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【後編】図解コミュニケーションとは何か?

「仕事の本質はコミュニケーション活動であり、そのコミュニケーションに欠かせない3つの力(理解、企画、伝達)は、図で考え、表現し、伝えることで身についた」と多摩大学名誉教授・久恒啓一氏はいいます。【後編】は、書籍『仕事ができる人になる 図解の技術大全』から、「問題解決」のツールとしての図解の効用について紹介しましょう。


●できる人には「3つの力」がある

ビジネスマンとして20年以上、現場の最前線で働いていたとき、いつも念頭にあったのは、どういう能力があれば仕事の成果が上がるのかという問いでした。大企業で労務、広報、企画という分野を主として経験してきた私の結論は、3つの能力が備わっていれば仕事はできるということです。

その3つの力とは、前編でも触れた「理解する力」「企画する力」「伝達する力」です(下図参照)。理解する力とは、上司の指示を聞き、回ってきた文書を読み、ポイントを理解する力、企画する力とは、自分の頭で新しい考えやアイデアを生み出す力、伝達する力とは、考えやアイデアを他の人に間違いなく伝える力、です。

これら3つの力は、コミュニケーション能力ということもできます。

理解と伝達は他人とのコミュニケーションであり、企画は自分自身とのコミュニケーションです。過去の経験の教訓、読書等で培われた膨大な情報、そういうものを現在の仕事のテーマと照らし合わせながらアイデアをひねり出す作業が企画という仕事なのです。

仕事人としての能力の高低は、自己表現力とでもいうべき3つの力のそれぞれの大きさとそのバランスによって規定されてくるといってもよいでしょう。

●図解は表現力を強化する

しかし、実際にはこの3つの力をバランスよく持っている人は珍しいのではないでしょうか。

理解力は高いが企画力はまったく自信がないとか、伝達力は高いが理解力はだいぶ不足しているとか、バランスがわるい人が多いはずです。日本人は高等教育を受けた人でも表現力が弱いといわれています。つまり伝達力が低く、プレゼンテーションが苦手な人が多いのです。

優れたプレゼンテーションを行うには、文章、図解、口頭という3つの手段を使いこなすことが必要です。図解という新しい表現方法を縦横に駆使しながら、具体的ですぐに役立つ提案をしていきたいものです。

●「読み、考え、書く」ために図解を使う

初等中等教育の目的は、「よみ、かんがえ、かく」力をつけるということです。考えてみれば仕事の場合と同じです。読むのは理解だし、考えるのは企画だし、書くのは伝達と同じ意味です。

また学問の世界では、同じことを難しくいうという業界常識があり、「認識、創造、表現」といった言い方をしていますが、理解、企画、伝達と同じことです。

要するに私たちは、小学校入学以来、人生を終えるまで一貫して、理解力・企画力・伝達力というコミュニケーション能力を磨いていることになります。そして、そのコミュニケーションの方法は、主として「文章」ということになっています。

私は、図解という優れた方法を使って、理解力、企画力、伝達力を総合的に高めるノウハウを広めていきたいと思っています。ここでは、図解するメリットとして、「問題解決」のツールになるという例をあげましょう。

●文章は認識のズレが起きやすい

図解を使うと、コミュニケーションが円滑になります。たとえば、文章のみの企画書を読むシーンを考えてみてください。文章表現の些末な部分に気をとられてしまい、書き手の意図が読み取れないケースが多いのではないでしょうか。さらに、受け手によって言葉の解釈が異なることもあります。

文章という表現形式では、あらゆる情報が均等に文字で配置されてしまうので、情報の送り手・受け手の間に認識のズレが生じやすいのです。

図解は、こうした課題を解決できるツールとなります。図解は本質的な部分を抜き出して関係づけ、それを明解に見せる表現形式です。図解をひと目見れば、すぐに要点がつかめます。人によって異なる解釈をする事態も防げるでしょう。

●図解を眺めると「問題」と「解決策」が見えてくる

さらに、図解は「問題発見」と「問題解決」のツールでもあります。図解をじっくり眺めていると、「ここからも矢印が引けるのでは?」「これとこれは関連しているのでは?」といった、新たな発見が生まれることがあるのです。

たとえば、次の図を見てください。これは、ある男性が「家事を手伝わない理由」を図解したものです。

この図解を再度見直してみると、理由Aと理由Bが「悪循環」になっていることに気づきます。そうなれば、この「悪循環」という視点を加えた図解②のように、解決策もおのずと見えてくるというわけです。このように、図解は「理解する」だけでなく、「考える」ためのツールでもあるのです。

拙著『仕事ができる人になる 図解の技術大全』では、「図解コミュニケーション」の研究過程で得た知見やノウハウを惜しみなく公開しています。本書をお読みいただき、みなさんの仕事や人生に役立てていただければ幸いです。

\ビジネスがうまくいく!人生が変わる!/
『仕事ができる人になる 図解の技術大全』(久恒啓一 著/日本実業出版社)■本書の構成
序 章 図解コミュニケーションとは何か
第1章 「図解」で何ができるのか
第2章 あらゆることを図解する技術
第3章 図解で「よむ・かんがえる・かく」技術
第4章 図で「問題解決」をする技術
第5章 ライフデザインを図で考える

◆著者プロフィール:久恒啓一(ひさつねけいいち)
多摩大学名誉教授。宮城大学名誉教授。NPO法人知的生産の技術研究会理事長。
1950年大分県中津市生まれ。九州大学法学部卒。1973年日本航空入社。英国勤務や客室の労務担当を経て、広報課長、経営企画担当次長を歴任。1997年早期退職し、新設の県立宮城大学事業構想学部教授に就任。学生部長、大学院研究科長。2008年多摩大学教授。経営情報学部長を経て副学長。ビジネスマン時代の1990年に『図解の技術』(日本実業出版社)を刊行。2002年の『図で考える人は仕事ができる』(日本経済新聞社)など著作は100冊を超える。2020年より『図解コミュニケーション全集』全10巻を刊行中。近年は、1000館を越える「人物記念館の旅」をベースにした『遅咲き人伝』(PHP研究所)など「人物論」にも力を入れている。

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