読書紹介 ミステリー 編Part11 『煙か土か食い物』
どうも、こぞるです。
今回ご紹介するのは、舞城王太郎先生の『煙か土か食い物』です。
舞城先生といえば、プロフィールほぼ未公表で、『阿修羅ガール』で受賞した「三島由紀夫賞」の授賞式を欠席したことでも知られる、覆面作家でもあられます。
ー作品内容ー
腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが? ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー! 故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。
天才文体マザ○ァッカー
舞城先生の特徴と言えば、まずはその文体が挙げられます。地の文が全てリズム感のある話し言葉で書かれているのですが、その口調がいわゆる口語体とは一線を画すものとなっています。グルーヴ感ってこういうことですかね。上記の作品内容に「ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!」とありますが、これはこの文を書いた人が急におかしくなったのではなく、実際にこういった文が登場します。というか、本文中のけっこうがこんな感じ。
改行も少なく、英単語やスラングがカタカナで表され、勢いのある会話が「」を使って、縦に並んでいます。
この文体っていうのは、「凡才だから、こういうやり方をするのさ」という謙遜の皮を被った才能の暴力な気がします。このテンションの文で書き切って、尚且つ読んでいて辛くないそのバランス感覚。
例えば、私のような凡人がこれを真似してしまうと、読破することが精神的拷問になってしまうぐらいの作品が完成してしまうことでしょう。
また、1番すごいと思うのは、この風変わりな文に乗っかってしまうことで、こちらの物語への許容範囲を無意識に広げているところです。真面目な文では恐らく引っかかってしまうような問題も、おかげでスパッと読み進められてしまいます。
チャッチャッチャッチャッ
この擬音が作中で何度か出てくるのですが、これで表されるように、まあ全体的にスピーディーです。話の展開そのものもですが、それをさらに加速させるのが主人公である奈津川四郎の性格でしょう。彼の決断はいつも即断即決。ミステリーの謎を解くのだってズバズバ行きます。さらには、すぐ暴力に手を出すし、性欲に突き動かされ女性にも手を出します。読んでいて、危うくこの作品と彼のスピード感に置いて行かれそうなことも。
しかし、それに必死でついていくと思うのが、一人称視点で描かれているからと言って、そこに書いているのが四郎の本心とは限らないんだなあということです。もちろん、嘘をついているわけではないけれど、自分自身も気付いていない、嘘やカッコつけが存在し、それが上手に、物語全体に反映されているように思います。最後まで読むと、人を振り落とすような即断即決、悪即斬な性格も、全てがその文の通りではないのかもと思えてきました。
ヴェリーミステリー
四郎の本心に繋がって、この作品のミステリー部分について。
そもそも、この作品の謎ってなんなのだろうと考えてみました。この作品内では、連続殺人&傷害事件が起こります。その中に母親がいたことから、四郎は復讐するために犯人を見つけようと探偵ごっこを始めるのですが、この犯人探しって、あまり四郎のミステリーではないような気がします。もちろん、面白いのですが、この殺人&傷害事件を解くという物語の主人公は、実は途中で出てくるもう一人の名探偵なのではないかと思いました。四郎も解いてはいるものの、彼とはただ偶然混ざり合っただけで。
なので、実のところ、四郎の物語のメインとなるミステリーはそれよりも、家族、ファミリーにあると考えます。彼はなかなか問題の多い家の四人兄弟の末っ子として生まれるのですが、その家族や血というものに対して彼が持ちつづけてきた謎、そこへの奮闘こそが、この作品内でのメインミステリーなのではないかと思います。そう思って、内容を思い返してみると、その謎への一つの解決が、この四郎という主人公の本心を主人公自身が見つけて変われたことへの証明と思えてなりません。
さいごに
前述の『阿修羅ガール』や『好き好き大好き超愛してる。』など、キャッチーなタイトルに独特な文体なことで、突飛な物を書いている印象を勝手に持っていたのですが、実際に読んでみると作者の緻密さに驚きました。キャラクターの行動は一見「そんなやついるか?」と思わせるところがあるのですが、でも読み進めると、彼らの現実感が見えてくるというあたり、デビュー作でありながら将来の三島由紀夫賞を感じさせる作品です。kindle版が1ページ1円程度というやたらな安さになっておりますので、ぜひお手にとってみてはいかがでしょうか。
それでは、このへんで。
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