実証実験:AIはテンプレ系エロ小説の夢を見るか
たとえば是枝裕和監督の「万引き家族」という映画を観たあと、同じ映画を観た人と話していてまったく話がかみ合わない、ということがあった。
「あれは日本の貧困や格差を描いているといわれていますが、違いますよね! あれは……『他人の人生を万引きした男』の物語なんですよ!」
とその人。
「…………?????(え、なにその文学的な感想?)」
とわたし。
というかわたしは是枝監督の映画を観るたびにあの監督の色濃いショタ愛が感じられて、どーもあまりメッセージが頭に入ってこない。
「怪物」はとくにそれがキツかった。
あと、不幸な事情により急逝した元総理大臣が書き、ベストセラーになったエッセイ本(というとだいたいわかると思うが)を読んでいたら、元総理は映画好きらしく、クリント・イーストウッド監督・出演の映画「ミリオンダラー・ベイビー」に関して述べている部分があった。
“イーストウッド監督らしい、アメリカの保守観に基づいて描かれた『家族の絆』に胸を打たれました(大意)”
「…………???? 家族? イーストウッドとヒラリー・スワンク、他人だし(まあモーガン・フリーマン含めて“疑似家族”的ではあるが)、ヒロインの血のつながった家族、映画史上稀にみるほど最悪のクズ一家(あまりのヒドさに観てて笑えた)なんだけど、元総理、ちゃんと上映中起きてた?」
みたいなこともある。
このように、映画を観てその物語を読み取る、ということにおいても、わたしと他人、わたしと他人と世間、わたしと他人と元総理大臣の間には大きな溝、というか理解のベクトルの違いというものがある。
人間同士でもこうなのだから、人間とAIはこの課題を乗り越えることができるだろうか?
前回、「三連休特別企画:AIでつくろうエロい人妻」という実験を行ったときに思ったのだが、AIにはいったいどれくらい「物語を読む能力」があるのだろうか。
↓これね。お暇ならどうぞ。
※決して前回が多少ウケが良かったから二匹目の泥鰌を狙ったのではない。
たとえば(わたし自身はあんまりよく知らないのだが)ラノベ、エロラノベは「挿絵」が売り上げを左右しているという。
そうすると、わたしのエロ小説にも挿絵をつければ、ひょっとすると売れる可能性があるかもしれない。ないとは思うが。
とはいえ、いちいち挿絵を自分で描くのもめんどくさい。
※というか、私はたいして絵が描けない。
そんなわけで、自分の小説の挿絵を画像生成AIに任してみてはどうか、という実に安易なことを考えてみた。
いつものように、本当にどうでもいい思いつきだが。
そのために、AIには情景を描写した文章を理解し、そこから適切な画像を生成する能力があるのか、ということを確かめねばならない。
さっそく実験を始めてみよう。
エロ小説でテンプレ的な短文を書いてみて、AIがそれをどう解釈し、どんな絵を生成するのかを試していきたい。
シチュエーション1「人妻のよろめき」
『ある昼下がり。夫の留守中、一人家にいた日本人の人妻。そこに、かつて職場の先輩で恋人だった男が訪ねてくる。思い出話を続けるうちに、時が隔て居た二人の心の距離は縮まっていき、いつしか男は人妻を抱きしめていた。潤む人妻の瞳。彼女は男を拒もうとはしなかった。』
で、出てきたのがコレだ。
ちょっと違う……というかかなり違う。
ちょっと出演モデルの面がまえに難ありとはいえ、ハウスメーカーや保険のCMに使えそうな画像が出てきた。
やはりAIに淫靡な世界は理解不能なのか。
めげずにもう一回チャレンジだ。
次は、なんか韓国映画(『お嬢さん』的なやつ)に出てくるヘンな日本人シーンみたいなのが出てきた。
いやいやいやいや、違うんだ。
こんなシリアスな感じじゃない……
やはりAIには難しすぎるお題だったのだろうか。
めげずに次のお題だ。
シチュエーション2 『人妻:不倫温泉旅行』
『人妻は夫には内緒で、妻子ある男性と温泉旅行に出かけた。旅館の部屋で人妻は男と二人きり。男は人妻を抱き寄せると、「……後悔してないよね?」と囁く。「ここまで来てそんなこと言うなんて……いじわる」と人妻は唇を噛みながら恨めし気に男を見上げた。』
さて、行ってみよう。
ううむ……最初の人妻のイメージはいい。エロい。
しかし、まったくシチュエーションが反映されていない。
そして後者。
なんか今村昌平の『復讐するは我にあり』で倍賞 美津子が旅館の風呂掃除をするシーンを彷彿とさせる。
それはそれでエロいはずなのだが、やはり物語を捉えられてはいない。
まあ、ちょっと毛色を変えてみよう。
シチュエーション3 『残業中……子ども扱いしてた後輩男子が』
『残業中の先輩OLと、後輩男子社員。もう深夜を過ぎている。先輩OLが「ふう……あとはわたしがやっとくから、君はもう帰りなさい」と優しく言うが、後輩男子社員は「先輩を残して先に帰れません……それにこんなに遅い時間に女性一人なんて、危険じゃないですか」と答える。先輩OL社員は「ふふ、なにかあったら君が守ってくれるの?」と悪戯っぽく笑う。すると後輩男子社員は「そういえば今先輩、僕と夜中に二人っきりですよね? それって安全と言えますか……?」と言うとにやりと笑った。』
