本の危機言語:言語・方言の多様性と独自性』北海道大学出版会
日本にも滅び行く危機言語が.編者はコリャーク語研究の国際的な泰斗.錚々たる大家たちを含む11人の研究者が執筆.アイヌ語,北海道方言,秋田方言,茨城県南西部の水海道方言,八丈方言,宇和島方言,鹿児島方言,琉球語,そして標準語といった主題が扱われている.滅び行く言語「東京弁」という章もあり.書き手によってエッセイ的なものからごりごりの研究論文まで多彩.助成金を出してくれなどという叫びも.この本にCDが付いているのは,見識.そう,言語の第一の身体,〈話されたことば〉とは音のかたちなのだ.そして私たちはついつい「日本語」などと十把一絡げに言いがちなのだが,本書で猛省したい.言語は原理的に個の存在に依拠するものである.ちなみに北海道大学出版会はアイヌ語や満州語など,内外の危機言語,話者の少ない言語についての書物をいろいろ刊行している.ところで,関係機関の皆さま,助成金,出してあげてください.
定価:3,520円(本体3,200円+税)
ISBN 978-4-8329-6747-2

26●中川裕(2019)『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』集英社
連載が始まるや驚愕した漫画「ゴールデンカムイ」の民俗学的な描写.構成は「第一章 カムイとアイヌ」「第二章 アイヌの先祖はどこから来たか?」「第三章 言葉は力」「第四章 物語は知恵と歴史の宝箱」「第五章 信仰と伝説の世界」…といった具合で,とても真摯な造りのアイヌ文化入門.
定価:990円(本体900円+税)
ISBN 978-4-08-721072-9

27●和久希(2017)『六朝言語思想史研究』汲古書院
いわゆる魏晋南北朝時代の〈思想〉に関する研究は論文などが意外に多く,研究書も高価で,全体像をなかなか押さえきれないのだが,これはそうした中でも〈言語思想〉を軸に据え,一冊に組み上げんとする貴重な研究書.「言外の恍惚の前に:阮籍の三玄論」「言語と沈黙を超えて:王坦之「廃荘論」考」「形而上への突破:孫綽[そんしゃく]小考」などといった章題でも推し量れるように,論点を絞った論考から構成される専門書なのだが,しかし文章はとても解り易く,しばしば異様に面白い.
定価:8,800円(本体8,000円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-7629-6598-2

28●戸田浩暁訳注(1974;1988,1978;1988)『新釈漢文大系 64,65 文心雕龍 上下』明治書院
文を尋ね,修辞を求めるなら,劉勰[りゅうきょう]のこれは外せない.文章論を単にイデオロギーで理論武装するだけではなく,それを語ることばそれ自体を,文字通りこれでもかとばかりに彫琢し,造りあげようとする美学も,ここまでに至ると,潔く,心地よい.あちこちに精神の儒学的な倫理が覗くのだが,なるほど,文章こそ雲の如く千姿万態,ことばというものが,倫理的な枠に安住することを許さないのであろう.
【64/上】定価:8,580円(本体7,800円+税)
ISBN 978-4-625-57064-3
【65/下】定価:8,250円(本体7,500円+税)
ISBN 978-4-625-57065-0

29●エヴェレット,ダニエル・L(2012)『ピダハン:「言語本能」を超える文化と世界観』屋代通子訳,みすず書房
アマゾン奥地のピダハンという部族との30年以上にわたる暮らしと言語を,言語人類学者が描く,驚きの書.発表されたピダハン語の音韻体系を信じられず,音声学の大御所・故ラディフォギット教授もUCLAから乗り込んで来る.あまりにも異なるピダハン語とその世界観.「おい,ダン.アメリカ人は死ぬのか?」「なあ,ダン.その男(引用者注:イエスのことです)を見たことも聞いたこともないのなら,どうしてそいつの言葉をもってるんだ?」ダニエルはアメリカの福音派協会の伝道師として入り,無神論者として生まれ変わることになる.森で精霊と自分の名を取り替えるピダハンの人たち―多くの小説家たちが,ああ,これが小説でなくてよかった,自分の想像力と照らし合わせながら,湧き出そうになる嫉妬心と共に,きっとそう思ったことだろう.
定価:3,740円(本体3,400円+税)
ISBN 978-4-622-07653-7

