庭と畑のはじまり
この場所に土地を手に入れ、家を建てたのは2017年のことだった。当時、妻の職場は名古屋、私の職場はその東側郊外にあった。両方に通いやすい場所であり、地価がさほど高騰していない場所として、狙いを定めた場所が、名古屋市北東の山沿いのエリアだった。一帯は起伏に富んだ丘陵地で、所々に森林が残る環境だったことも、割と重要な理由だった。なぜなら、若干不便でも、周囲に自然の気配を感じながら、畑を作ったり、庭に様々な植物を植えたりしたかったからだ。
最入手した土地は、浅い谷に面した古い集落のはずれの一角にあった。おおよそ30m×15mほどの細長い形をしている傾斜地だ。もともとは段々畑と最下部は水田だった場所のようだが、どこかの工事現場から出た残土の置き場になっていた。南側は細い進入路を隔てて、急斜面の雑木林に接している。土地自体も南から北へと下がっている丘陵の足元だ。雑木林にはどんぐりの木の葉がそよぎ、積まれた赤い残土の脇には秋の野草が咲いていた。理想にかなり近い場所だった。残土はどかせばよい。
唯一の懸念が、日の低くなる冬場、南の小高い雑木林によってどれだけ日照が遮られるのかという点だったのだが、同時に建築の話を進めていた工務店の社長さんは、現場を見るなり、別の心配を口にした。「思った以上の傾斜地だ。どうやって平場をつくるかだなぁ」。何度かの打ち合わせを経て、おおよその土地の使い方が見えてきた。雑木林の直下を通っていた細い進入路に合わせる形で平場を造り、そこに家を建てる。進入路に面した家の南側は、少しスペースを設けてそこを駐車スペースと庭にする。「平場はコンクリートの擁壁で囲って頑丈にします。その裏の一番低いところは、砕石を敷くから臨時駐車場にでもしてください」と工務店社長。家を建てても、まだその北側に15m×10mの空間があった。「……駐車場より、ここは畑にしたいんです」。
かくして、2017年春、雑木林に面した小さい家ができた。当時2歳だった双子の長男・次男を連れて玄関を入ると、はめ込まれたばかりの窓から白っぽい山土のスペースが眺められた。手前は庭、裏は畑。家はさほど大きくないから、側面にも細長いスペースがある。ここから庭と畑の歴史が始まることになる。