第7号 アマクサローネ&天草大陶磁器展 2017
毎年11月3日の文化の日の前後5日間に開催される天草の一大イベント「天草大陶磁器展」がある。私は、その日程を同じくして「アマクサローネ」というイベントも開催されており、その実行委員&記録係として2013年より参加している。今号では今年で10回目となる「アマクサローネ」と14回目の開催を迎えた「天草大陶磁器展」の模様を私なりにまとめてみようと思う。
・アマクサローネについて
テーマ
「理想の生活」
天草 + サローネ = アマクサローネ
サローネとは見本市のこと。
わたしたちが生きるという事のその中には誰かが作った無数のモノがあり
それを取り巻く環境、思想がある。
それぞれのより良い暮らしを求めて人は工夫し努力し、何かを探している。
今回のアマクサローネは、人々の暮らしの中を取り巻くモノ
そして営みの中の行為に焦点を絞り
誰かの生活に寄り添っていけるモノ
そして新たな日々が始まるようなコト等を紹介する。
それは誰かが探しているモノ、コト達の見本市。
「アマクサローネ」とは上記のテーマを掲げ、陶芸や木工をはじめとしたクラフト関連の作家や、現代美術・絵画・写真といった美術関連の作家、活版印刷に草木染や詩に植物・茶道などなど多様な出展者が参加するイベントだ。生活に関わる「モノ」や「コト」に特化した表現作品の販売やWSを中心とする内容となっている。前回までは天草市内にある「本渡銀天街」というアーケード街の空き店舗を利用しての展示だったが、10回目の今回は、「天草大陶磁器展」と同じ会場である天草市民センターでの開催となった。
毎年バラエティに富んだ出展内容となるが、個人的に今回は吹きガラスの作品や七宝の作品に特に驚かされた。そして、天草四郎のイラストがプリントされたロングスリーブTシャツのインパクトが凄まじい。私は写真以外の興味といえば食事か古着関連についてばかりなので、アマクサローネは初めて知る作家の方や異業種の作品世界に出会えるとてもいいきっかけのイベントだと感じている。
・第10回 アマクサローネの様子
有難いことに、今回は例年にない多数の来場者にお越しいただくことができた。天草の目玉イベントと同じ会場での開催に加えて、全日程を通して天気が良かったこともあるだろう。常連の参加者や今年初めての出展となる方々も接客に忙しい時もあれば、のんびりとイベントを楽しんでいる時もあり。そんな和気藹々としている場面を見かけては実行委員のひとりとしてホッとしていた。
・11/2 アマクサローネOPレセプション スペシャルゲスト 塚本功氏
初日となる11/2の夜には天草市の「マルシンカフェ」にてミュージシャンの塚本功氏をゲストにお迎えし、ギター演奏に酔いしれながら、天草の人気寿司店「蛇の目寿司」の若大将より握りをいただくという、なんとも贅沢なオープニングイベントを開催した。美味しく楽しい時間だったからか、雰囲気に任せてテキーラを呷った私は、強かに酔っ払い写真を撮り続けていたと次の日の朝に聞かされる。強いお酒は無論の事、プロのギタリストが奏でる音色と美味しい天草のウニは反則だなと肝に銘じた。
・今年もミシマ社ご来島!
我らがアマクサローネ実行委員のひとりであるナガタさんの熱いミシマ社愛が通じ、昨年よりイベントに参加していただいている三島邦弘氏率いる「自由が丘のほがらかな出版社 ミシマ社」さんが再度ご来島。開催されたトークイベント「寺子屋ミシマ社 天草編 ~天草で『ちゃぶ台』を作ったら~」にも多数の方々が参加されていた。こういった面白く興味深いイベントがアマクサローネ&天草大陶磁器展では多数開催されているのだが、記録係の悲しい役目でイベントの様子を撮影しては、同時開催されている別のイベント会場へと移動せねばならぬことが少し残念なのである。いつも最初と終盤しか聞けていないのだが、どんな話をされるのだろう、とても気になっている。
・天草大陶磁器展について
アマクサローネを語る上で欠かすことのできない「天草大陶磁器展」は今年で14回目となる天草最大の陶磁器イベントだ。全国より110もの窯元が集合し、それぞれの陶磁器を展示販売している。天草島内の窯元も多数参加しており、ひとつの会場で天草の器たちを見て回れるのは、天草を案内する者のひとりとして、とても効率的だと思う。それと同時に、こんなにも多種多様な窯元が全国に存在しているのかと驚かされる。私自身、7年前に帰郷するまでは、天草が陶磁器の材料となる陶石の一大産地だという意識はほとんどなかった。こちらのイベントや各窯元より入る撮影依頼を通じて、どんどん陶芸の世界に興味を持ち始めていることを自覚するようになった。作陶することではなく、窯の由来や窯元達の人物像やこだわりに関する興味に占められているが、とても奥深く豊かな世界が広がっている。
・天草大陶磁器展 関連イベント
11/3 スガダイロー&Little Blue
大陶磁器展の関連イベントも見逃せないものばかり、その中でも特に不思議なご縁を感じたのは11/3の夜に開催された「スガダイロー&Littele Blue」のLiveイベントである。超絶技巧の演奏に加えて、突然踊りだすサックスプレイヤーに北斗の拳のナレーション調で熱すぎの物販宣伝など何が起こるかわからないひと時だった。
そして、皆さんのステージ衣装は福岡在住時からお世話になっている「piraconia」の店主ナカムラ氏が手がけるブランド「Django Atour(ジャンゴ アトゥール)」だというから驚きだ。数日前にその情報をナカムラ氏より聞かされていたので、私の持つ数少ないDjango Atourの服を着用し、撮影に臨んだ。イベント終了後に「Django Atour 友の会」としてメンバーの方々と記念写真を撮れたことがとても嬉しかった。スガダイロー×Django AtourコラボレーションTシャツも購入しひとりご満悦であった。
