【新刊先出し!】10月14日発売『部下に「困ったらなんでも言ってね」はNGです』の「第1章」を特別大公開!
10月14日に発売の『部下に「困ったらなんでも言ってね」はNGです』(伊藤誠一郎著)の中身を、一足お先に公開します!
「最近の若手のことがよくわからない」「最近の若手社員にどう接すればよいのかわからない」と悩んでいる上司の皆さまにぜひ読んでほしい1冊です。
発売前に、第1章の「上司が知っておくべき「若手社員のリアル」」をお読みください。
※内容は変更になる可能性があります
若手社員は「火がつかない」という前提でいること
若手に火をつけようとする上司たちの空回り
「最近の若手社員はどうしたら火がつくのか?」
これは管理職向けの研修で、上司たちから頻繁に耳にする言葉です。
ちなみに「火をつける」とは、外部から刺激を与え感情を高ぶらせ、やる気を爆発させるように促すということです。つまり、若手をある瞬間を境にして変身させたいのだけれど、上司たちは何がそのきっかけになるのかわからないと言っているのです。
まず、はっきり認識しておかなければならないのが、最近の若手社員は不燃性だということです。そもそも彼らに火はつきませんので、火をつけようという考え自体を変えることです。
とくに苦労や困難などで「外部から刺激を与える」というのは、最近の若手社員には良い影響を与えません。1人残らず若手全員に火がつかないというわけではありませんが、彼らのほとんどが苦労や困難といった刺激を自らが成長するために必要な壁、乗り越えるべき壁ととらえられないのが現実です。
若手にとっては、苦労はただの苦労、困難はただの困難であり、「できない」「わからない」「不安」「無理」という負の感情だけが頭の中に渦を巻いてしまい、精神的に疲弊の一途をたどっていきます。
むしろ若手は、上司が良かれと思って与えた「困難」を「できないことがわかって与えた試練」と受けとめたり、「自分は期待されていないのかもしれない」という疎外感や敗北感にまで勝手に広げてしまったりするケースもあります。
このことは、子どもに対する世の中の関わり方が大きく変化したことも影響しています。すでによく知られていることですが、今や親も先生も地域社会の大人たちも声を荒げて子どもを叱る場面をほとんど見かけなくなりました。
たとえ叱りつけることに正当性があったとしても、公共の場で声を荒げようものなら虐待を疑われてしまう時代です。若手社員は幼少期からそうした育てられ方をしてきたわけですから、外部からの刺激に対して耐性を持ち合わせていないのは当然と言えます。
したがって、彼らが社会人になったときにも、その延長線上にある受け入れ方をしなければなりません。
最近の若手は「そういうものだ」と受けとめる
ただし、最近の若手社員はやる気自体がないわけではないのです。
外部からの刺激に慣れていないために、やる気を表面に出すことに不得手なだけであり、内面では周囲の期待に応えたい、社会人として一人前になりたいという思いを静かに燃やしているのです。
したがって、火をつけようとする、すなわち、あるきっかけによって感情を高ぶらせよう、やる気をアップさせよう、変えさせようという発想自体を持たないようにするのが、今の若手社員に対する現実的な対応方法であると言えます。
若手は日々少しずつ、徐々に、緩やかに成長していくものだと上司が考え方を変えることです。そして、温かい視線で見守ることで、最近の若手社員は安心してやる気を成長へと昇華させていきます。
大事なことは「最近の若手はそういうものだ」と冷静に受け入れることです。
「火がつかない」「なかなか変わらない」といった否定的な感情を抱かないことが若手との友好な関係性づくりの第一歩となるのです。
今、上司でいる人は、かつては自分が上司や先輩から火をつけられてきた経験があるので、最近の若手に対して、どこか物足りない、弱いといった思いを抱くかもしれません。
しかし、上司や先輩が若手社員は「火がつかない」という前提でいることは、諦めでも迎合でもありません。もちろん軟化でもありません。あくまでも「適応」なのです。
若手社員は不燃性、日々少しずつ緩やかに成長する姿を見守る
