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観た映画の感想 #113『碁盤斬り』

『碁盤斬り』を観ました。

監督:白石和彌
脚本:加藤正人
出演:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、立川談慶、中村優子、斎藤工、小泉今日子、國村準、他

身に覚えのない罪をきせられたうえに妻も失い、故郷の彦根藩を追われた浪人の柳田格之進は、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしていた。実直な格之進は、かねて嗜む囲碁にもその人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心がけている。そんなある日、旧知の藩士からかつての冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は復讐を決意。お絹は仇討ち決行のため、自らが犠牲になる道を選ぶが……。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/99022/

草彅剛さんはすごく独特なお芝居をする人だというのは勿論知ってたんですけど、本当に凄い役者なんだなって気づかされたのは実は大河ドラマ『青天を衝け』の徳川慶喜からで。なので俳優・草彅剛のファン歴は全然長くないんですけど、きっかけともなった時代劇での主演作となればまあ観ないわけにはいかないでしょう、というわけで。

草彅さんってどんな役を演じていても、草彅さんご本人そのまんまの雰囲気と役柄そのものの雰囲気を常に同時にまとっているような、すごく不思議な演技をする印象があるんですよね。自然体というのともまた少し違ってて。今作においてもそれは健在で、どこからどう見ても草彅剛なのに、柳田格之進という人間が本当にそこにいるとしか思えないリアリティもあって……言葉の発し方ひとつとってもそうだし、あとはひとつひとつの所作、特に碁石を打つ時の姿勢の良さと指先の美しさがもう本当に格別でしたね。

この映画における囲碁、言葉で多くを語らない柳田の生きざまだったり心の在りようを代わりに表すツールでもあって、それはつまり囲碁を通じて柳田と向き合う人間の在りようを映し出す鏡でもあるんですけど、この「心と心がぶつかり合い、触れ合う場」としての囲碁、という舞台装置がまた良かった。
僕は囲碁のルールは全く分からないんですが、それでも「この対局を通じて両者の間にどういう心のやり取りが生まれているか」はものすごく伝わってくるんですよ。ポーカーやルーレットのルールが全く分からなくても『マルドゥック・スクランブル』のカジノが最高にスリリングなシーンとして印象に残っているのと似たようなものでしょうか。

例えば本編で一番の敵、斎藤工さんが演じる柴田兵庫は柳田との対局で、負けるのが分かると勝負を投げて逃げる。それも二度。これだけで、生き方も囲碁の打ち方も常に清廉潔白であろうとする柳田とは正反対の人物だっていうことが分かるわけですよ。なので濡れ衣を着せた件について柳田に問い詰められた時に柴田が言う「お前が清廉すぎるせいで居場所をなくした者たちだっているのだ!」みたいな言い訳も、罪を逃れるために適当言ってるだけなんだろうな~というのが察せられると。

その一方で囲碁を通じて柳田と関わっていく源兵衛との年齢や身分の差を超えた友情もまた良くって……あこぎな商売ばっかりしてた源兵衛が、柳田の清廉さに影響を受けて誠実な商売人になっていく。「この人の前では恥ずかしくない人間でありたい」と思える人物と出会えるって、友情というものの一番美しいあり方じゃあないですか……! だんだんと善性を得ていく國村準さんの柔らかい演技も本当に素晴らしかった。

あとは「碁盤斬り」というタイトルの回収の仕方も美しかった。
碁盤を「斬」った時、囲碁を通じて得た縁も一緒に切ってしまったという。でも喧嘩別れしたわけじゃないし、またいつか縁が繋がる時も来るんじゃないかという希望もほのかにあって。だってどれだけ貧乏暮らしで食い詰めてても柳田は囲碁を捨てなかったんだから。

強いて言うなら中盤に時系列がちょっと分かりにくいところがあったのと、実写『るろうに剣心』がハードルを爆上げした後の目で見ると殺陣のシーンがちょっとゆるかったっていうのはあるんですが、中川大志さんはじめ他の役者陣もみなさん演技巧者揃いでお芝居を見ているだけで楽しかったですし、白石監督の映画にしては勧善懲悪具合がはっきりしてるので、そういう意味でも観やすくて満足度の非常に高い一作でした。

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