美しい自然を慈しむ本 #穀雨「生きていることを楽しんで ターシャの言葉」
こんにちは。広報室の下滝です。
桜も葉桜に変わり、季節が夏に向けて動きはじめたのを感じます。
緑の葉が青々と風に揺れて、植物の活力を感じられる時期。
冬の間眠っていた鉢植えたちを植え替えたり、挿し木をして増やすのにも良い季節です。
今回は恵みの雨に植物たちが輝く今の季節にぴったりな、庭造りの名手であり、絵本作家、画家として美しい自然のあり方を愛したターシャ・テューダーの言葉を集めた素敵な本「生きていることを楽しんで」をご紹介します。
“スローライフの元祖”ターシャの人生
ターシャ・テューダーはアメリカのボストンに生まれ、ヨットや飛行機の設計家、製造技師の父と、肖像画家の母に育てられます。
しかし、母親が画家の活動を本格的にすることを機に両親が離婚。
両親の友人宅に預けられ、その風変わりな気風に影響を受けながら成長します。
そしてプレゼントとして貰ったニワトリや牛を育てることで農業に憧れと興味を抱いていきました。
22歳の時、同じく農業に憧れる男性と出会い、結婚。
農場で生活をしながら4人の子どもたちを育て上げ、その傍らで農場の動物や身の回りの出来事を題材にした絵本を出版します。
様々な年中行事で子供たちを楽しませることで注目を集め、庭で手作りの人形たちの結婚式を行った様子が写真誌「ライフ」に掲載されて話題になりました。
ターシャの絵はアメリカ人の心を表現するといわれ、挿絵やカードにもその作品が数多く使われています。
その後、農業に興味を失った夫とは離婚。
子供たちが自立した後、57歳にして住みたかったという静かな土地に引っ越し、自身が「地上の楽園」と呼ぶ美しい庭を1人で作りながら新生活をスタートさせます。
そしてコーギー犬の相棒メギーとともに、自給自足を大切にした昔ながらの生き方を楽しみました。
老いを気にしない人生を楽しむ生活スタイルは世界に影響を与え、日本では2017年にターシャのドキュメンタリー映画も公開されるなど、2008年に92歳で亡くなった後も今なお多くの人々に愛され続けています。
庭とターシャの関係性にみる、自然を慈しむ心
本書に掲載されているターシャの言葉で私が感銘を受けたのは、
「わたしは、庭を、今日は、何をしてやる必要があるかしら、と思って、見てまわります。その時その時の素晴らしさを、楽しみながら。」というものです。
私自身はマンション住まいで庭もなく、ベランダに小さな鉢植えを置くくらいしかできないのですが、実家の祖父母や母が手入れしていた庭は、彼らの好きな樹木が四季の順番に楽しめるように計算されて植えられていて、私はそんな庭が大好きでした。
簡単にいうと、春は桜、夏は薔薇、秋は紅葉、冬は椿のように、その季節ごとに庭の景色が変わり、違った趣を楽しめます。
ですが、ただ植えておけばよいというものでもなく、そのお世話をするのも大変です。
アゲハ蝶が飛ぶ様子を美しいなと放置していると、植物に卵を生みつけられて葉を全て幼虫に食べられてしまったり、アブラムシやカイガラムシが大量発生したり。
私のベランダの小さな鉢でさえ、たまに来る来訪虫や枯葉病など、日照りなどで植物が弱っている時は目が離せません。
広い庭であれば、ある程度自然の秩序も働くかもしれませんが、やはり美しく保つには草むしりは必須ですし、植物は意外と様々な病にかかります。
ターシャは庭を毎日散歩しながら、今日はどの植物がどんな世話をされたがっているのかを観察しつつ、その時その時に自然が見せてくれる美しい様子を楽しんでいたのだなと思うと、なんだか彼女がすごく身近な存在に感じられます。
そして植物たちは大切にされたことで、恩返しのように素晴らしく咲き誇り、楽園のような美しい庭がつくられたのではないかなという気がします。
ぜひ、本書に掲載されている美しい写真を眺めてみてください。
やわらかな優しい雨が降り、穀物が栄養をたくわえて育つ季節「穀雨」。
庭や畑が近くにないという方も、公園や駅の周りの植え込みには、きっと今の季節を楽しめるような草花が植えられているはずです。
散歩しながら雨や気候に喜ぶ植物たちのいきいきとした姿を探してみてはいかがでしょうか。
−今回のここに注目!−
「完璧なのは咲いたばかりの花くらい」
「家事も仕事も完璧になんて、いくわけがありません。そもそも、わたしには完璧にこなしているものなんて、ひとつもないわ」とターシャは言います。
「完璧なのは咲いたばかりの花や、生まれたての赤ん坊くらいじゃない?」失敗したり、できない自分を追い詰めすぎてしまう時に思い出したい言葉です。
できることをできるぶんだけ。完璧ではない自分を受け入れて歩み続けること、何があっても楽しもうとする気持ちを忘れないこと。
それが、生きていることを楽しむ秘訣なのかもしれません。
著者:ターシャ・テューダー
翻訳:食野 雅子
出版社:KADOKAWA
定価:本体680円(税別)
文庫本:176ページ
ISBN:9784046017147