「最近の若手は自分から動かない」わけではない
最近の若手は「動かない」と、とらえるから見えてこない
「最近の若手は言われるまで何もしない」
「最近の若手は言われたことしかやらない」
日々の仕事のなかで、若手社員に対して、このような不満を持つことはありませんでしょうか。
これらは、企業の管理職の方々に「最近の若手社員をどのように感じていますか?」と、答えの範囲が広めの質問をしたときに最も多く聞かれる声です。
中には「言われたことしかやらない指示待ち人間」「自分からはまったく動かない」と、よりはっきりした言い方をする人もいます。
若手社員の立ち振る舞いに大きな不満を抱えている上司や先輩が多いということがわかります。
しかし、最近の若手は「自ら動かない」などとネガティブな感情を抱いているかぎり、彼らとの距離が縮まるはずがありません。一刻も早くこの状態を解消して若手社員と良好な関係性を築くためにも、彼らの真の姿を理解する必要があります。
若手社員は「動かない」のではありません。「動けない」のです。この視点に立つと、だいぶ受けとめ方が変わってくるはずです。
若手社員が「動けない」ことには、明確な理由があります。彼らが生まれた2000年前後からインターネットが急速に発達し、2010年以降はスマホが一気に普及しました。今や生活するうえでの情報の多くはすべてスマホを使って検索します。
電車やバスの中でも今日のニュースをチェックしたり、仕事や趣味に関する調べ物をしたり、他人の日常をSNSで確認したりするなど、それらすべてでスマホを使って行います。そこには膨大な情報があり、検索すると答えが見つかるのです。
上司世代は大学生や社会人になるまでネットもスマホもないアナログ時代を経験してきた人も多いですが、最近の若手社員は異なる環境で育ってきたのです。
彼らは、相手の都合に気を揉みながら家の固定電話から連絡をしたり、時刻表や地図を手に旅行の行程を調べたり、1つの言葉の意味を調べるのに辞書を行ったり来たりした経験をせずに育ったのです。
こうした背景を踏まえると、単純に今の若手を「自分から動かない」と批判できるでしょうか。
まず若手に歩み寄ることで、見えてくること
まず、最近の若手社員は「自分から動けない」のだと受けとめること。
「自分から考えたり、動いたりする経験を持してこなかった」と思いを及ぼすと、若い世代が少々気の毒に思えてきます。そして、寄り添ってあげたい気持ちが湧き上がってきます。
スマホの情報も有益で便利ではありますが、それだけに頼らずに自分の頭で考えること、自分の意志で動くことの必要性と大切さを教えようという意識も芽生えてきます。
こちらが支援する気持ちで歩み寄ると、素直さを持って耳を傾けてくるというのも今の若手社員の特徴です。
したがって、上司は「与えられた情報だけでは仕事で一人前になれないこと」「自分で周囲の状況や相手の感情を読み取って、言われなくとも行動する必要があること」それ自体から教えてあげるのです。
もし、若手に「それ(言われなくとも行動する必要があるとき)って具体的にどんなときですか?」と質問されたら、仕事で起こり得ることを1つひとつ教えてあげるのです。
そのうえで、若手の成長のタイミングを見て「自分から動く」という本来の意味が理解できたかどうかを確認していきます。そうすれば、指示出し上司と指示待ち部下の関係には陥りません。
時に、「そんなことまで教えないといけないのか」と上司や先輩は思うかもしれません。しかし、最近の若手は「自ら動かない」と不満を抱えたまま時間をすごすより、「そんなこと」から教えてしまったほうが早いのです。
ネット検索で育った世代には、「自分から動く必要性」そのものから教える
「不便がない時代」だから想像力が育たない
不透明な状況を「想像すること」で培われてきた力
「変化の時代」という言葉はさまざまなシーンで聞かれます。それに合わせて「人も適応しなければならない」「従来のやり方や古い体質から変わらなければならない」という声も耳にします。
ただし、「変わらなければなない」という言い方に対して、上司世代では過去と一緒に自分のアイデンティティまで否定されているように感じ、反発したくなる人たちも多いようです。
