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書評「わざわざの働きかた」
長野県東御市御牧原。周りには人家がポツリポツリあるだけの山の上の長閑な環境の場所に、その店はあります。
店の名前は、「わざわざ」。2種類のパンと、食品・日用雑貨・衣服・靴など2000種類の日用品を販売するだけでなく、オリジナル商品の開発も行っています。実店舗だけでなはなく、オンラインストアでの販売も行っており、2009年に1人で始めた時の年商は200万円でしたが、法人化初年度の2017年の年商は1億7千万円を超えたそうです。
僕はこの店の事を知ったのは、noteに公開されたこの記事を読んだのがきっかけでした。
「わざわざ」というお店がどのように変化し、どう成長したのか。店主の平田さんが11,000文字ほどの長文で綴ったこの記事は、5日間で22万人ほどの方(2018/4/22現在)に読まれたそうです(参照)。
この記事が読まれたのは、(失礼ながら)時代の最先端を歩いているようには見えない長野にあるパンと日用品のお店が、コンテンツの作り方、プラットフォームの変化、チームの作り方、そして何より働き方について、都市で働く人が羨むような取組が実行されていることが、丁寧な文章から伝わり、読み手の共感を得たからではないのでしょうか。
僕は「わざわざ」というお店の事を詳しく知りたくなって、ある本を注文しました。それは、「わざわざの働きかた」という、「わざわざ」が自費出版で販売している書籍です。店舗や企業が発行していている書籍は、自社のサービスや商品、そして経営理念といった情報が掲載されていることが多いのですが、この書籍は違います。
なぜ、こんな面倒なことをするのか
書籍に掲載されているのは、「サービスとは何か」「仕事に優劣なし」「子育てしながら働く」といったテーマの文章です。「わざわざ」という店舗を運営しながら、店主の平田さんが自らの経験から得た、「わざわざの働きかた」が、細かく、小さな文字で、60ページ以上にわたって、みっちりと書かれています。
僕は読みながら、「なぜ、こんな面倒なことをするのか」と考えていました。書籍に掲載されている写真、文章の量を考えると、とても時間をかけて、手間をかけて、この書籍を作っていることが伝わってきます。店舗やオンラインショッピングを運営するだけでも手間なのに、なぜこんな書籍を作るのか。
「わざわざ」選んでもらうために徹底的に伝える
読み終えた僕なりの答えは、それは「わざわざ」だからです。
「わざわざ」というお店の名前の由来は、「わざわざ来てくださって、ありがとうございます」から名付けたのだそうです。長野の周りには人家がポツリポツリあるだけの山の上の長閑な環境の場所にあるパン屋に、「わざわざ」パンを買いに来てもらうにはどうしたらよいのか、「わざわざ」日用品を買いに来てもらうにはどうしたらよいのか、「わざわざ」オンラインで商品を買ってもらうにはどうしたらよいのか、「わざわざ」お店で働いてもらうにはどうしたらよいのか。
そして、何より「わざわざ」立ち上げたこのお店を、この会社を、どう運営してけばよいのか。考え抜いた結果、この書籍を作ったのだと思いました。
これは「成り上がり」だ
本書が面白いのは、書かれている内容というよりは、書かれている内容に至った過程だと思います。本や人の意見を参考にせず、まずは自分でやってみて、問題にぶつかったら初めて考える。自分の頭で考えて、本で調べて、周りの人の意見を参考にして、自分なりの考えを導き出す。そして、また走り出す。
この繰り返しが行われている著者の熱が、ゴツゴツとした文章から伝わってくるのが面白さだと思います。実は本書を読みながら思い出したのは、矢沢永吉さんの「成り上がり」でした。
自分の行動に価値をつけるのは自分
本書は、自分の行動に価値をつけるのは自分なのだということを教えてくれたような気がします。
仕事は自分を形造るものであり、自分の仕事に価値をつけるのは他人ではなく自分であり、まずは自分が「何をやりたいのか」「どう考えているのか」を決めて、周りの人にしつこく伝え、商品に、サービスに、そして働き方に、しつこいくらい反映させないと人には伝わらないのだ。そのことを、本書は教えてくれます。
「わざわざ」がやっていることは、「ブランディング」という言葉で表現できるのかもしれませんが、「ブランディング」という言葉には、「わざわざ」が大切にしている、ゴツゴツとした部分や、ジグザグしながら進んでいる姿が削り取られてしまいます。「ゴツゴツ」や「ジグザグ」という部分こそ、大切にしなければならない部分なのではないかと思うのです。
今年読んだ本の中で、No1の本です。本書を読み終えて、僕は元気が出ました。
僕もゴツゴツと頭をぶつけながら、ジグザグしながら、前に進んでいこうと思います。
「わざわざの働きかた」はこちらで購入できます。
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