民間療法をオススメする危険
うつ病だということを話すと「こうすれば治るよ、ああすれば治るよ」などと、主治医でもカウンセラーでも無い人から民間療法をオススメされることがあります。
うつ病になったことがない人が何となくのイメージで「鍛えて自信つければ治る」「パーッと気晴らしすれば治る」「薬なんか飲んでも治らない」などと言うこともあれば、
うつ病経験者が「筋トレすれば治る!何故なら俺がそれで治ったから!」「私はうつ病でもガムシャラに働いてたらいつの間にか治ってた!やっぱり甘えなんだ!」などと、自分の経験則から言うこともあるようです。
実際僕も、ホントに数え切れないほど、そういうことを言われています。
親とか、閉鎖病棟に入院したときに出来た友人とか、治療中に通ってた格闘技ジムの人とか、色んな人から言われました。
でもそれが治療の役に立ったことなんて、本当に一度もありません。
むしろそんな素人意見に一切耳を貸さなかったことが、比較的順調に回復していけた理由の一つだとハッキリ思っています。
僕は今、"素人意見"という言葉を使いました。
そもそも『民間療法』って、別の言葉に置き換えれば、ただの『医学的根拠がないやり方』ですから、正にただの素人意見なんですよね。
それで本当に治るなら、それを保険適用して早く広めれば良い。
うつ病による日本の経済的損失は2.7兆円にもなるそうですし、その『◯◯すれば治る!』という民間療法が広まることによるメリットは、もう経済の素人には想像のつかない範囲にまで及ぶと思います。
でも事実として、民間療法が保険適用されることも、医学の現場で広まることもない。
…では民間療法を薦める人たちは、みんな医学を舐めてるのでしょうか?うつ病を舐めてるのでしょうか?悪意でもあるのでしょうか?治って欲しくないのでしょうか?
いいえ。多くの人は、けっしてそんなことはありません。
みんな、やっぱり元気になって欲しくて、自分が良いと思うことを、自分に効果があった気がすることをオススメするんですよね。
自分が悪いと思うことをわざわざ人には薦めない。自分が良いと思う治療法を、元気になって欲しい人に薦めたくなるのは、何ら不思議なことではありません。
でも、その民間療法に医学的根拠はあるのでしょうか?
素人さんが何となく思いつくような単純な方法を、何十年もの間研究されてきた精神医学界の専門家たちが、1分1秒でも早く元気になりたくて治療している患者さんたちが、今まで思いつかなかったと思いますか?
水だって飲み過ぎれば毒になります。
その民間療法で起きるかもしれない危険を、本当に把握していますか?
危険が起きたとき、責任を取る覚悟がありますか?
最悪の結果につながったとき、遺族に何と言って頭を下げるつもりですか?
新しい薬を一つ作るのに、何十億円、何百億円、ときに何兆円というコストがかかるそうです。治療の選択肢が一つ生まれるために、僕たちには想像のつかない時間もお金も労力もかかるんです。
そうやって確立されてきた治療法を差し置いて「こうすれば治るよ、ああすれば治るよ」などと、素人の何となくなイメージによる思い付きが通用するほど、浅はかな話ではない。
今目の前にいるあなたの大切な人に、何が必要で何がまずいのか、それを正しく判断できるのは、必ずしもその人を誰より大切に思っているあなたではない。
元気になって欲しいという思いで、また一緒に笑える普通の毎日を願って、よくわからない治療法を薦めた結果最悪の結末を迎えてしまった。あなたが引き金を引いてしまった。
そんな未来なんて、望んでいないはずです。
医学的根拠の無い民間療法を薦める前に、どうか一度冷静になりましょう。
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