11/4 otto & oral
11/4には鹿児島の「しょうぶ学園」の施設長・福森伸氏が指揮するパーカッショングループ「otto」と叫びのコーラス隊「orabu」が作り出すオリジナル曲で構成されたフリースタイルサウンドパフォーマンスの公演イベントを開催。以前、アマクサローネにてしょうぶ学園の工房作品を出展されていたので、その存在を知ってはいたが、演奏を聴くのはこの時が初めてだった。多国籍な民族性を感じる様々な音色が鳴り響き、不思議な調和と破壊を生み出している。合間に入る演者の紹介や福森氏のMCがとても痛快で小気味好い。舞台袖や天井へと走り回り夢中になって撮影させていただいた。
11/3〜4 多彩な講演
この期間中は、音楽イベントだけでなく様々な講演会も会場各所で開かれる。古武道家の甲野善紀氏の講演は武道場で行われ、盲点と思える身体の使い方を駆使して参加された人々を驚きと感心に誘っている。独立研究者の森田真生氏やカナダ出身、天草在住の冒険家リチャード・ブレジナ氏の講演会も沢山の方々が聴講にいらしていた。どちらの講演もはじめの部分だけなので続きが気になってばかりだ。otto&orabuの公演後には現代美術家の日比野克彦氏と福森伸氏の講演会を天草大陶磁器展の実行委員長・金澤一弘氏がコーディネートされていた。どの講演も出だしから興味をひく内容ばかりだ。
・11/4-11/5 大坊珈琲の時間&Kim・Cafe
11/4と11/5には天草市内にある窯元・丸尾焼の展示室にて「大坊珈琲の時間」が開催された。珈琲が好きな人に、このイベントの話をすると大層驚かれる。昨年はタイミングが合わずで記録撮影に来ることが叶わなかったのだが、今年はようやくこの場に居合わせることができた。静音のシャッターでも、押すことを躊躇われる静かな空間で終始緊張しっぱなしであった。大坊氏が淹れる噂のコーヒーは一体どんな香りと味がするのだろうか。展示室の真裏にある中庭では、多彩で多才な陶芸家のキムホノ氏による「Kim・Cafe」が1日限定でオープン。続々といらっしゃる客人に出す為の珈琲を淹れ続けるキム氏の集中力に驚くばかり。器はキム氏が作られたもの。珈琲の香りに包まれた空間で、大坊珈琲とキム珈琲の静かな共演をしばし眺める。
・新たな刺激
アマクサローネでは毎年表現者がやって来る。これまでも、自分の物差しでは到底測ることのできない人物達が登場していたが、今年も多分に漏れず新たな刺激が現れた、それも今年は2人。両人とも現代美術である。アマクサローネのスタートからずっとテラスで公開制作を続けていた成富勇也氏は、私が実行委員会に入る前年まで出展者としてアマクサローネの前身となる「街中ギャラリー」に参加していた。その後、南米へと渡り様々な経験を積んできた様で、どんな世界を見ているのかとても惹かれる雰囲気の持ち主。今回のイベントでも準備段階から話すことができ、展示に関しての助言をもらったり、一緒にテキーラを飲んだりととてもいい時間を過ごせた様に思う。
そして、もうひとりは同じ苓北町出身の真珠子さんである。アマクサローネの会場では陶器の板に絵付けしたアズレージョを展示し、別会場となるカフェ「カランコロン」では大きな暖簾に真珠子さん独特の絵を目一杯に描かれていた。メイドに扮した真珠子さんに「天草の乱カクテル」を振舞ってもらう。会う度に不思議なテンポで何かと驚かせてくれる真珠子さん。アズレージョの制作も、ほんの少しだが取材撮影できたので、いつか特集を組めたらと勝手に考えている。我が家の家族も真珠子さんのことがとても気になっているようだ。
・今年のアマクサローネ&天草大陶磁器展を終えて
年に一度のアマクサローネ&天草大陶磁器展も11/6の16時に閉幕した。今年は最多となる来場者や心を熱く滾らせるイベントの数々に身体や精神が追いついていない感覚が多かったように思う。私が18歳まで過ごした天草になかったもの、欲していたものが今ここにあると感じるのは、このふたつのイベントのお陰だと思っている。文化的なことに興味や関心はあれど、行動範囲の狭い高校生に天草は退屈すぎた。気づくことができなかったとも言える。私は、ラジオや雑誌・テレビで知る街や音楽、美術館に表現者達。それらをもっと身近に感じたかったのだ。そういう思いもあり、天草を飛び出したつもりだったのだが、気がつけばまた天草で暮らしている。しかし、あの頃と今とでは、大きく違うということには気づいている。また来年はどんなイベントになるのか全く想像もつかないが、運営している実行委員の方が実は来場者より楽しんでいるのかもしれない「アマクサローネ」に是非お越しいただきたい。
今年も無事にイベントが終了し、搬出の際に無理やり車へ押し込んだ棚板がフロントガラスを突き破り、私の愛車が銃撃を受けたかの有様になってしまった。最後の最後に油断と焦りでやらかしてしまったなあ、と悔いても請求金額は変わらないので、また頑張って働こうと日常へ帰っていくしかあるまい。ご来場いただきました皆さま、参加された皆さま、実行委員会の皆さん!来年もアマクサローネをどうぞ宜しくお願い致します!
写真・文 / 錦戸 俊康
※こちらの特集記事は2017年11月15日に発行した
『天草生活原色図鑑 電子版』の再構成記事です。
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