Day③-2 ラマッラ 「命の保証はない」物騒な脅しの先に「西側王道の味」と「道端の木の実」を路上で食らう
「命の保証はない」物騒な町の入り口
早朝に世界遺産の町・ベツレヘムを発った
乗合タクシー「セルヴィス」は、
ドライバーと7人の乗客とともに北上を続ける。
車内にはアラブのアップテンポな音楽。
ドライバーは若い兄ちゃん。運転は丁寧でうまい。
ベツレヘムからラマッラまで。
一番の近道はエルサレムまで北上し、
そのままラマッラへ向かう方法。
直線距離で30キロ未満。1時間もかからない。
だけど、その道は選ばない。
イスラエル兵が待つ厳しいチェックポイントを
何度も通過しないと行けないから。
だから遠回りをしてでも、
チェックポイントを避けるルートを取る。
車はエルサレムの東側を大きく迂回。
峠をいくつも越えていく。
このあたりには平坦な土地がないのか、
背の低い木々と岩が交じるエリアがひたすら続く。
その小山、丘の上部に石造りの建物が立ち並ぶ。
日本なら高度成長期前、
開発が進む以前の吹田あたりってところか。
いや、なんか違う。
ここは2000年前くらいから
こんな感じだったような、不思議な感覚。
彼らの暮らしはどのようなものなのか。
1組だけ道路沿いで
羊飼いの親子を見たけど、ほんの一部だろう。
みんなどうやって生活しているの?
通過する小さな町は、どこも賑わってる。
というより、生命力に溢れている。
そこに、町の大小は関係ない。
みんな、日々の生活に全力を傾けているから。
たまたま町の人口が多いか少ないかだけ。
そんな感じじゃないかな。
ラマッラが近づく。
途中、何度かチェックポイントのようなところを通過する。
でも、だいたい無人。
1か所だけ、銃口をうちらの方に向けてる
兵士がいたかなあ、くらい。
チェックポイントは、日本でいう
高速道路の簡易な料金所みたいな見栄え。
兵士がいた1か所以外は監視カメラがあるだけ。
でも、何かを警戒しているのだろう、
無人のところを通り過ぎる前には
シートベルトをつけろと指示される。
いよいよラマッラ。
町の入り口には、イスラエル人立入禁止の看板。
「入ってきたらイスラエル法を犯すことになるし、
命の保証もないですよ」
と、赤い看板に白い文字で書かれている。
交通量の多い幹線道路沿いにさり気なく、
でも赤色で目を引くように立つ看板。
ともすれば見逃してしまうような景色。
潜在的に、この地はそういう場所だ。
とはいえ、その先に広がっていたのは、
何の変哲もないアラブの街並み。
危険な臭いはしない。
1時間半の車の旅を経て、
セルヴィスが止まったのは、ラマッラの中心部。
クラクションの音が
ここでも相変わらず騒がしい。
でもそれは町に活気がある証拠。
テンション上がるな、この町も。
道路の両側にビルや商店。
1階の路面店には飲食店、雑貨屋、宝飾店、両替商などなど。
歩道にもコーヒーやコーンなどの露店が立つ。
町の象徴、マナラ広場。
複数のライオン像が睨みを利かす。
放射状に伸びるどの道にも人が溢れかえっている。
エネルギーを放つ町。
…それにしても、腹が減った。
ライオン像からそう離れていないところに、
美味しそうなチキン屋さん発見!
見た目は、ほぼケンタッキーフライドチキン。
店員の兄ちゃんに聞く。
1ピースだけくださいな。
兄ちゃん、2個でどうだ?
いや、そんなに要らないんだけど。
2個で17シェケル、1個だと14シェケルらしい。
100円ちょっとしか変わらないのか…。
じゃあ2個で。
といった途端、白い容器に放り込まれる
チキン2ピースと大量のフライドチキン。
そしてコールスロー。
多すぎる。
僕、ファミチキ感覚で
かるーく頼んだつもりだったのに。
チキンはうまいの。
ケンタに匹敵する美味さ。
サクサクの衣にジューシーな身。
シェフはアラブ人っぽい、僕と同世代。
西側寄りの味なんて言うと怒られるかな…?
正直落ち着くね、この味は。
「謎の木の実」を路上で食らう
町の建物には、若い男性の肖像が書かれてる。
それも1つや2つじゃない。
隙間があれば書かれてる印象。
街の至る所に顔、顔、顔。
どれもしっかりと特徴を捉えた肖像。
ただの落書きじゃない。これは果たして…。
雨が降る中、歩みを進めると出会ったのは若者3人組。
路上の木に手を伸ばす。フルーツでも生ってるのか?
近づいてみるとあちらから話しかけてくる。
アラビア語わからないの。
でも、ジェスチャーで伝えてくる。
食ってみろと、この木の実を。
黄緑色の小指の先くらいの実。
ちょっと毛が生えてる。
地元の公園にぶら下がってた
食べられない豆の木の表面みたいな肌触り。
これは何の実なのか尋ねてみる。
ローズ、ローズって言っている。たぶん。
でもバラじゃないよな、さすがに。
木に付いてたんだもの。
ほんとは何を意味してるんだろ。
まあいいや。
かじってみる。酸っぱい。でも青臭さもなくてうまい。
何というか、お口直しに合いそうな感じ。
気づけば5個くらい食べてた。
食べながら、同じ言葉を繰り返し聞かせてくる
3人組のうちの1人。
ラーイラハーイッラッラー。
お前も言ってみろって。
ラーイラハーイッラッラー。
これでお前もムスリムだ!って言ってる気がする。
アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)みたいなやつ?
って聞く。
そうだ!って嬉しそう。
あとで調べてみました。
「アッラーの他に神はいません」
イスラム教徒の信仰の
「基本のき」みたいなもののようです。
なぜ僕に何度も言わせたんだろう…。
そんなこんなしてるうちに、
雨の強さがえげつないレベルになる。
僕との写真をせがみ、急いで立ち去ろうとする3人組。
ちょっと待って。
あと少しだけ、木の実取ってくれない?
ときには雨の日のほうがいい場面もある。
でも、旅行のときは晴れに限る。
街から人が減ってしまうから。
つづく