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侠客鬼瓦興業 第42話「ここは川崎・・・ハメリカンナイト」

地域貢献のためにみんなで滑りに行く・・・。

(みんなでスケートに行くことがどうして地域貢献につながるんだろう?それに高倉さんまで・・・。もしかしてテキヤさんの間では、スケートが大ブームなのかな?)

僕はあれこれ考えをめぐらせながら、みんなの後ろを追いかけて境内を後にし、はっとあることに気がついた。

「追島さん・・・?」

「銀二さーん、そうだ追島さんが、まだ中にいるんですよー」
僕は境内の中を指差しながら、大声で銀二さんに呼びかけた。

「あ、そうだ、追島の兄いのこと忘れてた」
銀二さんはご機嫌な顔で楊枝を咥えている高倉さんを見た。

「おっとあぶねえ、野郎のことを忘れて滑りに行ったんじゃ、十年はうらまれちまうからな」

「あの、それじゃ呼んできます」
僕はそう言うと、境内の追島さんのもとへ走った。

追島さんは片付けを終え、たばこを吸いながら山さんと話をしていた。

「あの追島さん、高倉さんがみんなで地域貢献に行くから呼んでくるようにって・・・」

「地域貢献?」

追島さんは一瞬不思議そうな顔をしたあと、少しあきれた顔で
「銀二がそう言ったのか?」

「はい」

「俺は今日野暮用があるから行かねえって、それから帰りは別に一人で戻るって、高倉の頭と銀二に伝えてくれ」
追島さんはそう言うと、山さんと楽しそうに話しを続けた。

僕は追島さんの楽しそうな姿に、すこしほっとしながら
「それじゃ、お疲れ様でした」
そう挨拶すると、境内の外に向かおうとしたそのとき
「おい、吉宗・・・」
追島さんが僕を呼び止めた。

「おまえ、地域貢献って、大丈夫なのか?」

「えっ?大丈夫っていったい?」

「めぐみちゃんだよ・・・」

「めぐみちゃん?」

僕は首をかしげたあと
「川崎の地域貢献なら、きっとめぐみちゃんも喜ぶとおもいます。」
そう言うと、追島さんは眉をしかめて
「おまえ、地域貢献って?」
何か言いかけたとき
「兄貴ー、なにやってるんすかーーー!」
境内の出口近くから、鉄の大きな叫び声が響いてきた。

「あーにーきーーー、早く早くーーー!」

「まったくうるさいな鉄は」

僕は苦笑いを浮かべると
「それじゃ、地域貢献行ってきます!」
追島さんにそう告げて鉄のもとへ走った。

境内を出て少し歩くと小さな保育園が目に入ってきた。そこは昼間、春菜先生と追島さんの娘のユキちゃんをはじめて見た保育園だった。

(あのお慶さんっていう人、相当怒ってたけれど、春菜先生大丈夫だったのかな・・・)
僕は誰もいない保育園の園庭を静かに眺めていた。 

「おーい吉宗ー、何ボーっと保育園なんか眺めてんだよー、早くしねえと地域貢献、置いて行っちまうぞー」

「あ、すいません」
僕は慌ててみんなの下に走りよると、追島さんが行かないことを告げ、地域貢献のスケート場に向かって歩きだした。

「兄貴ー、う、う、うれしいっすねー、高級な、すべーるすべるっすよー、ゲヘへへ」

鉄の言葉に
「高級って、川崎にはそんなところがあるんだ」
僕は頭の中で高級なスケートリンクを頭に描いて、はっとあることに気がついた。

(そういえばテレビでシンデレラとかミッキーマウスがスケートをしているショーを見たことがあるけれど、高級ってもしかしてあの人たちといっしょに滑れるのかな?)
そう思った僕は笑いながら鉄に声をかけた。

「鉄、もしかして、シンデレラとかと滑れるのかい?」 

「え!シンデレラと滑る!?」

鉄は僕の顔を見ながら、急にうれしそうな顔で不気味な微笑を浮かべた。

「さすがは兄貴だー、日本の女じゃ物足りなくて、金髪のお姉さんが好みだったんすね、げへへへ・・・」

「いや別に好みとかじゃ無いけど・・・」

「いやさすがだ、まさにインターナショナル、プレイボーイだー」
鉄は真剣に僕を尊敬のまなざしで見つめていた。

僕は訳のわからない状態で、高倉さんと銀二さんの後を追って歩いていた。隣にはほっぺを真っ赤にしながらよだれをたらしている鉄の姿があったが、僕は地域貢献という言葉にひそかに心引かれながら、期待いっぱいに歩いていた。
なぜなら僕は、地域貢献や社会福祉などといったことが大好きで、子供のころは良く募金集めのため街頭に立って活動していたからだった。

