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外国人の子どもたちにどの漢字から教えるか? 〜にわとり式漢字カードが「ある並び順」をしているワケ

どの漢字から教える? どの順番で教える?

みなさんは、小1の子どもがどの漢字から最初に習うと思いますか。

手元にある教科書を見てみると…  「木」から教えることになっています。 続いて「大・小」、そして「一・二・三・四・五・・・・十」と数字を教え、一年生も後半になって教科書の作品に出てきた漢字を教えるという順番になっています。


「どの漢字から教えるのか。どの順番で教えるのか。」

私がこのことに疑問を持ち始めたのは、外国人の子どもたちに漢字を教えるようになった小学校教師生活30年目の頃でした。

子どもたちに教えているボランティア日本語教室の先生たちも、ずっと長いこと教科書どおり、「木」「大、小」「一・二・三・四・五・・・・十」という順番で漢字を教えていました。

なので、教科書に出てくる順番とは違うにわとり式漢字カードを渡して、「この子たちにとっていい教材だから使ってください」と伝えても、うまく使いこなせない、よくわからないという声が上がって当然。(にわとり式漢字カードについてはこちらの回をお読みください)

だからこそ、なぜこの漢字から教えるのか、なぜこの順番で教えるのかを納得してもらう必要がありました。

そもそもなぜ順番を変えようと考えたか

外国から日本にやってきた子どもたちはつねづね

「漢字が複雑すぎる」
「書き順の必要性が分からない」
「読み方がいくつもあるなんてありえない」

と言っていました。

「書」の書き順。むずかしいよね。

文字といえばアルファベットを思い浮かべる人々にとって、漢字はあまりにも数が多いのです。教育漢字1026文字。アルファベットの26文字と比べると約40倍もあるのです。

そして、アルファベットは2本か3本の線でできている一方で、漢字はとても画数が多い。2年生で習う曜日の「曜」の字の画数は18画もあります。漢字は元々絵から生まれた象形文字が元となっているので、画数の多い文字が多いのです。

2年生で習うんですよ!


アルファベットを組み合わせた音の連なりで森羅万象を表現する言語と、意味のある言葉の部品(部首)を組み合わせて表現し、呼び方が複数存在する漢字。これらの構造を先に伝えないと始まらない。

  1. 漢字圏の人々は部首という部品に漢字を分解でき、それを組み合わせておぼえている

  2. 画数の多い文字を素早く正確に書くために、書き順という決まりがある。先に画数の少ない漢字の書き順について丁寧に教える必要がある

  3. 音読み訓読みのことを漢字指導の始めに説明しなければならない

私は子どもたちと接する中でこれらに気づき、手探りでにわとり式漢字カードの並び順を決め、なぞり書きドリルを作ることにしました。

分解しながら教えます


子どもたちに最短最速で、学力を付けてあげたい!

漢字を教えるための要点は掴めたものの、これらを日本語を学びはじめたばかりの外国人の子どもたちに教える方法や教材は存在していませんでした。

ないなら自分で作ってみよう。それがこの「にわとり式漢字カード」です。

特徴1 漢字学習のはじめから、音読み訓読みについて教える

アルファベットという表音文字の世界で生きてきた子どもたちにとって、一つの文字に2つ以上の発音があることはかなりショックなようです。

教科書で最初に教えることになっている「木」はこうなります


音読み、訓読みが存在する理由もルールも分からず、聞こえてきた言葉を自分の母語と逐一対応させて覚えるやり方で学習しているのが現状です。ルールが分からなければ覚えるための道すじがつくれません。

漢字は中国から来たもので、中国語の読み方に近いものが音読み、その漢字の意味に対応する日本語での読み方が訓読みであることを、漢字を習い始める早い段階で教えることで、単語の習得に必要なルールを浸透させていきます。

特徴2 部首という考え方を分りやすく教える


アルファベット圏の子どもたちにとって、漢字が難しい根本の原因は「漢字は表意文字、1文字が1つの意味を持つ。」こと。

「部首という部品に漢字は分解でき、それを組み合わせることで漢字はできている。」ということを伝え、まずは部品の元となる漢字をしっかり覚える、その後組み合わせのパターンを覚えさせるという流れで教える順序を工夫していくことで自然に理解できるように促していきました。

たとえば、「女」グループの漢字は「女、安、妹、姉」で、どの漢字も「女」に関わる文字であることを早い段階で教えます。

音読みと訓読み、関連する部首や漢字を同時に組み合わせた例文になっています


特徴3 画数の少ない文字から教えていく


また、画数の少ない文字から教えていくということにしました。

特に、二画の漢字について丁寧に教えます。たとえば、教科書にある「一・二・三・四・五・・・・十」ではなく、「一、二、人、八、入、十、七、九、丸、力、助、刀」の順で教えます。漢字全部の画数ではなく、部品の画数順です。

画数の少ない部品を正しくすばやく書くことができれば、画数の多い漢字も正確に書くことができ、習得までの時間も早まります。漢字の学びはじめに画数の少ない漢字の書き順を丁寧に教えることで、書き順を守る意味を教えていきました。

部品がわかれば、画数が増えても対応できます

漢字指導インストラクターを育てる

このように「にわとり式漢字カード」はちょっと変わった漢字教材です。

冒頭にボランティアの日本語教室の先生方へ唐突に漢字カードセットを配っても、使いこなせないという声が上がるのはもっともなことでした。

どうしてこのような並び順になっているか、どうしてこのような例文になっているか、それを伝えないことには使ってもらえませんし、子どもたちにも伝わらないでしょう。こうしている間にも外国人の子どもたちはどんどん増えていき、どんどん成長して学校を卒業していってしまう。

そこで私はインストラクターを養成するコースをはじめることにしました。

インストラクター養成の意義を自治体にもご理解いただきました

にわとり力=寄り添う力

インストラクター養成コースでは、漢字に関係すること、子どもの心理、教育心理などをお伝えします。

そして、講座の最後に「にわとり力」を付けてくださいとお願いします。

「にわとり力」とは、「一度日本語や漢字を覚えようとしたけれど、うまくいかなくて挫折した子どもに寄り添う力」のこと。

「 えっ、こんなことも知らないの」
「前にも 教えたでしょ」

など、学ぼうと決心してきた子どものやる気を削ぐ言葉は決して言わないでくださいということ。傷ついた子どもの心を想像できる力を私は「にわとり力」と名付けました。

慣れない外国の学校で、傷ついた子どもたちがたくさんいます

何年か続けていき、インストラクター養成コースを終了した方に教育実習のようなことをやっていたら、にわとりの会で勉強したいという生徒がだんだん増えてきて、現在のように直接指導をするようになりました。

こうして、私は小学校教師とNPOの代表の二足のわらじを履くことになったのです。NPOができてからは怒涛の日々でした。このことについてはまた、別の機会に書きたいと思います。


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