雑記【異世界のカウンセリングルーム】
観葉植物が三つ、枯れている。
私が通うカウンセリングルームの
待合の二つ、面談室の一つ。
ドラセナだろうか。
短い幹を残し、枯れた薄黄土色の葉っぱはそのままだ。
心配になる。
カウンセラーさん、忙しくてお世話できないのかな、とか
植物って人の心を表すんだよな、とか…
心配で苦しくなるので、全部片付けて欲しいのが正直なところ。しかし、あの大きな鉢の植物の処分は非常に骨が折れると思う。重いし、この土どうするよ…
手をつけたくない気も分からなくはない。
でも。私が通い始めておよそ5年。最初からそうだった気がする…
フェイクグリーンは沢山置いてあるので、それだけにして欲しいなぁ。カウンセリングルームに行って、カウンセラーさんの心配して不安になるなんて、なんか
水族館やら動物園の生き物たちに癒される反面
「この子達、一生をここで過ごすんだよな…快適なんだろうか…」と答えのない疑問が頭をめぐって悲しくなるあの現象に似ている。
水槽の前で、
「わ!まぐろ!おいしそう!」くらいのメンタルを保てたらなと思う。思わない。
カウンセラーさんには、どうか健やかであって欲しい。
私のせいで具合悪くなるんじゃないかと、毎回毎回心配だ。
私はこの世に居ない方がいいんだと、更に悩みが深くなる。
まぁこれも、自意識過剰のなせる技なんだけど。
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カウンセリングは、ファンタジーだと思っている。
あんな風に自分の話をじっくり聴いてくれる人間は、現実的じゃない。
インターホンを押して待合に入った瞬間から、そこは異世界だ(だからこそ現実的な枯れた植物が嫌なのかもしれない)。
そして私は、現実にはありえない受容や癒しを得る。死にたいと言っても良い、泣いてもいい、ありえない空間。
私自身と向き合う時間。
しかも白猫がいるもんだから、もうあれは妖精で間違いない。
そんなファンタジーに、いつまでも浸って居たくなる。
ずっと話を聞いて欲しい。泣かせて欲しい。何かから助けて欲しい。
でも、時間は限られている。ファンタジーからは、いつか覚めなくてはならない。
そのファンタジーを、現実へと〝ゆっくり少しずつ〟戻してくれるのが、カウンセラーさんの技術だ。
私はずっと、現金払いにしている。
カード払いが途中から導入されたが、そのまま、現金払いを続けている。
それは、カウンセラーさんが席を離れて、
背中を向けて手書きの領収書をゆっくり書いている、その時間が大切だと思うからだ。
その時にカウンセラーさんが背を向けながら、
「暑いから庭の世話も大変でしょう」「新しい服ですね」「このあとどこかへ?」「猫ちゃんは元気ですか?」
現実の雑談を少しする。笑顔が出る話だ。
これが、ファンタジーの世界が薄れていく瞬間。
ボロボロ泣いていた涙も止まり、穏やかな会話をする。
領収書を受け取り、ついに現実が迫ってくる。
「有難う御座いました。失礼します」とカウンセラーさんに別れを告げ、
カウンセリングルームの玄関ドアをガチャッと開けて屋外に出る。
アスファルトにつま先をコンコンッと打つと、魔法が解ける。そこは現実だ。
振り返ると、カウンセリングルームは跡形もなく消えている。
いや、消えてはいないと思うが、
その位、カウンセリングルームと現実はかけ離れた存在だ。
だからいつも、振り返らずに帰るようにしている。
そして2番線に滑り込んできた電車に乗る頃には
「あー今日夕飯何作ろうか…めんどくせ」と、
枯れたドラセナのような現実に、私はぐたっと身を置いているのだ。
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「決して振り返ってはいけないよ」
千と千尋の神隠しで、ハクがそんなこと言っていたなぁ。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。
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