やがて僕達一行は、大きなガード下に差し掛かった。左手には巨大な娯楽施設のような建物があり、僕はあれこれ考え事をしながらその建物の中に向かって歩いていた。

「おい、何処行くんだよ吉宗!」

「え?」

気がつくと銀二さんたちは、建物を通り越した先の大きな交差点の前で立っていた。

「お前そこは競馬場だろが、こっちだよこっち」

「競馬場?」

見るとそこはスケート場ではなく、川崎の競馬場だった、僕は慌てて銀二さん達のもとへ走った。

大通りの信号が青に変わると、銀二さんたちは急に小走りになりだした。

「いやー若頭、あの街を見ちまうと、やっぱ心が弾んできちまうっすね」
銀二さんの言葉に
「おう、そうだな、俺もいまだにここに来ると心が若返ってくるぜ」
高倉さんと銀二さんは、少年のような笑顔で語り合いながら交差点を渡っていた。

(二人とも子供みたいに喜んで、よっぽど好きなんだなー)

僕はガラの悪い人たちが、子供のようにはしゃいで、スケート場に向かう姿に、何処と無くほほえましさを感じながら、みんなの後を追いかけていた。

交差点を渡ってまもなくすると、ちいさなピンクの建物の門が姿を現した。
銀二さんと高倉さんは、キョロキョロとあたりを見渡した後、さっと小走りでその門の中に入っていった。

「え?ここ・・・?」

僕はスケート場のあまりの小ささに目を丸くしながら、二人が入った門の中に足を踏み入れた。

『黄金の城』

僕の目に不思議な名前の看板のついた、豪華絢爛な入り口が飛び込んできた。

「いくら何でも、ここはお前らにはまだ早い・・・」

高倉さんはそういいながら胸ポケットの100万の札束から、20万くらい引き抜くと銀二さんに黙って手渡し、そして自分はうれしそうに、その『黄金の城』という建物に一人で入っていった。

「ありがとうございやーす!!当然っす、自分らはあっちに行かせてもらいやす!!」

銀二さんは高倉さんから大金を受け取ると、『黄金の城』と書かれた看板の隣にある別の看板の入り口に目をやりながら、深々と頭を下げた。
僕もつられて高倉さんに頭を下げながら、銀二さんが見た入り口に目を移した。

そこには暗がりにチャラチャラと光るネオンで

 『ハメリカン・ナイト』

そう書かれた、不思議な名前のスケート場の入り口が存在していた。

「ハメリカンナイト?」

僕は首をかしげながら、銀二さんの後に続いてそのネオンの入り口を通り抜け中に入っていった。

「いらっしゃいませ・・・」
僕達の両脇で黒服に蝶ネクタイ姿の男の人が、それは丁寧に頭を下げて挨拶をしてきた。

「あ、これは伊集院様・・・、ようこそおいで下さいました。」
入ってすぐのカウンター越しから、テカテカにポマードで頭を固めた男の人が、銀二さんに向かって頭をさげた。

「伊集院?」

僕は驚いて銀二さんの顔を見た、しかし銀二さんは何事も無い顔で手にしていた札束から数万円引き抜くと
「マネージャー、三人ね・・・」
そう言いながら差し出した。

「いつもありがとうございます、伊集院様、それでは三名様で6万円頂戴いたします」

(三人で、6万円!?、それじゃ、一人二万円!?おまけに伊集院様って、なんで?
僕の頭はパニック状態に陥っていた。

「おい行くぞー、お前ら!」
銀二さんはうれしそうにそう言うと、靴を脱いでどかどかと綺麗なじゅうたんの引き詰められたホールを渡り奥へ入っていった。

「あ、銀二さん、待ってください」
僕は慌てて靴を脱いで手にすると下駄箱をさがして、あたりをキョロキョロ見回した。

「お客様、お靴の方は、私どもでお預かりいたしますので・・・」
僕の前に黒服のお兄さんが近づいて来た。

「あ、すいません」

僕は黒服兄さんに促されるまま、慌てて持っていた靴を差し出すと

「あの、それじゃ僕は、スピードの26センチでお願いします」
そう自分の足のサイズと好みのスケート靴をお願いした。

「26センチ?!」

僕の後ろで靴を脱いでいた鉄が、青ざめた顔でつぶやいた。

「あ、兄貴、26センチもあるんすか!?で、でけえ・・・」

鉄はそういいながら手のひらを広げて、サイズを測る素振りをしていた。

「え?別に驚くことは・・・」

「そんなことねーっすよ、俺なんか元気な時で、15センチ、いやおまけして17センチ・・・」
鉄はそういいながら下を向き自分の股間のほうを見ていた。

「15センチ?17センチ?」
僕は鉄の足元を見ながら首をかしげていた。

「お客様、どうぞこちらへ、お連れ様がお待ちです」

黒服のお兄さんに案内されながら、僕と鉄は豪華なカーペットが敷かれたホールを歩いて奥へと入っていった。

まさか、ここが、・・・・・・・・・だなんて気がつかず。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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