30●アンダーソン,ベネディクト(2007)『定本 想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』白石隆・白石さや訳,書籍工房早山
もやは古典中の大古典.「国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」「なぜ近年の……萎びた想像力が,こんな途方もない犠牲を生み出すのか」.え,あなた,こんな本があるのに,まだ国民だとか,国家だとか言ってるんですか?
定価:2,200円(本体2,000円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-88611-508-9

31●上野千鶴子編(2005)『脱アイデンティティ』勁草書房
〈脱アイデンティティ〉という主題で9名の論考が編まれる.どれも貴重だ.アイデンティティで苦悶する全ての人々に.しかしこういう本は若い頃に読みたかった.まあ,今でも若いので,今日また読もう.わずか24ページで母語という観点から戦後世界史を描き上げんとする小森陽一「母語幻想と言語アイデンティティ」には唸る.この主題への全体的な展望図ともなっていて,嬉しい.
定価:3,300円(本体3,000円+税)
ISBN 978-4-326-65308-9

32●山本真弓編著,臼井裕之・木村護郎クリストフ(2004)『言語的近代を超えて:〈多言語状況〉を生きるために』明石書店
「一国家一言語」「一民族一言語」神話を解体する.「第一部 言語的近代の成り立ち」では国家と言語を,「第二部 ことばについて,〈われわれ〉が語ってきたこと」では,ことばが「できる」「できない」,「母語」神話,翻訳,「第三部 言語的近代を超える営み」では手話やエスペラントなどを論じる.大切な問い群を投げかけてくれる良書.
定価:3,080円(本体2,800円+税)
ISBN 978-4-7503-1970-4

33●デリダ,ジャック(2001)『たった一つの,私のものではない言葉:他者の単一言語使用』守中高明訳,岩波書店
デリダはアルジェリア近郊にユダヤ系の両親から生まれた「フランス-マグレブ-ユダヤ人」であった.そしてデリダこそは20世紀最大の言語論者である.そのデリダが言う,「そう,私は一つしか言語を持っていない,ところがそれは私のものではない.」その言語とは,帝国の言語・フランス語なのであった.
定価:2,310円(本体2,100円+税)
〈品切〉ISBN 978-4-00-001293-5

34●柳父章・永野的・長沼美香子編(2010)『日本の翻訳論:アンソロジーと解題』法政大学出版局
よくぞ集めてくださった! 翻訳論,感激のアンソロジー.第1部に柳父章「日本における翻訳:歴史的前提」という30余ページの総論,これがまず良い.第2部に坪内逍遙,内村鑑三,森.外,福澤諭吉,二葉亭四迷,萩原朔太郎,谷崎潤一郎,吉川幸次郎など,29編の原典と解題.原典はどれも2-6ページほど.それ自体がちょっとした文体集にもなっている.こういう書物が出るから,やはり本ってものは,やめられなくなる.優れたアンソロジー1冊の刺激に感謝.
定価:3,630円(本体3,300円+税)
ISBN 978-4-588-43616-1

35●温又柔[おんゆうじゅう](2015)『台湾生まれ 日本語育ち』白水社
この書名が既に,言語というものはどのようなものかを,鮮明に語って余りある.〈日本語育ち〉,そうなのだ,私たちは皆,それぞれの言語のうちに育っていると言えばよいのだ.「母語は日本語」などと言うより,鮮明にリアルで,そして,この本のように最高に,優しい.ことばについて問いを共にさせてくれる本.
定価:1,540円(本体1,400円+税)
ISBN 978-4-560-72133-9

36●ハン・ガン(2017)『ギリシャ語の時間』斎藤真理子訳,晶文社
見よ,これだけでも読みたくなる,かくも素晴らしき題名を.ことばを失うということ.言わずと知れた短編集『菜食主義者』(きむ ふな訳.クオン)や長編『少年が来る』(井出俊作訳.クオン)の,現代韓国文学の旗手,韓江[ハン・ガン]による小説.え,話? 言語を語る選書フェアで,この物語の中身を語るのは,野暮というものです.今は,そう,言語,この希望に満ちた時間,です.
定価:1,980円(本体1,800円+税)
ISBN 978-4-7949-6977-4

*定価は10%税込

『言語 この希望に満ちたもの』刊行記念
野間秀樹選書企画
■■言語この希望に満ちた本たち■■
2021年8月/紀伊國屋書店札幌本店
作成/北海道大学出版会

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