【無料記事】芸術家と職人の違い
和える(aeru)様の素敵なイラストを使わせて頂きます。ありがとうございます。
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「江戸切子伝統工芸士」の鍋谷淳一さんは、平成二十五(二〇一三)年、その年の新作が一堂に会してその技術を競い合う「江戸切子新作展」において、最高の栄誉である「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞。
その後も二度の受賞に輝いている。まさにこの道のトップランナーである。
鍋谷さんが江戸切子の制作に携わるようになって、すでに二十年以上が経っている。
長く受け継がれてきた江戸切子の職人技を土台としつつ、現代的な繊細な感覚を取り入れた鍋谷さんの作品は、世代を超えて多くの人々に支持されている。
座右の銘は「堅忍不抜」。
この道を極めたいという思いは、昔から強い。
しかし、『極める』というのは、実は不可能なんですね。
どこまでやっても満足のいくことのない仕事ですから。
しかし、だからと言って作り続けるのをやめてしまえば『極める』には近付けない。
二十年もやっていれば、八〇点のものは作れるようになります。
しかし、一〇〇点というのはいまだに一度もないですね。
八五点のものを八六点にする、そんな一点のところで、みんな苦しんでいるわけです。
その一点の重み。
そこに今も悩んでいます。重要なのは、心の器のありようか。
鍋谷さんは自分がかつて父親の作品を見た時に感じたように、「これ、どうやって作ったの?」と思われるような作品を創作したいとも思っている。
そんな芸術性の部分を大切にする一方、一職人としての矜持と心意気も忘れない。
作品展に出展するものを作る時は別ですが、基本的には職人として『注文された通りのものを作る』というのが私の仕事です。
メーカーである発注元から送られてくる素材と図案に従い、忠実にカットを入れていく技術が求められます。そこで重要になってくるのは『スピード』。
実はこれが大事なんです。
江戸切子も一つの産業である以上、決められた時間内で商品を作り上げなければならない。
時間は関係ないというのなら、それはもう芸術家ですね。
しかし、私はこれで生活を立てている職人ですから、スピードも大事だと考えています。
鍋谷さんが付け加える。
「この業界の後世を考えるのなら、食っていける業界にしないといけない。そのためには高度な技術はもちろんのこと、スピードも大事なんです」
—『現代の職人 質を極める生き方、働き方 (PHP新書)』早坂 隆著
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