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【歴史の話】戦国の虎と龍(Tiger & Dragon)

はじめに

 この記事は、「甲斐の虎=武田信玄たけだ しんげん」と「越後の龍=上杉謙信うえすぎ けんしん」を紹介する記事ではありません

結論としてはむしろ逆で、異議を申し立てたいという内容になります。


信玄入道が虎とは、笑止。

 「21世紀では、武田信玄が虎と呼ばれている。」と聞いて、真っ先に異議を唱えるのは、きっと上杉謙信その人でしょう。

 謙信のいみな(=First Name)は初めが(長尾)景虎かげとらで、(上杉)政虎まさとら輝虎てるとらと改めました。
 ずっと虎の字がついている。
 よほどの強い思い入れがあったと考えられます。

 なお、甲斐武田家には、信玄の父信虎のぶとらおよび、信虎から虎の字を拝領した多くの武将、例えば甘利虎泰あまり とらやす飯富虎昌おぶ とらまさ秋山虎繁あきやま とらしげなどがいます。
 個人的には、そこから「武田家=虎」のイメージが生まれたのではないかと想像します。
 いずれにせよ、信玄の諱は晴信はるのぶですから、関係ありません。

 他にも、おんな城主井伊直虎いい なおとらとか、信長の右筆・楠木正虎くすのき まさとらなどのビッグネームがいますね。

 龍の名がついた武将も、虎ほど多くはないですが、かなりいます。
 美濃の斎藤(一色)義龍よしたつ龍興たつおき父子をはじめ、飯尾連龍いのお つらたつ長連龍ちょう つらたつ下間頼龍しもつま らいりゅうなど。

 個人的な「推し」は斎藤義龍で、斎藤道三や織田信長にも負けなかった名将ですから、彼を「美濃の龍」として売り出してはいかがでしょうか? > 岐阜県さん

 ということで、個人的には、「上杉謙信=越後の虎」「斎藤義龍=美濃の龍」なのですが、とはいえ、やはり武田信玄のブランド力にも頼りたいですよねぇ(苦笑)

突然ですが、クイズです。

 実は武田家にも、龍の名前を持つ武将がいます。誰でしょうか?
(答はこの記事の最後に書きます。ヒントは、武田の一門衆。)

ここで、違う視点からも見てみます。


 武田信玄には、実は龍の方がふさわしいのではないかと、筆者は考えます。

 「軍需物資から見た戦国合戦」によると、武田信玄は「龍の朱印」を使っていたというのです。

 武田氏の朱印は信玄以来、龍が刻まれた「龍朱印」と一般に呼ばれる朱印が使用され、(略)

「軍需物資から見た戦国合戦」p.149

例えば、こういうものですね。

 なお、武田勝頼かつよりは「龍」のほかに、竹木徴発のみを目的として「獅子」の朱印も使っていたとのことです。

 また同書では、永正十五(1518)年という早い時期に、北条氏綱ほうじょう うじつなが「虎の印判」を押した朱印状を発給した例を紹介しています。

 北条氏が虎を彫った朱印を使っていたことは知られているが、それが捺されている最古の史料がある。
 これは永正十五年(一五一八)に伊豆国木負(きしょう)村の百姓と代官の伊東・山角氏に出されたものである。

「軍需物資から見た戦国合戦」p.136

 この虎の印判は代々当主に引き継がれたので、氏康や氏政も使っていますが、これを使い始めた氏綱こそ、虎にふさわしいと思います!

提案

 自身の名前や印判には思い入れがあるだろうから、その想いに敬意を表したニックネームを差し上げたいです。

  • 諱から命名

    • 上杉謙信=越後の虎

    • 斎藤義龍=美濃の龍

  • 印判から命名

    • 武田信玄=甲斐の龍

    • 北条氏綱=相模の虎

クイズの答

 武田信虎の子で、信玄の弟にあたる一条信龍いちじょう のぶたつです。


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町田 憲昭(歴史研究家/ゲーム評論家)
貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございました。有意義な時間と感じて頂けたら嬉しいです。また別の記事を用意してお待ちしたいと思います。

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