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〈書評〉最古のキリスト教資料「Q」を読む│『携帯版 Q文書』山田耕太
■イエスの教えの核心に触れるQ資料
■キリスト教信仰の原点を紐解く
☆新約聖書の理解を深めるための第一歩
☆史的イエスの教えを集約した最古の資料
死海文書によって、存在が確定的となった「Q資料」。Q資料とは、マルコ福音書よりも早く成立し、マタイ福音書、ルカ福音書の作成において資料として使われた、最古のイエス言行録である。本書は、復元されたQ資料のギリシア語と、日本語対訳を収録している。キリスト教関係者から、趣味でキリスト教の勉強をしている人にまでおすすめできる、興味深い一冊だ。
「Q資料」とは何か
Q資料は、共観福音書における物語性は全く見られないのが特徴だ。全て、イエスの発言をまとめたものである。章立ては5章で、Ⅰ洗礼者ヨハネとイエスの説教Ⅱ弟子派遣の説教Ⅲこの時代に対抗してⅣ真の共同体Ⅴ弟子の生活、に至る。ここで収録されている発言は、全てイエスの説教の中で最重要なのだが、全部を示すことは本書評では不可能なので、幾つかピックアップしよう。Ⅰには、ヨハネからの洗礼や、イエスが荒野で受けた悪魔からの誘惑エピソード、Ⅱには「主の祈り」(イエスが弟子達に祈り方を教える)、Ⅲにはベルゼブル論争(イエスの奇跡は悪霊によるものだという非難と、それに対するイエスの応答)、Ⅳには空の鳥(思い煩いへの説教;神は鳥さえも養う)、Ⅴにはからし種のたとえや狭い門から入れ…。新約聖書について詳しくない人にとって、ここまでの記述はやや難しいと思うので、簡潔にまとめる。イエスの教えの中でも、最も理解しやすく、説得力も高く、名言で、核心を突いたものばかりが収録されている。
この文書を理解する上で、重要な事をまとめよう。これらエピソードには、イエスの受難や復活などは含まれていない。また、これら発言は全て、マタイとルカ福音書に含まれているので、新約聖書を読んだ人にとって新規性はない。しかし、むしろこの文書は、キリスト教の教えの集約という意味で極めて価値が高い。筆者の最も好きな教えである「裁いてはいけない。裁かれないようにするために」も含まれている。つまり、この教えで「事足りてしまう」側面がある。
また、本書には、Q資料研究史と、イエス(史的イエス)研究史についての記事も同時収録されている。そこでは人名と書籍名を大量に上げて、過去の研究を概観している。この記事で分かったことは、史的イエスには現在でも二大学派があること、この記事で得られる利益は、大量のブックリストである。
極めて専門的な著作ながら、キリスト教信仰の本質に関わる重要な一冊だ。後の神学に先行するものとしてのイエスの教えは、確かに世界で一番人口の多い宗教を作るだけの射程を持っている。新約聖書を読む前に読むのもいいかもしれない。
筆者プロフィール
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抜こう作用
大学生。21歳。インターネットオタク。カトリック求道者。メインジャンルは、宗教学、哲学、心理学。座右の銘は「裁いてはならない(マタイ7:1)」。
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