『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹(著)
荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。
仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。
素晴らしい一冊。知らない世界の本を読んでみようと手にとったが、思い掛けない収穫だった。
ろう者がテーマの社会モノだが、ミステリーとしても一級品。ラストが見事に予想を裏切る。そうそうお目にかかれない美しさだった。
ろう者の家族と育った聴者が主人公。警察で事務仕事をしていたが、とあるトラブルで辞めざるを得なくなり、手話通訳者として再スタートする。本編は殺人事件だが、いくつもの過去話がメイン。事件の過去、主人公の過去、様々な過去が明らかになるにつれ、版画に色がついて行くように、物語が完成していく。
また、様々なことを知らないんだなぁと痛感する。四十条の存在も知らなかったし、手話が2種類あるとか、知りもしなかった。
手話は日本語をジェスチャーに変えたものだと思っていたが、それは「日本語対応手話」で、ジェスチャー自体に意味や文法を持つのが「日本手話」。生まれながらのろう者は日本手話が便利だし、事故や病気など後天的にろう者になった人には日本語対応手話の方が便利。TVの手話通訳は多分日本語対応手話なんだろう。
そもそも、ろう者にとって日本語が第二言語、というのが衝撃だった。聾唖(ろうあ)者ではなく、喋られるのだから、聾(ろう)者だと名乗っていたり、言葉一つ一つとっても無関心だったと気付かされる。
しかしなりより物語が美しかった。主人公が真っ昼間からセックスしてなければ、学校の課題図書とかになってるのではなかろうか。
文庫版後書きにあるとおり、読書メーターでバズるのもうなずける。続編も是非読んでみたい。手話に方言があると聞くし、スマホのTV電話がろう者にどういう影響を与えたのかとか、そんな話も読んでみたい。
Twitter で作者様からコメントを頂いたので転記!
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