とくに「脱・昭和(の企業文化)」などという言葉を聞くと、その傾向はさらに強まります。「過去がそんなに悪いことなのか?」「何でも変えればいいわけではない」という意見を聞くこともあります。もちろん昭和の企業文化をすべて否定しているわけではありませんし、過去にも良いことはたくさんありました。
その最も重要な要素が「不便があった」ことです。そして、その不便によって「想像する力が養われた」のです。
たとえば、昔は休日に友たちと遊ぶために待ち合わせをするとき、「日曜日の午前10時に、○○駅の南口を出たところに喫茶店があるからその前で」などと固定電話で約束をしたものです。
当日5分前に行ってみると、駅の南口はすぐにわかったものの喫茶店ではなく洋食屋があります。でも表のメニューには珈琲も紅茶もあって、喫茶店ではないと言い切れません。そんな不安を覚えつつ、とりあえず5分待ってみることにします。
しかし、約束の午前10時になっても友だちは現れません。
「あれ? どうしたんだろう? ……電車が遅れてる? ……まさか寝坊してないよね? もしかして自分が場所を間違えてる? やっぱりこの店は洋食屋で喫茶店じゃない? そもそも今日の午前10時だよね? ……この駅で合ってるよね?」
このように次々に疑問が頭を駆け巡ったことは、上司世代のあるあるではないでしょうか。状況が簡単に把握できなかったぶん、想像するしかありませんでした。
ところが、今はまったく違います。
「 あれ? どうしたんだろう? ……電車が遅れてる? ……まさか寝坊してないよね? この店で合ってるよね? (スマホのLINEで画像付き)そうそう合ってる」
「(LINEで)ごめん、電車に1本乗り遅れた……10時3分着、ちょっと待ってて」
「(LINEで)了解!」
たったこれだけで終わりです。しかもLINEなどのメッセンジャーツールを使いますから、情報の行き違いもありませんし、気軽に聞き直すことができてしまいます。
非常に手軽ではありますが、その反面これでは「想像力」は養われません。
相手の身に起こり得る選択肢を頭の中に並べることもなく、それと同時に自分の間違いを疑ってみることもしません。
今の若手社員は、こうしたコミュニケーションを日常的に繰り返しているわけですから、大人になって「想像する力」が乏しくても致し方ありません。
「イメージする」と言われても、どうすればいいかわからないので
不便があった時代を知る上司世代は、若手にはそもそも想像力が欠けていることを意識してください。
「自分が見たり聞いたりしたことだけがすべてではない」
「相手のことや周囲の状況を想像することも必要である」
「それも含めて仕事である」
これらを若手に1つひとつ教えてあげる必要があるのです。
また、そのときの教え方も「イメージすることが大事なんだよ」などという抽象的な言い方では、若手には真意が十分に伝わりません。
彼らは「イメージするってどういうことですか?」という漠然とした疑問を持つだけで終わってしまいます。
そこで、手はじめに「なぜ?」という言葉とともに、物事の理由や目的を考える習慣を身につけさせるのが効果的です。
「なぜ、君はこの資料づくりを頼まれたのか?」
「なぜ、この確認する業務が必要なのか?」
「なぜ、お客様はこの問い合わせをしてきたのか?」
といったように目の前の事象に対して、問いとともに1つひとつ掘り下げ明確にしていきます。
若手がこのように考える習慣が身につくまでには、それなりに時間を費やすことになるかもしれませんが、根気を持って粘り強く取り組んでください。
ここでも「そんなことから教えないといけないのか?」と思うかもしれませんが、上司が1つひとつ丁寧に教えたほうが状況は確実に前に進んでいきます。
若手社員に「想像する必要性」を教えることは、上司の重要な役割である
貢献や承認欲求に応える「助かってるよ」「役立ってるよ」と声かけが大事
「出世する欲」がない若手社員
年代や役職を問わず、仕事に前向きに取り組んで成長していくには、モチベーションを高め、維持していくことが不可欠です。そのためには、「承認欲求」が満たされることが大きく影響します。
