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○冷凍みかんがきらい
あなたにはきらいな食べ物があるだろうか。
以前にも「好ききらい」について書き(https://note.com/nnkapi/n/nde44a8533059 )、
この件については考え尽くしたみたいな気になっていたけど、最近再び思うところがあったので記しておきたい。
私は今までの人生、「きらいな食べ物?ないよ〜」というスタンスでやってきた。好ききらいがない=いい子、という子どもの頃からの概念を引っ張ってくれば、この点で自分はいい子のままでいられるからだ。
しかし、先日そんな認識が崩れ落ちる出来事があった。
それは、友人とコンビニに行った時のことだ。
アイスでも食べながら歩こうか、ということになり、お互いにあれこれ言いながら物色した。「どうせなら分け合って食べよ~」ということになり、私はピノを選んだ。そして、その時友人が購入したのが『冷凍みかん』だったのだ。
なかなか珍しいそれは、皮がむかれ、カチカチに冷凍されたみかんが2つ入っている商品だった。コンビニを出て、歩きながらそれを取り出し、先の会話の通り友人はそれを「ひとついる?」と分けてくれようとした。
しかし、その時何か強烈な違和感を覚えて、それを拒否した。
「うーん、なんかちょっと、いらないかも」
曖昧な返事をした私に、友人がきょとんとして聞く。
「あれ、冷凍みかん好きじゃないの?」
私は自分の中で言葉がぐるぐる回るのを感じた。
好き…じゃない?うーん。
いや、食べられるんだけど、なんでだろう、進んで食べたくない。
というか、できれば食べずに過ごしたい。
こう思った時、自分の中である感情がむくむくと芽生えるのがわかった。
…あれ、もしかしたら、これが「好ききらい」ということなのでは…?
そして、人生で初めて『冷凍みかん』に出会った時のことを思い出していた。
小学校の給食で最初にそれが机の上に現れたとき、見たことのないみかんの姿にまず驚いたことを覚えている。
「みかんが…ぬれてる…!」
キンキンに冷やされ、まだ皮の表面などが凍ってシャリシャリしていたそれは、いつも家で食べるみかんとはまるで違って、特別な雰囲気が漂っていた。それまで「みかんを冷凍する」なんて選択肢を知らなかった私は、一体どんなおいしい食べ物なんだろうとわくわくした。「いただきます」の合図まで、つい何度もさわって確かめた。
おかずやパンを食べ終えて、いざ、実食の時。
手に持つと、全体的につめたくぬれている。皮をむくのにも、滑るのでいつもよりも強い力が必要だった。
中から現れた実もしっとりとして、手にひやっとした感触が残る。
ひとつむいて、口に入れて噛む。
ぐにゅ、っとした食感があった。
「あれ……?」
ひと噛みで、あれ、これはなんだかまずいんじゃないかと思った。
中の果汁はどうだろう。凍って噛み切りにくくなったみかんをふた噛み、み噛みしてやっと果汁にありつく。
「あれ……?」
違和感は、そこでも同じだった。
「なんか…全体的に…薄い」
実が凍ってキュッと締まって、ひとくち噛んでもなかなか果汁が溢れない。舌が冷たくなっているからか、味が薄く感じられる。
その時、私は確信した。
そうか、これは…まずい。
同時に「これ、なんで冷凍してしまったん?」と思った。
そのままのみかんで十分においしかったのに、どうして余計なことした?
当時、給食は基本的に残せなかったので、そして周りの児童たちはおいしいおいしいと言っていたので、なんだか肩身が狭かったのもあり、結局我慢してすべて食べた。
思えば、あれは自分の中で最初の「好ききらい」の経験だったのだと思う。
そして、何年も経ってから、こうして友人に冷凍みかんを差し出されて気付いた。
好ききらいというのは、もしかしたら「食べ物が嫌い」ということではないんじゃないか。
それまでは、好ききらいをする人は、味が苦いからとか、見た目が嫌だからとか「食べ物そのもの」が嫌いなのだと思っていた。しかし、「好ききらい」をする我々がいちばん嫌っているのは、実のところ食べ物じゃなくて「それを食べようと思った人間」と「その調理法を開発した人間」なのではないか。
そもそもなんでこれを食べようと思った???
なんでこの調理法で食べたらいいと思った????
そんな気持ちになって、どこかにいる他人を責める気持ちを生む、それが「好ききらい」なのではないか。
でも、できれば誰も責めたくないし、愉しく食事をしたい…。
そうか、だから「好ききらい」は嫌なのだ。
食べ物と人間の話というより、人間同士の問題だったのだなあ…と、妙に納得した出来事だった。
(ちなみに、今も冷凍みかんは苦手なままだ)
(食欲をさがして ㊲)