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書評「空をゆく巨人」(川内有緒)

本書を読み終えたとき、こう感じました。

これが2019年読む本でベスト1かもな。

2019年始まったばかりなのに、何を言ってるのだ。そう思うかもしれませんが、そう言いたくなるくらい、本書はインパクトがありました。

本書「空をゆく巨人」という本に登場するのは、主に2人の人物です。1人は中国の世界的現代美術家で北京オリンピックの花火の演出を手がけた蔡國強。そしてもう1人は、いわき市の実業家・志賀忠重。

世界的現代美術家と、どこにでもいる地方都市の実業家のおじさん。普通なら結びつかないはずの2人ですが、実はお互いになくてはならない存在です。

蔡國強が考えるスケッチを、普段はアートに縁がない志賀と志賀の友人たちが形にしていくという、一見ありえないような組み合わせで、世界中を魅了する作品を生み出してきました。

本書では、2人の足跡を克明にたどりつつ、様々な疑問を読者に投げかけています。特に2人の関係は「損得」「立場」で考える人には、説明できません。

誰もやったことないこと、見たことないこと

蔡國強が「アメリカに作品を作るのを手伝って欲しい」と言われたら、志賀は現地に駆けつけて設置を手伝います。作る蔡國強と、サポートする志賀。この2人はお互いを補完し合っています。

志賀がサポートするのは、蔡國強だけにとどまりません。冒険家の大場満郎の北極海単独徒歩横断を現地でサポートしたこともあります。もちろん志賀は自分の仕事もあります。損得や立場の上下では考えられない関係が、ここにはあります。

本書を読み終えて、一番印象に残ったのはここです。

私からみると、大場、志賀、蔡という人物はよく似ている。彼らは寄る辺のない挑戦からしか得られない自由を愛する。誰もやったことがないこと、見たことがない場所を目的地とする旅をしているから、ゴールへの行き方は誰も知らない。

ただ、一度やると決めたら細々(こまごま)とした心配をしたりせず、「何だ、あいつは」と白い目で見られても気にとめない。気持ちが良いほど鮮やかに常識という線路から逸脱していき、あわや脱線するかと思いきや、いつしか、あっと驚くような場所にたどり着いている。

そして、——これが一番重要なことだが——そのプロセスに深く没入し、その瞬間、瞬間に見える景色をとことんまで楽しむ。そのとき、何かに深く没頭した人間だけが見ることができる絶景が目前に広がるのだろう。

そう、本書え描かれる人物たちは「自由」を楽しんでいるように見えます。自由には、楽しむ権利とともに、自分が生活する社会に貢献するという義務が伴います。本書に登場する人物たちは、楽しむ権利だけでなく、義務もきちんと果たしているからこそ、生き生きとしているように見えるのだと思います。

興味があるのは「今ここ」のこと

本書で描かれる人物たちは、過去のことも、未来のことも、興味はありません。未来のことを思い描くとしても、自分が死んだあとのこと。興味があるのは「今ここ」のことです。

今をどう生きるのか。悩んでいる人ほど読んで欲しい書籍です。ぜひ読んでみてください。


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西原雄一
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