で、出てきたのがコレ。
驚いたことに、AIが内容を鑑みたのか、女性向けコミックの絵柄で出てきた。すっげえいい感じ。
背景に他の社員が居るとこは不満だが、わたしが頭に描いたのはまさにこういうシーンだ。
ではもういっちょう。
これは……ちょっとすごい。
感動してしまった。
わたしが最初に書いたテキストから、“先輩女子社員の言動から匂いたつ輩男子社員への下心”をくみ取って出てきたのが、これだ。
ちょっとわたしはAIが恐ろしくなった。
まあちょっと、マンガ絵ではなく実写でも見て見たくなったので、再チャレンジ。
……………………。
すげえ気持ちわるい。
やはりこの手のテキストには漫画調のイラストのほうが合っているようだ。
次のチャレンジに行こう。
シチュエーション4 『高校教師と女子高生』
『放課後。夕暮れの教室に一人の女子生徒と中年男性教師。「どうしたんだ藤本。俺に話ってなんだ?」と教師。「先生こそ、あたしに話があるんじゃないの?」と思わせぶりに笑う女子生徒。「話って……」「だっていつも事業中、あたしのことばっか見てんじゃん……そうでしょ」チャイムが鳴る。』
さて、行ってみよう。
なんだこれは。
漫画調なのはいいけど、これはわたしが描こうとしていた世界とは対極の世界だ。
なんだろうか。AIに何らかの危険防止機能が働いてるのだろうか。
じゃ、実写で行ってみよう。
放課後の教室というか、場末のバーカウンターのようだ。
ひどく手の込んだイメージプレイ込みのパパ活に見える。
あと、二人の背後の人影が不穏だ。
まあ芸術点は高いが………………違う!!!
次のお題に行こう。
シチュエーション5 『校舎裏、俺とアイツと』
『校舎の裏。男子生徒が二人。「お前、春奈と別れたってホントかよ?」と制服姿の男子が言う。「ああ」とジャージの男子。「なんで? あんないい子なのに……」と制服。するとジャージが制服の男子を壁に押し付け、「なんでか分かってんだろ? 分かってないふりすんじゃねえ!」と唇を合わせる。』
で、出てきたのはこれだった。
どうやらAIの「テキストのトーンから適切な絵柄に変換する機能」はそれなりに優秀らしい。
まあなぜか少年が多すぎるのはいいとして、こういうトーンのテキストにはこういう絵柄だろう。見事だ。
まあこれでも実写での表現を見たいのでやってみる。
…………次いってみよう。
シチュエーション6 『美少年とエッチな看護師さん♥』
『病室のベッドに横たわる少年の横に、女性看護師。「すみません、看護師さん……ぼく、ちょっと痒いところがあって……」「あら、どこ? 掻いてあげる」と笑顔を見せる看護師。「で、でもちょっと……言いにくいところで……」と顔を赤らめる少年。「あら? どこかしら? ひょっとしてこういうとこかな?」看護師は小悪魔的な笑顔で少年をからかう。』
正直言って、わたしのなかのベストとも言える好きなシチュエーションだ。
さて、AIくんはどう出るだろうか。
イイ。漫画絵だけど、めちゃくちゃイイ。
AI、わかってやがる。
2枚目、テキストのトーンを完璧に伝えているし、3枚目なんかほとんどアウトだ。
こうなると、実写で見たくなるのが人情。
そういうわけて、実写を要求してみた。
この、少年の背後にいる前田旺志郎(元小学生兄弟漫才コンビ・まえだまえだの弟)に似た男は。
こいつは首から聴診器を垂らしているが、医者なのか。
でも着ているのは寝間着だ。
なんか危険な匂いがする。
もう一回行ってみよう。
期せずして、少年と看護師のアイコンタクトがやばい。
わたしが書いたテキスト以上に、闇深い世界が爆誕してしまった。
AI、たまにこういうことするから恐ろしい。
それでは、最後のお題だ。
古典的なシチュエーションで行ってみよう。
シチュエーション7 『未亡人女将:肉体の賭け』
『料亭の一室。太った男と、和服の似合う上品な美女が二人きり。「女将、ええやないかあ……」「ああっ……か、堪忍しとくなはれ旦さん……うち、まだあの人のことが……」と拒絶を見せる女に、男は食い下がる。「おたくのダンナが死んでもう2年や……それまでずっとお預け食わされて、わしゃもう辛抱たまらんのや……」男から顔を背け、女が唇を噛んで言う。「せ、せめてあと、1年、1年待っとくれやす……あの人の三回忌が終わったら、きっと……」男は「約束やでえ……こんなん言うのもなんやけど、あんたの店を生かすも殺すも、わしの胸先三寸やさかいなあ……」とうそぶき、えびす顔で笑うのであった。』
で、行ってみた。
このシチュエーションで漫画調になるとは予想しなかった。
「料亭」がなぜか居酒屋や定食屋みたいになるのは、まだまだAIの限界なのだろうか。
悔しいので実写でオーダーしてみた。
やはり……と言ってはなんだが、AIに挿絵を任す時代には至っていないらしい。
それでもわたしは挑戦を続けたい。
今後、AIが発展し、わたしが望むシチュエーションを視覚化してくれるその日まで。
AIがわたしのイマジネーションを超えた光景を見せてくれるその日まで。
でもそれが実現すると、ダイレクトにズリネタになって公開しづらいかもしれない。
その時はその時で考えよう。
(今度こそたぶん続かない)