人はやらない理由を作り出す天才だ。
やらない理由を並べて自分を守ろうとする。何からだ?一体何から自分を守っているのだろう。
世間?友人?恋人?家族?
その正体は
失われた未来だ。
失われた未来から自分を守ろうとしている。
それは私を咎める。それは私に反省を求めてくる。私はそれを拒絶するために、寄せ付けないために、バリケードを作る。それに遠回りをさせて、たどり着くことができないように、いくつも枝分かれした道を用意する。
でも気づく。気づいてしまう。
拒絶し、寄せ付けないようにあらゆる手段を尽くしたつもりでも、その正体が姿を表す。見えないように、見られないように、ありとあらゆる遮蔽物で身を隠しても、視界の中に入ってくる。
どこまでも追い続けてくるそれに、息も絶え絶えになった私はついに問いかけた。
「なぜ執拗に追ってくるのか」
それは聞き覚えのある声で、私を真っ直ぐに見つめてこう返す。
「お前が受け入れたいと願ってやまないものだからだ」
私は胸の内側に渦巻く、いくつもの感情に飲まれまいと必死に抗い、震える声を荒げた。
「そんなことはない!私はあなたを求めていない!だからこうして逃げているのだ!」
全てを見透かすような目をこちらに向けるそれは、静かに答えた。
「ではなぜ、私を呼んだのだ。私はお前に呼ばれてきた。いつでもそうだ。私は私を必要としないものの側には現れない」
大渦を巻いた感情が嵐を巻き起こす。もはや舵をとることができずに飲み込まれた私は、ただ立ち尽くしていた。
「お前は私を拒絶すると言った。しかし、私を呼び続ける。逃げてもなお苦しいのは、わかっているからだ。苦しさから解放される唯一の手段を知っているからだ。だからお前は私を呼び続ける。」
私は既に自己の矛盾に気づいていた。いや、気づかされたというべきか。
「お前に足りないのは、私を受け入れる勇気だけだ。」
嵐は止んでいた。
それは姿を消していた。
勇気を持てなかった私に、勇気を持つ術を知らせずに消えた。
それは答えをくれるわけではなかった。
しかし、それは最後にこう言葉を残したのを思い出した。
「お前も多くの天才と成り下がるのか、少数の凡人へ変貌を遂げるのか。どちらを行くのか、その答えをお前はもう持っているだろう」
夢現の境。
夢とするのか、現とするのかは私が決めていいらしい。
人はやらない理由を作り出す天才だ。
私は天才でなくていい。凡人になろうと思う。
私は「私」からのメッセージを受け取ることができたのだから。