40代、50代の上司世代だと、仕事で成果を出して1つでも上の役職へ出世する。その結果、より多くの収入を得ることで、日常の衣食住を豊かにしていくことがモチベーションアップの源泉になっているという人も少なくないでしょう。私も同世代ですので、少なからずそういう価値観を持っています。
ところが、今の若手社員の価値観はまったく異なっています。
まずお金については、多くの若者が「普通に生活するのに困らなければそれでいい」と言います。
彼らの言う「普通の生活」の定義についても、どんな家に住みたいのか、どんな食生活を送りたいのかなど日常生活の具体的なイメージを聞いても、若手から答えはほとんど返ってきません。
モノについては、今はサブスクの時代です。所有することへの欲はあまり持っておらず、使用できればそれでいいという価値観が広まっています。
車はカーシェアリングかレンタカーで済みますし、そもそも車に興味を持つ若者も少なくなりました。
出世に対する魅力も感じないようで、「大きな責任を負わされてまであわただしく日常を送るぐらいなら、そこそこの地位でマイペースにおだやかに暮らしたい」と言います。「そこそこの地位」というのも主任なのか、係長なのか、課長なのか具体的なイメージを持っていないことがほとんどです。
このように最近の若手社員は、じつにドライというか、将来への夢を明確に持ち合わせていない人が少なくありません。
だからか、最近の若者は何の脈絡もなく突然仕事を辞めてしまったりもするのです。
若手社員のモチベーションアップにつながる声かけ
では、いったい何が彼らのモチベーションアップにつながるのか。
私が新入社員や若手社員への研修で見るかぎり、「貢献欲」が強いことを感じます。
たとえば、「社会人としてどのようなビジョンを描いているか?」と問いかけると、「自分が仕事の知識やスキルを高めて成果を出すことで、会社からの期待に応えたい」「お客様から『ありがとう』という言葉をかけられたい」、そして「上司、先輩をはじめとする周囲の人に貢献したい」という言葉が出てきます。
若手から「トップの成績を収めたい」とか「人の上に立ちたい」といった個人的な成果や成功に関する言葉はまったくと言っていいほど聞かれません。
周囲を押しのけて上にいきたいという思いは持たない若者が多く、組織の中の一員として自分の存在を認められたいという欲求を強く持っていることを感じます。
従来だと、若手を鼓舞しようとするとき、上司や先輩は何か大きな成果を出したことに対して「よくやった!」とか、以前とは見違えるような変化に対して「すごいじゃないか!」と言葉を投げかけます。もちろん悪いことではないのですが、最近の若手社員に向けては少し目線を変えると効果的です。
たとえば、大きな成果を出したことに対しては「助かってるよ」とか、見違えるような変化を遂げたことに対しては「役に立ってるよ」といった言葉をかけるのです。
また、「いつもありがとうね」と何気ない瞬間に軽く言葉をかけるのも、若手社員の貢献欲を満たすことにつながります。
しかし、この話をすると、部下に対して「ありがとう」という言葉をかけることに強い抵抗感を示す上司が少なくありません。
「なぜ部下にお客様のような扱いをしなくちゃいけないのか?」
「仕事なんだからいちいち感謝する必要はないだろう」
これらがその理由のようですが、果たして本当にそうでしょうか。
「ありがとう」と声をかけることはお客様のような扱いになるのでしょうか。仕事において年下の部下に感謝を示してはいけないのでしょうか。
単に、上司世代は今までそうした習慣を持たなかっただけであり、それによって違和感が生じているだけです。あえて意識的に違和感を越えることが、上司世代にとっても新たな自身の変化につながります。
過去の習慣にとらわれることなく、新しい時代の価値観に適応する。その1つとして若手社員に「ありがとう」と感謝を伝えることによって、職場に笑顔の習慣が広がるようになります。
そうした上司の柔らかい表情と姿勢に、若手社員は安心でき、良好なコミュニケーションにもつながってきます。
若手社員の「貢献欲」を満たすことがモチベーションアップにつながる