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特許法70条 特許発明の技術的範囲


1.特許発明の技術的範囲

 特許請求の範囲は、特許出願が特許権として保護を求める範囲を規定するための役割を果たす書面です。また、特許請求の範囲は、特許権が付与された後は、特許権という独占排他権の権利範囲を画定する役割を果たす書面です(特許法70条1項)。つまり、特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて、①特許権の技術的範囲が画定され、②特許権者の独占的実施を確保するとともに、第三者の実施を禁止する独占排他権が発生します(特許法70条1項、68条)。

 特許請求の範囲の記載から、その特許権の技術的範囲が一義的に決まらない場合もありえます。この場合、明細書(発明の詳細な説明)の記載に基づいて、特許権の技術的範囲が決まります(特許法70条2項)。つまり、①特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて確定され、②特許発明の技術的範囲が一義的に決まらない場合には、明細書(発明の詳細な説明)の記載に基づいて、特許発明の技術的範囲が決まります(特許法70条2項)。

 ただし、文理解釈上は、特許発明の技術的範囲に「含まれない」場合であっても、均等の範囲といえる場合には、特許発明の技術的範囲に含まれると判断されます。

 この均等論の5要件を満たす場合、均等の範囲にあると判断されます。均等論の5要件は長いですが、私が知る範囲では、合格した受験生は5要件を正確に書いてきます。出題された場合、書けなければ不合格の可能性が高まりますので、覚えておきましょう

2.均等論

 均等論は、特許発明の技術的範囲を画定する際の例外的考え方です(例外的均等論)。均等論を適用すべき理由や、均等論の要件は、ボールスプライン軸受事件(最高裁平成10年2月24日、平成6(オ)1083)で示されています。

 2.1.均等論が認められるべき理由

 ボールスプライン軸受事件では、均等論を採用すべき理由を、「特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる」、としています。

 2.2.均等論の5要件

(第1要件)その相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと
(第2要件)その相違部分をその製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同じ作用効果を奏すること
(第3要件)その製品の製造時点において、当業者がそのような置き換えを容易に想到できたものであること
(第4要件)その製品が、特許発明の特許出願時点における公知技術と同一ではなく、また当業者がその公知技術から出願時に容易に推考できたものではないこと
(第5要件)その製品が発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと

 これら5個の要件を満たした製品は、特許請求の範囲に記載の内容と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に入るものとされます。

 2.3.禁反言

 拒絶理由通知に対応する補正により特許請求の範囲等を限定することがあります。この場合、限定により除かれた部分(技術的範囲)については、権利範囲内であると主張できないという考え方です。

特に、拒絶理由通知に対応する際の意見書で、補正後の権利範囲には含まれないと解釈される主張をした場合、その「補正後の権利範囲には含まれない」部分は、権利範囲内であると主張することはできません。

この禁反言の原則(包袋禁反言の原則)ですが、信義誠実の原則(民法1条2項、民事訴訟法2条)の一態様・一発現形態になります。

3.その他

3.1.社内用語(社内でだけ通用する用語)には注意!

 発明の認定は特許請求の範囲に記載された請求項の記載に基づいて行われます。

ここで、請求項の記載が明確である場合、請求項の記載どおりに請求項に係る発明が認定されます。そして、請求項で用いられた用語の意味は、その用語が有する通常の意味と解釈されます。

このため、社内用語の意味内容と、その社内用語の一般的な意味内容(通常の意味)が異なる場合、請求項の解釈においては、社内用語の意味内容が一般的な意味内容として解釈されることになります。

 社内に長く居れば、ある用語が社内用語か一般的な用語かの判断が難しくなることも考えられます。このため、明細書等の作成を依頼した特許事務所ではない、特許事務所に、明細書等のチェックをお願いするのも良いかもしれませんね。

3.2.請求項中の符号は、特段の事情がない限り発明を限定しないようです

 平成24(ワ)3817では、「請求項中に符号を記載した場合であっても、符号の記載は,特許請求の範囲に記載された内容をこれらの符号により特定される実施形態の構成に限定するものではない」とされています。

まあ、請求項に符号を付けなければこの種の問題は生じません。このため、特に必要がない限りは、請求項に符号を付けない方が良いと思われます。

事件番号  平成24(ワ)3817
事件名   特許権侵害行為差止請求事件
裁判年月日 平成25年10月31日
裁判所名  東京地方裁判所

(ア) 特許請求の範囲の括弧内に符号を記載することに関しては,特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕14のロに「請求項の記載の内容を理解するために必要があるときは,当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。」と規定されているところであり,これによれば,特許請求の範囲中に括弧をして符号が用いられた場合には,特段の事情のない限り,記載内容を理解するための補助的機能を有するにとどまり,符号によって特許請求の範囲に記載された内容を限定する機能は有しないものと解される。・・・これらの符号は本件補正書に係る補正の前から明細書及び図面中で使用されていたものであり(乙1),前記(1)イ記載の本件特許の出願経過に照らし,本件出願人が拒絶理由の回避のために特定の構成を除外する意図でこれらの符号を付したとは認め難い。そうすると,本件において上記特段の事情があると認めることはできないから,符号「(12H,16,19A,19B)」の記載は,特許請求の範囲に記載された内容をこれらの符号により特定される実施形態の構成に限定するものではないと解すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/780/083780_hanrei.pdf

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/780/083780_hanrei.pdf

・特許法70条

(特許発明の技術的範囲)
第七十条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
3 前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。

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