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C.G.ユングを詠む(003)-少年期
C.G.ユングについて、河合隼雄先生が表された「ユングの生涯」の読後メモの3回目。
1回目と2回目はこちら。
その続きとなる。
天外伺朗さんの「運命のシナリオ」の口絵「無意識層に巣食うモンスターたち」からモンスターから意識層に着目して書き換えた図を、「意識と無意識の階層構造」として描いたものをまた載せておく。
![](https://assets.st-note.com/img/1696402594643-h30Y1gDZdW.png)
7.変わり者ユング少年
九から十一歳ごろのユングは、内省する時間がほとんどで、ひとり遊びしている子だった。
それよりやや年を経ると、いたずらっ子の側面が出てくる。
代数は全く理解しようとしなかった。a=bでb=cならばa=cという論理がおかしいと考えていたそう。a,b,cと明らかに違うものを等しいとするのは理解できなかった。祖父のC.G.ユング(同名)も同じく代数は駄目だったそうだ。
因みに、河合隼雄先生はトルストイも数学ができなかったと書いている。複雑な方程式を駆使する相対性理論や量子論で宇宙を見なくても、鋭い感性があれば宇宙が理解できるのかもしれない。そっちの方が羨ましい。
十二歳になると、あることをきっかけに学校の帰り道とか、宿題をさせられそうになると意識を失う発作を起こすようになる。河合先生は「学校恐怖症」ではないかと書いている。
半年ほど不登校になり、近所を散策したり、漫画を書いていた。こんなふうに。
「私(ユング)は自由で、数時間もの間、夢想に耽ることもできたし、森の中や川にほとりや谷間など好きなところへはどこへでも行けた。
私は戦闘の絵や、戦争や、襲撃され焼き払われている古城の凄まじい光景を再び書き始め、あるいはいくページもマンガをかいたりした。同じようなマンガが、今日までずっと、眠りゆく前に時折浮かんでくる。
絶えず動き回り変化する仮面が歯を見せてニコッと笑いながら現れて来、その中にその後すぐに死んだ人の親しみ深い顔があるのである。」
18%(注:電子版なのでページが%表示)
河合隼雄著[ユングの生涯」
父親と知人との会話から、自分が経済的に非常に父親の負担になっていることを知ると、ユング少年には、発作を克服しようという意思が芽生える。2〜3週間で発作は治って、学校にも再び登校できるようになった。
ユングは、神経症とはどんなものが身をもって知ったと「自伝」に書いている。自伝を読む時に確認したい。
8.もう一人のユング
ユングは少年時代から、もう一人の人格が自分の中にいることに気がついていた。
人格No.2と呼んでいた。
「恥ずかしがり屋で、臆病で疑い深く、青白く痩せて見るからに丈夫そうではなかった。」17%
河合隼雄著[ユングの生涯」
これが少年ユングの人格No.1。No1の背後には、際限のないほどの深さと広がりをもつ人格No.2がいた。精神病理的な二重人格や、人格の分裂とは関係ないとユングは言っている。
私も、10人ぐらいは持っている。インテグラル理論のケン・ウィルバーも成熟した成人ならば10〜15ぐらいの人格とかペルソナを持っているはずと言っている。
それで、ユングの人格No.2は、老練な権威者であったようだ。
ユングの母も人格No.1とNo.2を持ち合わせていたらしい。
ユングの母の父(ようは祖父)はバーゼルの牧師であったが、透視力があるとか、死者と交信できるとか言われた人である。彼は常に幽霊に取り囲まれていると信じていたので、説教の草稿を作っているとき、背後を幽霊が歩いて邪魔されぬように、娘(ユングの母)に自分の後ろにいうように頼んだという。
このようなことは、彼女の人格形成に大きな影響をもったことであろう。19%
河合隼雄著[ユングの生涯」
ユングの母親の人格No.2は時々、現れてユングを驚かしたらしい。エピソードは省略するが、自身の人格No.2との相剋は相当な苦労であった。
9.牧師であるユングの父との葛藤
