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特許法 判例 人口乳首事件 知財高判平成15年10月8日(平成14年(行ケ)539号)
1.概要
本判決では、後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には、その超えた部分については優先権主張の効果は認められない、ということが示されました。
また、優先権主張を伴う出願で実施例を追加したことにより、(基礎出願では拒絶理由がなかったと思われる請求項1に)拒絶理由が生じています。つまり、優先日が後の出願によって、優先日が先の出願が拒絶されうることになります。
2.出願における請求項の変遷
2.1.基礎出願 請求項1
基礎出願(特願平10-316899号)の請求項1は以下の通りです。
【請求項1】
乳首胴部と、この乳首胴部から突出して形成されている乳頭部とを有する人工乳首であって、上記乳頭部及び/又は上記乳首胴部の少なくとも一部に伸長する伸長部が備わっていることを特徴とする人工乳首。
2.2.本願 出願時請求項1
本願は、特願平11-288535号であり、対応する公開公報は、特開2000-189496号です。
出願時の請求項1(出願公開公報の請求項1と同じ)は、以下の通りです。
【請求項1】
乳首胴部と、この乳首胴部から突出して形成されている乳頭部とを有する人工乳首であって、上記乳頭部及び/又は上記乳首胴部の少なくとも一部に伸長する伸長部が備わっていることを特徴とする人工乳首。
本願は、国内優先権を利用する際に良く用いられる実施例補充型(実施例追加型)の出願です。本願の明細書には、基礎出願の明細書等に記載されていなかった実施例11が追加されています。この実施例11のポイントは、伸長部が螺旋状であるという点です。
2.3.本願 補正後請求項1
最終的に審査・審決を受けた際の請求項は以下の通りです。
【請求項1】
幼児の哺乳窩に当接可能な先端部を有する乳頭部と、
乳幼児が舌により蠕動運動を行う際に舌を波うつように移動させることができる表面を有する乳頭部及び乳首胴部と、
哺乳瓶と接続するためのベース部と、を有する人工乳首であって、
前記乳頭部及び乳首胴部のシリコンゴムから成る壁面の内側に、この壁面より肉厚の薄い伸長部が形成され、
この伸長部に隣接して、この伸長部より肉厚が厚い剛性部が交互に形成されていることを特徴とする人工乳首。
補正後請求項1は、基礎となった出願の請求項1、及び、本願の出願時請求項1と比較すると、大きく変わっています。
3.判決文(抜粋)
結果として、後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には、その超えた部分については優先権主張の効果は認められない、ということが示されました。
・第5 当裁判所の判断
・・・
(1) 特許法41条2項は,同法29条の2の適用に係る優先権主張の効果
について「・・・優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明・・・についての・・・第29条の2本文,・・・の規定の適用については,当該特許出願は,当該先の出願の時にされたものとみなす」と規定し,後の出願に係る発明のうち,先の出願の当初明細書等に記載された発明に限り,その出願時を同法29条の2の適用につき限定的に遡及させることを定めている。後の出願に係る発明が先の出願の当初明細書等に記載された事項の範囲のものといえるか否かは,単に後の出願の特許請求の範囲の文言と先の出願の当初明細書等に記載された文言とを対比するのではなく,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項と先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項との対比によって決定すべきであるから,後の出願の特許請求の範囲の文言が,先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても,後の出願の明細書の発明の詳細な説明に,先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。
・・・
オ そうすると,後の出願の当初明細書等に本願発明1の実施例として記載された,伸長部である肉薄部を螺旋形状に形成した図11実施例に係る人工乳首は,先の出願の当初明細書等に明記されていなかったばかりでなく,先の出願の当初明細書等に現実に記載されていた,伸長部である肉薄部を環状に形成した【図1】の実施例に係る人工乳首の奏する効果とは異なる螺旋形状特有の効果を奏するものである。したがって,当該伸長部である肉薄部を螺旋形状にした人工乳首の実施例(図11実施例)を後の出願の明細書に加えることによって,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかであるから,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。
4.感想・見解
この判決のポイントは、優先権主張を伴う出願で実施例を追加したことにより、(基礎出願では拒絶理由がなかったと思われる請求項1に)拒絶理由が生じた、という点です。それによって、優先日が後の出願によって、優先日が先の出願が拒絶されうることになります。
本願の国内優先権主張が認められなかった原因は、補正により、基礎出願に含まれていなかった実施例11の内容を請求項1に入れたことです。
上記判決文では、「当該伸長部である肉薄部を螺旋形状にした人工乳首の実施例(図11実施例)を後の出願の明細書に加えることによって,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかであるから,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。」とされています。
つまり、①国内優先権主張に伴って実施例を追加した結果、本願の請求項の技術的範囲が広がった、②請求項の技術的範囲のうち、基礎出願の技術的範囲を超える部分には、優先権主張の効果が認められない、③基礎出願の技術的範囲を超えた部分に拒絶理由がある場合、本願は拒絶される、という流れです。
この判決の立場を採用するのであれば、改良発明をした場合は別出願をすることが基本であり、別出願にすると特許性に問題が生じそうな場合のみ国内優先権主張を伴う出願とすべきです。
●参考情報
・判決文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/799/010799_hanrei.pdf
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