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エッセイ『優しさ介護』


雨上がりの天気のよい朝を迎えた。
まだ空気からは湿気を感じる。
その湿気を太陽が蒸発させようと、空気に矢のような太陽光を突き刺している。
太陽は私の体を覆い、べたついていた私の肌から湿気を拭き取ってくれる。
爽やかな朝だ。

朝の散歩を兼ね、近くの畑に行った。
この先のブロック塀の角を曲がるとそこに我が家の小さな畑がある。
ほうれん草や白菜などの野菜を育て、その周りには少しの花を育てている。
高齢になった私は、こうして散歩をし、少しの野菜を育てることが楽しみに一つでもある。

ブロック塀の角を曲がった瞬間、私は驚き、立ち止まった。
畑が輝いていたのだ。
野菜に雨滴が付き、その雨滴に太陽の光が差し込み輝いているのだ。
いや、雨滴の中に太陽が入り込み、雨滴が自ら輝いているように感じた。
すべての野菜に雨滴があり、その中に太陽がある。野菜そのものが輝いていた。

野菜たちの周りには水仙が咲いていた。
私は数本の水仙を切り、持ち帰った。
帰り道、私の目線の高さほどのブロック塀がある家の庭で80歳近い男性が洗濯物を干していた。
一枚一枚広げては、丁寧に洗濯竿にかけていた。
ふと見ると、洗濯物は女性用のパジャマだった。
声をかけた。
「水仙、よかったら飾ってください」
「切ったばかりのようですがいいのですか」
丁寧に、お礼を言われた。
私の目線の先には、ベランダで椅子に座り日向ぼっこをしいる高齢の女性がこちらを見ていた。
「奥さんですか?」
「はい」
その男性は手にした水仙を持ち上げ奥さんに伝えた。
奥さんはにこやかな表情で頭を下げた。
「もう、歩けなくてね。言葉もあまり喋らないんですよ」

男性が水仙を見せただけで、それが貰い物であることを知り、私に頭を下げた。
ご夫婦は、言葉がさほど交わせなくなっても、心が繋がっているのだ。

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