見出し画像

【育児エッセイ】「息子に教えてもらったこと」

 風の色が知りたかった。
 息子が見ている風の色が。
 同じ空を見たかった。
 息子が見ている青い空を。

 自己陶酔っぽくて少々恥ずかしいが、これが私のランニングを続ける理由である。

 息子が小学2年生だった時の校内持久走大会。
 その時から物語は始まった。

 1位を争い、ほぼ同時にゴールを駆け抜けた息子とその友達。
 先生の判定は、友達が1位で息子が2位だった。

 その判定に納得がいかない息子はリベンジを誓う。
「友達が出場する市民マラソン大会で勝つ」

 次の日から息子は朝練を始めた。
 私も朝早く起きて朝練に付き合うことに。
 正直、夜遅くなる仕事で早起きはキツい。

 しかし……。

 やる気を出した息子の気持ちを、親の私が萎ませるわけにはいかないじゃないか!

 そう思って付き合ってはいたものの、"小学生の気まぐれ" くらいに思っていた。
 そのうち飽きるだろうと。

 だが大会までの約1ヶ月半、土日を除いて毎日朝練は行われた。

 出場した市民マラソン大会の結果。

 息子12位。
 友達7位。

 リベンジを果たすことはできなかった。

『残念だったね。でも頑張ったこの1ヶ月半は無駄じゃないよ』
 私はそんな言葉を用意していた。結果は残念だったが、とにかくこれで朝練も終わる。

 そんな安堵感を抱いていたとき、息子は驚きの発言をした。

「来年は勝つ」

 それからも朝練は土日を除いて毎日行われた。
 当然のように私も付き合わされた。

 翌年、息子は校内持久走大会でダントツ1位になり、リベンジは達成された……かに思われた。

 しかしその時、息子の照準は市民マラソン大会に移っていたのである。

「あの市民マラソン大会で優勝する!」

 そんな目標を掲げ、朝練は続行された。

 目標を持って頑張る息子の顔は爽やかだった。
 雲一つない青空のように。

 その姿が輝いて見えた。
 そして私は思った。

 息子が見ている風はどんな色だろう?
 空はどんな色をしているのだろう?

 同じ景色が見たい。

 目標を持って努力をすれば同じ景色がみれるのではないだろうか。
 それなら同じ舞台に立ってみよう!

 その時から私のランニングは始まった。

 しかし……。
 その後、息子は入賞することはあっても優勝することはなかった。

 満を持して出場した6年生の時も、風邪をひいて前日に熱を出してしまい、まったく実力が発揮できずに終わってしまった。

 『大会優勝』の目標は脆くも崩れ去った。

 4年半という小学校生活の大半を捧げた毎日の朝練。

 その姿をずっとそばで見てきた。
 一緒に練習をしてきた。
 誰に強制されるでもなく、自分の意思で続けてきた練習の日々。

 息子の目から悔し涙がこぼれ落ちた。

 声をかける言葉も見つからず、私はただ息子の頭を撫でることしかできなかった。

 …が、次の瞬間、息子は涙ながらにまた驚きの言葉を発する。

「中学で勝つ」

 中学生になった息子は陸上部に入り、部活の後も自主練をするようになった。

 そしてついに中2の時、市民マラソン大会で念願の初優勝。翌年2連覇を達成。
 さらに県総体でも優勝した。

 6年以上続いた挑戦が実を結んだ瞬間だった。

 そんな息子は今も競技を続けている。
 度重なる怪我に悩まされ、その度に1からの再スタートを余儀なくされながら、持ち前のコツコツ精神で自分と向き合っている。

 私も細々とランニングを続けている。
 息子ほど高みに行くことはできないが、ゴールした後に仰ぎ見る空はみんなに等しく訪れる。

 私はこれからも走り続けるだろう。
 息子と同じ空を見るために。

 そしてこの歳月を通して、私は息子に身を持って教えてもらった。

 ひたむきに努力すれば願いは叶うということを。

 そして、風の色は誰かが決めるものではなく、自分で決めるものだ、ということを。



こちらに参加させていただきました。
ありがとうございます😊
よろしくお願い致します🙇

#子どもに教えられたこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?