長良川から切りひらく、川と人の未来|編集者のこぼれ話①
『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』という本の編集を担当しました、農文協 編集部の馬場です。私は岐阜市の長良川の畔で生まれ、長良川水系で釣りや川遊びをして育ちました。最初に編集した本が、かくまつとむ著『野山の名人秘伝帳』でした。その後も戸門秀雄著『職漁師伝 渓流に生きた最後の名人たち』、千葉克介著・塩野米松解題『消えた山人 昭和の伝統マタギ』など、山河のなりわいをテーマにした本を企画・編集してきました。編集歴は16年ほどですが、今回の長良川の本には格別な思い入れがあり、何回かに分けて、編集の裏話、こぼれ話などをお届けしていければと考えています。まずは、本のあらましから。
『長良川とアユの河口堰』ってどんな本?
生物多様性の喪失が「地球の限界」を超えていることが明らかになった現代。河口堰によって分断された清流長良川の長大な生物圏を再生し、社会や経済の基盤として復権させ、川と人の関係を結びなおすための本です。
長良川の鵜飼も、アユやサツキマスも、釣りや漁も、川遊びも、長良川の水文化の一部ですが、今、川は洪水を流す水路と化し、豊かな生態系を土台とした文化装置としての姿を失いつつあります。河口堰に加え、国土強靭化の名のもとで急激に進む河川整備、川の温暖化なども影を落とし、長良川の水文化は危機に瀕しています。
なぜこの本をつくろうと思ったのか
本州の大河で唯一、山・川・海の生物圏の連続性を保ち、豊かな生態系を誇っていた釣りの聖地・長良川ですが、河口堰運用後は長大な汽水域の生物圏が消滅し、アユもサツキマスも激減しました。秋、孵化したアユ仔魚の大半が海に下れず、堰の手前で死んでいます。しかし、堰が完成して今年で30年。さまざまな調査や検討が行なわれ、ゲート操作の変更で長大な生態系と水文化が甦る、という誰もが折り合える出口が見えてきています。オランダや韓国では堰の運用改善で生態系の回復が大きく前進しています。新しい議論の土台をつくりたい。そう思い、この本の企画・編集を進めてきました。
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著者は、水文学者の蔵治光一郎先生をはじめ第一線で活躍する方たち
編者の蔵治光一郎先生は気鋭の森林水文学者で、青土社の『現代思想』2023年11月号「特集〈水〉を考える」でも巻頭討議「意味ある〈水〉を取り戻すために」を担当されるなど、幅広く活躍されています。水循環基本法フォローアップ委員会の座長、愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会の委員なども務められ、今回、長良川流域の漁師・市民、関係分野の第一線で活躍する研究者の皆さんの力を集めていただきました。
川と人の関係を結びなおすために、「川の国」で暮らす人たちに知っておいてほしい科学的・社会的な情報をまとめた本です。若い人たちにも読んでもらえるよう、高校生から読める内容を心がけて、研究者の皆さんも平易な言葉で書いてくださいました。
表紙画は、絵本作家の村上康成さん
表紙画は、岐阜県出身で日本を代表する絵本作家、自然派アーティストの村上康成さんに長良川の天然アユの絵を描いていただきました。
村上さんの絵は、「ヤマメのピンク」シリーズをはじめとする数々の絵本はもちろん、L.L.Beanとコラボしたトートバッグなど、一度は見たことがある方が多いと思います。私も以前から村上さんのファンだったので、今回表紙画を描いていただけると決まったときは心が躍りました。故郷の川を思い続けてきた村上さんの手により、傑作が誕生しました。この話について、今後のnoteでもお話しします。
本の推薦文(帯文)は、木彫家の山口保さん、サカナクションの山口一郎さん
本の帯の推薦文(帯文と言われます)は、釣りを愛するサカナクションの山口一郎さんと、父で岐阜県出身の木彫家である山口保さんにお願いしました。
保さんは北海道小樽市在住、一郎さんも小樽市出身ですが、長良川とは意外な(?)接点がおありです。このあたりの話も、今後のnoteでお話しします。
以上、『長良川のアユと河口堰』に関するざっくりした概要でした。今後は5~6回の連載で、さらに詳しくお話しできればと思っています。よろしければ、お付き合いください。