見出し画像

「ブラックマーケティング」を読んでー脳科学とマーケティングの出会いからの示唆

【今日のポイント】

『ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単にだまされる Kindle版
中野信子 (著), 鳥山正博 (著) 』
を読みました。

脳科学者の中野氏と、経済学者、コンサルタントの鳥山氏(お二人とも大学教授として教鞭も取られています)の共著で、

本記事執筆時点から5年前のものですが、今読んでも、脳科学の適用先の可能性と危険性双方について貴重な示唆が得られる、お薦めの一冊です。


1.書籍情報、構成


先日、『ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単にだまされる Kindle版
中野信子 (著), 鳥山正博 (著) 2019/9/27』
を読みました。


共著者の鳥山先生と、直接お会いする機会をいただき、先生の著書に関心を持ったことが、本書を知るきっかけとなりました。

本記事執筆時点から5年前の著書ではありますが、
心理学とも異なり、脳科学の視点からマーケティングの手法を、ブラックマーケティングだけでなく、マーケティング全般についてわかりやすく解説しているので、
元々私は脳科学(脳内ホルモン)関係には興味をいただいていたこともあって大変勉強になり、多くの示唆を得られました。

本書(Kindle版で245ページ)の構成は以下のとおりです。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同じ。)

『【目次】
序章 「悪のマーケティング」はなぜはびこるのか
 脳科学者からみたマーケティングへの疑問

第1章 焦りをかき立て判断力を奪う商法にご用心
 セロトニン×不安を煽るマーケティング

第2章 『ハマたがる脳』を刺激する罠の数々』
 ドーパミン×依存させるマーケティング

第3章 理性を麻痺させ「ほしい」と思わせる仕掛け
 オキシトシン×感情マーケティング

第4章 五感を使って他者を操る手法とは
 前頭葉機能×刷り込みマーケティング

第5章 だまされやすさは遺伝子で決まる?
 遺伝子に操られる脳

終章 「よい子のマーケティング」を脱脂、サイエンスへ
 マーケティング学者が見た脳科学の可能性』

本書は、中野氏が主に脳科学の視点から、鳥山氏が主にがマーケティング手法の視点から、お互いの記載内容を引用して解説するという、掛け合いに近い構成となっています。

 今までに知っていたマーケティング手法についても、心理学に加えて脳科学と結びつけることによって、その裏付けとさらなる応用、今後の適用先や利用方法の変化に関する示唆にも富んだ内容となっています。

なお、終章では、鳥山氏が、各章の要点をマーケティング視点で整理されていますので、この章から読んでみるのも、本書の概要を効率的に知るうえでは効果的かと思います。

2.自分の気付き


本著の中で、特に印象に残り、私が気付きを得られた部分をいくつかご紹介します。

● 脳科学が有権者が政治家を選挙で選ぶ働きへの理解を通じて利用される「ニューロポリティクス」という研究領域の紹介

⇒序章での中野氏の脳科学の適用領域に関する事例紹介の一つです。

最近の大統領選挙などをみても、論理的な政策論議よりもイメージ戦略の有効性が示されたとの印象を受けていましたが、
マーケティングだけでなく、脳科学の適用先の広がりに驚くとともに、有権者などのユーザーリテラシーの向上も必要と感じさせられました。


● 脳は複雑な判断を避けたい(怠けたがる)ことを利用した数々のマーケティング手法

序章や第1章。第2章、第4章などでは、ブームに乗ったり誰かに頼りたいと考えたりする消費者心理のメカニズムについて、脳は複雑な判断をする負荷を低減したがる傾向があるため、口コミなども含めて、データなどに基づく理性的な判断よりも優先するとの視点から解説されています。
心理学面からも、このような消費者の行動は語られて来ましたが、脳の働きから見ることで、後述のセグメンテーションやターゲティングへの適用も図りやすくなるかと思います。

● ソーシャルゲームの課金システムにハマる事象へのドーパミンの影響

第2章でドーパミンが脳に及ぼす影響から、人が持つ依存性や好奇心(新規探索性)の面から従来のマーケティング手法を解説しています。

 いわゆる「サンクコスト」を避ける心理(今までかけた費用を諦めるのはもったいない)などもドーパミンの影響が考えられるとは、非常に新鮮な指摘であり、かつ、依存性の怖さも改めて感じた次第です。


