観た映画の感想 #128『Cloud クラウド』
『Cloud クラウド』を観ました。
まず、菅田将暉さん×黒沢清監督って今までありそうでなかったなーと思ったんですけど、これが初めてとは思えないくらいしっくり来てた印象です。より正確に言うと今回の役みたいな「温度感のない菅田将暉」と黒沢監督の作風がすごく合ってるというか。
吉井が健康器具を「買い付け」に来る冒頭のシーンでの工場長夫婦とのやり取りで世間一般の感覚とは明らかにズレてる人間だってことが分かる一方、買ってきたものを闇サイトに出品して一つずつ売れていくのを夜通し監視して、全部売りきったところで安堵するところは人並みに焦燥感を覚える人物でもあるって分かるシーンでもあり。
(全然関係ないけど商品を実店舗以外にネットでも販売するタイプのアンティークショップで働いていたことがあるんですが、吉井が転売品を出品するまでの、撮影ブースで商品の写真を撮ってパソコンで加工してネットにアップする作業がその時にやっていた作業そのまんまで笑ってしまいました)
かと思えば、後ろ暗い商売してる割にはものすごい迂闊なんですよね。
先ほどの健康器具の売上金が口座に振り込まれてるのを確認するシーンで預金通帳に記入されている残高、売上が入る前は3万円ちょっとしかないし、中盤でとある事情があって警察に相談に行った際、矢柴俊博さん演じる刑事に「あなた転売屋やってるんだって?」って聞かれて普通に「ええ……」って認めちゃうあたりとか。
吉井以外の登場人物もほぼ全員そうなんですけど、こういう人現実にも居そうで居なさそう……と思うんだけどやっぱりどこかには居そう、くらいの塩梅の人をポンと話の中に出すのが上手いと思うんですよね、黒沢監督。
あとはなんでもないようなカットからヌッと怖いモノが出てくる恐怖演出。深夜に吉井の自宅を荒川良々さん演じる町工場の上長が訪ねてくるシーンもだし、バスの中で吉井と秋子が引っ越し先の物件情報を見てるスマホを、真後ろの席から覗いてる男が「いつの間にか」としか言えないタイミングでカットインしてくる瞬間とかめちゃくちゃ怖かった。
敢えて言うなら、話の前半ではギリギリ保たれていたリアリティが後半で急にフィクション感を上げていくのが若干勿体ないとは思いました。工場での銃撃戦に突入した後半のシーンで、荒川良々さんのキャラが実は妻子を殺して逃亡中の犯人(らしい)っていう情報が突然開示されましたけど、そんな人物が町工場でそれなりの地位に就けてたのっていくらなんでもおかしくない……? とか。
物語の決着が割とふわっとしてるというか、そこまでの引っ張り方に対してものすごくあっさりしてるとも思うんですけど、でも黒沢監督の映画って基本どれもそんな感じって気もするし……
あと今回もやってくれた、明らかに合成をはめこんでる背景の中を走る車で主人公が呆然とした顔をしながらどこかに向かっていくラストシーン。これがあると「これこれー!」ってなりますよね(笑)
菅田さん以外だと、個人的には窪田正孝さんと古川琴音さんも黒沢ワールドの住人適性すごくあるなって感じたので今後も何かしら出て欲しいなと思った次第。特に古川さんにはねー、やっぱりホラーやって欲しいんですよ!