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読書紹介 ミステリー 編Part8 『異人たちの館』

 どうも、こぞるです。
 本日ご紹介するのは、折原一先生の『異人たちの館』です。
 異人って、結構強い言葉ですよね。異なる人?大体は外国人という意味で使われることが多いですが、差別的なニュアンスもあったりするようです。
 方言周圏論で知られる柳田國男先生は、『遠野物語』の中で、異人を山の神だと記しています。箱根駅伝の人ではないです。

-作品紹介-
富士の樹海で失踪した息子・小松原淳の伝記を書いて欲しい。
売れない作家・島崎に舞いこんだゴーストライターの仕事。依頼人の女の広大な館で、資料の山と格闘するうちに島崎の周囲で不穏な出来事が起こり始める。
この一家には、まだまだ秘密がありそうだ――。
五つの文体で書き分けられた著者の初期最高傑作!

五つの文体ってどういうこと?

 作品紹介にあるとおり、この物語は主人公の売れない小説家である青年”嶋崎潤一”が、”小松原淳”という青年の伝記を作ろうと奮闘するのですが、その小松原青年も、また小説家を目指していました。
 そこで、この物語は、①失踪中の青年の手記②伝記作りに奮闘する島崎くん③伝記作成のためのインタビュー④小松原青年の過去の話⑤小松原青年が書いた小説という5つのパートからなっています。
 これだけ色々な形式が入っていながら、ごちゃごちゃにならず、読みやすい作品になっているというのは、偏に作者の力量なんだろうなあと感心せざるを得ません。むしろ、この5パートがあるからこそ、600ページ強ありながらも、あっさりと読み切れるとすら言えます。

ジグソーミステリーっていうのはどうでしょうか

 そして、この小説の何がすごいって、その各パートの使い方です。それぞれがそれぞれにうまく作用して、謎が徐々に解き明かされることもあれば、それによって、謎がさらに深まり、重厚になっています。
 こういった、うまいこと色々なパートが組み合わさっているミステリー作品を表すためにジグソーミステリーっていう言葉を考えてみたんですが、いかがでしょう。ダサい?

作家が描く作家キャラ

 以前の記事でも少し言及したのですが、ミステリー小説には、ミステリー作家を生業にしたキャラクターが多分に出演します。この読書紹介ミステリ編のPart1Part2も、ワトソン役はミステリー作家でした。いろいろ面倒ごとに絡ませやすかったり、事件をミステリーという形式に落とし込むのに役立つ部分もあるのでしょう。
 ただ、面白いなと思うのは、登場する作家というのは、大体みんなそこまでの作家ではないというところです。やれ最年少教授だ、やれ眉目秀麗の建築学者の卵だ、進学校の主席だと、ミステリー小説にはやたらと天才が出てくるのに、天才ミステリー作家というのはあまりメインに表れません。たまに出ても、大体殺されてる気がする・・・。
 書いているのがプロの作家なのだから、天才数学者を描くよりよほど感覚的には近いのではないかと思ったりしますが、むしろ反対なものなんでしょうね。出ないということは。

 今回の主人公である島崎青年も、日銭を稼ぐために嫌々ながらゴーストライターの仕事を請け負っている売れない小説家です。
 ただ、この主人公はご実家がなかなかなエリート一家のご長男様なのですが、父親からの「小説家なんてフラフラしたことをせずに堅気の仕事につけ」という威圧と、それによって却って自分を甘やかしすぎる母親の存在に耐えかねて家を出た、という背景があります。
 作中一度だけ出てくる父親の家父長制にまみれた考え方と、母親も昔は少しだけ小説を書いていたというセリフ。それから主人公が小説家というところから、「おや?」と思い調べてみると、作者の過去のTwitterにこんなものがありました。

 折原先生は、今作を大変気に入っており、絶版を繰り返しながら三度も文庫化(記見出しの画像は左から新潮社単行本→新潮文庫→講談社文庫→文春文庫)されるという、ある種の偉業を成し遂げているのですが、それにはこういった主人公との関係性もあったのかもしれませんね。邪推かもしれませんが。
 ちなみに、折原先生の家族でいうと、久しぶりに会った友達が虎になっちゃった話で知られる『山月記』の作者である中島敦先生が伯父であることでも知られています。

英語タイトルの妙

 最上部の画像を見ていただくと、一番左の単行本を除いて、『異人たちの館』のよこに小さく「Ghost Writers」と書いてあるのが見えるかと思います。
 日本語のタイトルの直訳とは違った面白い英題をつけるというのは、『すべてがFになる』などで知られる森博嗣先生がよくやっていて、私はこういったギミックが大好きなのですが、この作品における「Ghost Writers」も、少し本編とかかっているギミックがありますので、おまけ程度に「お!」と思えると楽しいのではないかと思います。

さいごに

 上にも書いたように、今作は三度文庫化されています。私が読んだのはその中でも一番新しく2016年に初版が出た文春文庫(kindle版もこれですね)でしたが、600ページあるため、文庫でありながら1200円します。ちょっと高いな・・・という方は、絶版になった文庫がBOOK OFFなどで安く売ってたりしますので、そっちに手を出すとお得かもしれません。(中古をすすめていいのかな?)
 それから、作品の名誉と信用のために、絶版になっているのは面白くないとかそういう理由ではありません。昨今の小説業界的にシリーズ化や映像化されない(しにくい)ものはあまり売り上げが伸びない傾向にあるというのが理由かと思います。その証拠に、2018年の本屋大賞(全国の書店員が選ぶ賞)で、三度目の文庫にも関わらず、発掘部門で受賞しています。
 こんな長いの無理だよと思うかもしれませんが、1つ1つのパートは短いため、毎日少しずつ読むこともできますので、ぜひお楽しみ下さい。


注:作品内に、小学生のいじめシーンが描写されています。苦手だったりフラッシュバックがある方は残念ですが、避けた方がいいかもしれません。


それでは、このへんで。









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