● 前頭葉の機能を利用した刷り込みマーケティング

第4章で、前頭葉が司っている理性や認知の機能の特性を利用したサブリミナル効果や適切な選択肢の提示ネット社会以前から人が持つ攻撃性などについて解説されています。
ブランドやステルスマーケティングなどについてネット社会ならではの動向も含めて解説されており、現在のSNSマーケティングなどをみると、本書の指摘の先見性を改めて感じた次第です。


● 遺伝子の働きが、環境や風土などの後天的な影響も受けること(『エピジェネティクス的な要因』の関与)が、消費行動における国民性の違いに影響している可能性

第5章の中の、鳥山氏の日米各市場における消費者の嗜好の違いの指摘に対して中野氏が上記の要因について解説していますが、

上記の指摘と合わせて、同じ章の、「男脳」と「女脳」などの性差についての、脳の違いよりも社会的な要因から影響が大きいのではとの指摘などからは、

国民性の違いだけでなく、地域性や、長期には企業などの組織の文化などにも同様の現象が見られる可能性があるのではと感じた次第です。


● リスク回避傾向の高い日本人が世界一多くの新商品を出す「新商品のパラドクス」とイグノーベル賞(ノーベル賞のパロディ)における日本人の活躍にみる、創造性の発揮とイノベーションの可能性

⇒上記は、第5章で、鳥山氏と中野氏がそれぞれ指摘されている事象からみた、日本の可能性に関する指摘の部分です。

同調圧力やプレッシャーなどから開放される環境は、「心理的安全性」にも通じるものがあるかと思います。

企業文化も含めて、創造性を発揮できる環境づくり、知的資産経営でいえば「構造資産」の構築に相当するかと思いますが、その重要性が、脳科学やマーケティングの事象からも裏付けられたのではと感じた次第です。


● 脳の個体差をセグメンテーションの軸として用いて特定層をターゲティングする

終章鳥山氏は、従来のマーケティングにおけるセグメンテーションの軸(性別・年齢などのデモグラフィックな軸ジオグラフィック(地理的)な軸に加えて、上記の脳科学(ドーパミンなど)を利用したセグメンテーションを提唱しています。

 このセグメンテーションをドーパミンやオキシトシンなどの脳内物質に関する特性に基づく分類で行うことで、新しい顧客へのアプローチ方法とプロモーション方法が見えてくるとともに、

ネット社会においては、多数の人々に効率的にアプローチできることから、割合は低いターゲット層でも商業的に成り立つ規模の市場を得られる可能性を指摘されています。

 この指摘は悪徳商法だけでなく、通常の事業におけるマーケティングにも利用可能なものかと感じる次第です。

また、鳥山氏は、消費者の意識に上っていない(言語化されていない)反応を利用できる環境が整備されつつあり、そこに脳科学を適用するマーケティング手法の可能性など、脳科学の利用による未来のマーケティングや、マーケティングの視点から見た脳科学へ今後の発展に関する期待についても言及されています。

悪徳商法から自社や自分、家族などを守るためにも、自社の商品・サービスのマーケティングを発展させるためにも、脳科学の理解と利用は非常に重要になってくると考える次第です。

3.ビフォア・アフター


 本書を読む前より、主に健康面から脳内物質の働きには関心を持っており朝散歩によるセロトニンの活性化を意識するなどしていましたが、

 マーケティングだけでなく、イノベーション関連など、企業活動全般にわたって、脳科学の知見は重要と考えるようになりました。

普段、業務などで出会う事象についても、「これはドーパミンの影響の視点から考えたらどう理解できるだろうか?」などの視点を持つように心がけ始めております。

4 こんな人にお薦め


  本書は、題名の「ブラックマーケティング」の通り、詐欺などの悪徳商法による被害を受けないための知識と理解を深めたい方や家族などにその意識を持ってもらいたいと思う方にお薦めできる本かと思います。

 それに加えて、自社のマーケティングやセルフブランディングイノベーションの活性化などの事業活動やその戦略の見直しについて、新しい視点を得る機会ともなるものと、一読をお勧めする次第です。

『ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単にだまされる Kindle版
中野 信子 (著), 鳥山 正博 (著) 2019/9/27』


★ この記事がいいなと思ったら、下の「いいね」やツイートをよろしくお願い申し上げます(*^^*)。

#ブラックマーケティング #脳科学とマーケティング #鳥山正博 #中野信子 #ビジネス #読書感想文 #書籍紹介

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集