読書紹介 ファンタジー 編Part5 『光の帝国 常野物語』
どうも、こぞるです。
本日ご紹介するのは、恩田陸先生の初期作品 『光の帝国 常野物語』です。
児童文学ではない和製ファンタジー小説って意外と少ないので、そういったものを求めている方にはピッタリのおすすめ本となります。
ー作品紹介ー
膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから――「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への志向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?
こちらの作品、過去にNHKでのドラマ化や、演劇集団キャラメルボックスによる上演も行われています。『夜のピクニック』もそうですが、恩田陸先生の作品は演劇でも親しまれていますね。
ジョジョの系譜?
「常野」(とこの)をルーツとして、一族とも称される彼らは様々な特殊能力を持っています。上の作品紹介にある以外にも、「遠耳」と呼ばれる耳のいい人たちや「つむじ足」と呼ばれる足が速い人たちのような身体能力強化系から、炎で敵を発火させたり、未来を見通したり、タイムリープなんてものまであります。それらの能力は遺伝によるものが多いようで、作中でも子供たちが親と同じ能力を発現しています。
最近ではむしろその方が多いぐらいですが、万能の超能力があるのではなくて、キャラによって一つの特化した能力を持つお話って、どこから始まったんでしょうか。一説によると『ジョジョの奇妙な冒険』スタートなんて話を聞いたこともありますが、もしご存知の方がいたら教えてください。
スーパーヒーローと戦争兵器
この作品のように、現実世界に触れ合う距離で、さらに一族などのように歴史が感じられるファンタジーであれば、やはり触れずにいられないのが戦争です。
表題作でもある「光の帝国」という章は、戦時中のお話しであり、「常野」の人たちが戦争のため、兵器として実験として捕まってしまいます。そこではもちろん読んで苦しくなるほどの痛みが描かれています。
ですが、だからこそ他の章で描かれている現代の平和や他愛もない会話の美しさに気付かされ、再度涙が溢れ出します。
ファンタジーというのは、非現実でありながら現実を強く映し出します。そして、その見える世界の差の多少が人を惹きつけるのでしょう。
恩田陸先生の群像劇
恩田先生は、この作品の後にも多数の作品を世に送り出しているのですが、その中に『ドミノ』という作品があります。この作品は27人と1匹がメインで出てきて、一つのお話を紡ぐという超群像劇なのです。
この『光の帝国 常野物語』でも、1つの章に出てくる人物たちが時代や場所を変えて、様々に関わりあっていきます。この関わりかたや助け合い方に「常野」という一族のニオイが感じ取れ、1つの魅力となっています。
小説は漫画や映画よりもビジュアルでアピールすることがほとんどできないため、この群像劇をわかりやすくかつおもしろく出来る恩田先生の技量の素晴らしさを感じます。
さいごに
恩田先生によるあとがきのなかに、これから使おうと思っていたアイデアを使い過ぎてしまった!なんてことが書かれていますが、その時生まれたアイデアを出し惜しみなく使うことで、やはり作品は面白くなるのだなあと再認識します。というか、その後直木賞やらなんやら取りまくっている方なので、恩田先生の場合は杞憂にも程がある気がしますが……。
非現実な能力があるけれど、その根本描かれているのは、家族であったり人への愛であったりします。
ファンタジー文学が文学であるということを知らしめてくれる作品となっておりますので、興味のあるかたはぜひお読みになってください。
それでは