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TRIPS協定50条 暫定措置

 TRIPS協定50条は、侵害発生の防止措置、証拠保全、仮処分、担保提供命令などの暫定措置について規定しています。

 TRIPS協定50条(1)(a)の「知的所有権の侵害の発生を防止すること」は、日本での差止(特許法100条)に対応します。 TRIPS協定50条(1)(b)の「申し立てられた侵害に関連する証拠を保全すること」は、日本での証拠保全(民事訴訟法234条)に対応します。

 TRIPS協定50条(2)には、司法当局(日本では裁判所)が、(i)処分遅延により権利者に回復できない損害が生じるおそれがある場合や、(ii)証拠隠滅の明確な危険性がある場合には、相手方の意見を聞かずに差止め等の暫定措置を採ることができることが規定されています。

 TRIPS協定50条(2)は相手方の意見を聞かずに暫定措置を採る規定のため、濫用されるべきではありません。この濫用防止のための規定が、TRIPS協定50条(3)から(7)です。特に、TRIPS協定50条(7)では、暫定措置が失効した場合や暫定措置の前提となった知的所有権の侵害が無かったことが判明した場合には、暫定措置の申立人は、損害賠償責任を負うことが規定されています。

・TRIPS協定50条 暫定措置

(1) 司法当局は,次のことを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命じる権限を有する。
(a) 知的所有権の侵害の発生を防止すること。特に,物品が管轄内の流通経路へ流入することを防止すること(輸入物品が管轄内の流通経路へ流入することを通関後直ちに防止することを含む。)
(b) 申し立てられた侵害に関連する証拠を保全すること
(2) 司法当局は,適当な場合には,特に,遅延により権利者に回復できない損害が生じるおそれがある場合又は証拠が破棄される明らかな危険がある場合には,他方の当事者に意見を述べる機会を与えることなく,暫定措置をとる権限を有する。
(3) 司法当局は,申立人が権利者であり,かつ,その権利が侵害されていること又は侵害の生じる差し迫ったおそれがあることを十分な確実性をもって自ら確認するため,申立人に対し合理的に入手可能な証拠を提出するよう要求し,並びに被申立人を保護し及び濫用を防止するため,申立人に対し十分な担保又は同等の保証を提供することを命じる権限を有する。
(4) 暫定措置が他方の当事者が意見を述べる機会を与えられることなくとられた場合には,影響を受ける当事者は,最も遅い場合においても,当該暫定措置の実施後遅滞なく通知を受ける。暫定措置の通知後合理的な期間内に,当該暫定措置を変更するか若しくは取り消すか又は確認するかの決定について,被申立人の申立てに基づき意見を述べる機会の与えられる審査を行う。
(5) 暫定措置を実施する機関は,申立人に対し,関連物品の特定に必要な情報を提供するよう要求することができる。
(6) (1)及び(2)の規定に基づいてとられる暫定措置は,本案についての決定に至る手続が,合理的な期間(国内法令によって許容されるときは,暫定措置を命じた司法当局によって決定されるもの。その決定がないときは,20執務日又は31日のうちいずれか長い期間を超えないもの)内に開始されない場合には,被申立人の申立てに基づいて取り消され又は効力を失う。ただし,(4)の規定の適用を妨げるものではない。
(7) 暫定措置が取り消された場合,暫定措置が申立人の作為若しくは不作為によって失効した場合又は知的所有権の侵害若しくはそのおそれがなかったことが後に判明した場合には,司法当局は,被申立人の申立てに基づき,申立人に対し,当該暫定措置によって生じた損害に対する適当な賠償を支払うよう命じる権限を有する。
(8) 暫定措置が行政上の手続の結果として命ぜられる場合には,その手続は,この節に定める原則と実質的に同等の原則に従う。


●参考文献
・荒木好文(著)『図解TRIPS協定』(発明協会, 2001)

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