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「大人への扉」
ヨシヒコにもついにその日がやってきたようだ。
木枯らしがいつも以上に冷たい。
小学3年の冬、2学期の終わりの日。ヨシヒコはこの世の終わりかのように肩を落として歩いている。
自宅までのわずかの道のり、足取りもかなり重そうだ。
ノブオが言ってたことは本当なのか?
あいつは知ったかぶりするから、信用ならない。
これはもう、お父ちゃんに聞くしかない。
「そうか、、、ノブオ君がそんなこと言ってたか。」
ヨシヒコは真っ直ぐ父親を見つめている。
「あのな、ヨシヒコ。よく考えてみろ。」
父親は、真剣な眼差しでヨシヒコを見つめる。
「ひと晩で、世界中の子供たちのところへなんていけるわけないんだ。この町内だけでも、無理だ。」
父親はさらに続ける
「それに、あれだ、日本には煙突のある家だって珍しい。だから、枕元にだってなかなか行けないだろ。」
確かにそうだ。でもなぜ毎年ちゃんと靴下に入ってる?どうやって?この部屋までどうやってきたんだろう?
「お前も大人の入り口に立ったな。よし、教えてやる。」
ヨシヒコはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「実はな、お父ちゃんが、、、」
やっぱりそうか!ノブオが言ってた通りか!
「、、預かってきて、靴下に入れてるんだ。」
ん?ん?お父ちゃん???
「1人では回れないから、世界中の父親はみな、彼と契約してるんだ。先に預かってるんだ。だから、ひと晩でみんなのところに届くんだ。」
契約?え?なにそれ?なに言ってんの?
「わかったか、ヨシヒコ。そういうことだ。毎年毎年、彼も大変なんだ。察してやれ。」
そう言って、父親は家を出た。
いやいやいや、大変なのはお父ちゃんだろ、
毎年靴下には200円しか入ってないんだから。
窓の外に、職安へ向かうお父ちゃんが見えた。
ヨシヒコは思った。
もうなにもいうまい、、、
ヨシヒコは小学3年生の冬、
少し大人になった。
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