ユングの父親は敬虔なクリスチャンの牧師であった。十二歳ごろから、その教えを素直には受け止められなくなった。牧師である父親の教えに沿うようにしたが、内側から溢れる考えを止めることはできなかった。
痛切な葛藤に末、ユングはこう解釈した。
アダムとイヴが罪を犯したのも、神が彼らの中にそのような可能性を開いておかれたからである。そのことは、神がアダムとイヴ以前に悪魔を創られたことからも明らかである。
「全能の神は、アダムとイヴが罪を犯さなければならないように全てを整え給うた。だから、彼らは罪を犯したのは、神の意志であった。」
このように考えて、ユングは結局は、そのような考えが浮かんでくるにしろ、それを受け容れ、それに勇気をもって直面して行こうと決心する。20%
河合隼雄著[ユングの生涯」
二人が罪を犯すのもエデンの園を追放されるのも、「運命のシナリオ」か?ユングの見た凄まじいイメージについては『自伝』にこう書かれている。
「私はまるですぐにでも地獄の火の中へ飛び込もうとしているかのように勇気をかき集め、考えの浮かぶにまかせた。私は自分の前に大聖堂と青空があるのをみた。神は地球の上のずっと高いところで、黄金の玉座に座っており、玉座の下からおびただしい量の排泄物が、煌めいている新しい屋根の上にしたたり落ち、屋根を粉みじんにこわし、大聖堂の壁をばらばらにこわすのである。」
(中略)
キリスト教そのものの破壊を意味していない。とすると、それは父親に教えによって代表される因襲的なキリスト教の考え方に対する挑戦を意味しているものであろう。21%
牧師である父親とはこのように意見がすれ違った。
父親は、「お前はいつも考えたがっている。考えちゃいけない、信ずるんだ。」とよく言ったが、
ユングは「いやちがう、体験しそして知らなくてちゃ」と思っていた。
昔の人がどう言ったか、書物にどうかいてあるかが大切ではなく、自分個人の体験こそ大切であると彼は考えたのである。21%
河合隼雄著[ユングの生涯」
10.ゲーテの戯曲「ファウスト」の影響
父親との意見の対立があった頃、母親の人格No.2からゲーテの戯曲「ファウスト」を読まねばならないと不意打ち的に言われる。
ユングの読後の感想は、、。
ユングは早速ファウストを読み、感激した。彼は、「奇跡的な鎮痛剤のように私のたましいに侵みこんできた。」と述べている。
「ここについに、悪魔を真面目に取り上げ、彼―完全な世界を創ろうとする神の計画の裏をかく力をもっている敵―と血縁関係を結んだ誰かがいる」とユングは考えた。
彼はゲーテこそ、人間を暗黒と苦悩から解放する際に悪が果たす神秘的な役割がわかる人であると感じたのである。21%
河合隼雄著[ユングの生涯」
自然科学への興味もそのままに、これ以降ユングは哲学書を読み漁るようになる。ショーペンハウエルやカントなどである。
話をファウストに戻すと、私はこの戯曲も読んでおかなければと感じつつも今日まで読んでいなかった。オペラ・舞台や映画だけでなく、様々な神話と同じようにアニメ、漫画、PCゲームの底本的になっているようなので知っておきたかった。
それで、ドイツ語では読めない。原書の韻を生かしていると言われる森鴎外の邦訳も文語調っぽそうで読みづらいかと思い、Audible版で読んだというより聞いた。脚色がどう入っているのかわからないが、朗読というより声優劇仕立てになっている。
ユングは一旦お休みして次回は、ファウストの粗筋と感想を書く。ファウストのストーリーを要約してくれているところがネット上では見つからなかった。あっても微妙に違っていた。
今回はここまで。私のバイアスのかかった気づきなので、わかりにくかったり、初歩的すぎるところはご容赦願いたい。ご興味を持たれたら、河合隼雄先生の「ユングの生涯」を手にされたい。
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こころざし創研 代表
ティール・コーチ 小河節生
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