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【ショートショート】「うしーむぐらみつ」/ハチミツは
「ハチミツは牛乳の量÷12で入れてる」
ホワイトデーにお返しで、手作り生キャラメルをくれた男子。
最初は男子の手作りに驚き、ちょっと引いたりもした。
だけど……。
この生キャラメル、マジうま!
私は思わずレシピを聞いてしまった。
すると彼…うーん…仮に『キャラ君』としておこう。キャラ君は謎の言葉を発した。
「うしーむぐらみつわる2わる3わる12」
「え、何それ?うしー…?」
私が混乱気味に問うと、キャラ君は笑った。
「俺が作ってる生キャラメルのレシピだよ」
レシピが暗号?
どういうこと?
もしかして…
「…トップシークレットの匂い」
私が顎に手を当てながらつぶやくと、キャラ君はちょっと目を見開いて笑った。
「トップシークレットって、プッ…🤭なんでそうなる?」
「これはどこかの闇組織による企業秘密で、ここで普通に伝えると、後方から吹き矢が…」
私は警戒したように目を左右に動かす。
するとキャラ君が殺気走った目で指をさす。
「ほら、後ろ!」
振り向きざまに左へかわす私。
キャラ君も体をのけ反らせた。
プッ……。
「んなわけねーじゃん!」
キャラ君、ノリツッコミ?
こ…こいつ、こんな高度な技を……!
しかも、おもしろい…じゃないか!
私の口に、頭に、体に、笑いの渦が巻き起こった。
バレンタインでキャラ君にあげたチョコ。
義理チョコの中の義理チョコだった。
文芸部の同学年で一人だけの男子。
他のみんなに友チョコをあげるのに、キャラ君にだけあげないのは悪いなって思ったから。
今までほとんど話したこともなかったけど…。
笑いが止まらない。
「笑いすぎじゃね?」
涙を流しながら笑う私に、キャラ君も爆笑しながら声をかけてきた。
「だって…フフフ…ねぇ、フフッ…あんたさぁ…アホでしょ?」
「アホって、失礼な!」
語気を荒げるキャラ君。
あれ?気に障ったかな?
「その通りなんだけど!」
キャラ君の言葉に二人で大爆笑。
おもしろっ!
笑いのほとぼりが冷めた後、キャラ君は暗号を解説してくれた。
生クリームは牛乳の量÷2
グラニュー糖は牛乳の量÷3
ハチミツは牛乳の量÷12
それを順番にまとめて『うしーむぐらみつわる2わる3わる12』と覚えたらしい。
うし→牛乳に対して
ーむ→生クリーム
ぐら→グラニュー糖
みつ→ハチミツ
の順番で
÷2(ml)
÷3(g)
÷12(g)
を鍋に投入して、沸騰するまで強火。
その後は火力を下げて焦がさないようにかき混ぜて水分を飛ばしていく。
そしてキャラメル状になったら容器に入れ替えて冷蔵庫で冷やす。
「え?煮詰めるのめんどくさ!」
「それくらい頑張れよ」
※
そんな会話を思い出しながら私は今、キャラメル作りをしている。
少しずつ茶色に変わっていく鍋の中。
それと共に少しずつとろみも増してくる。
もう少しかな?
もうすぐキャラ君の誕生日。
喜んでくれるかな?
食べた時のキャラ君の笑顔を思い浮かべて。
焦がさないように。
少しずつ。
少しずつ。
終
こちらに参加させて頂きました。
お笑い系のノリで書こうと思ったら…あれぇ?🤣
よろしくお願い致します🙇