祭りのそと。
昨日、三重県桑名市の「石取祭(いしどりまつり)」に行ってきた。
桑名南部を流れる町屋川の清らかな石を採って祭地を浄(きよ)めるため春日神社に石を奉納する祭りで、毎年8月第1日曜日とその前日の土曜日に執り行われています。
町々から曳き出される祭車は、太鼓と鉦で囃しながら町々を練り回ります。
と、あるとおり、着くなり、道路に並ぶたくさんの祭車が目に入り、市中に響きわたる太鼓と鉦の音色が聞こえてきた。
来るのは今回で二回目だが、今回は特に「町がつながっている」ことが印象的だった。
「見えない存在」と連絡すること
「祭る」というのは「祀る」と同じで、
① 飲食物などを供えたりして儀式を行い、
神を招き、慰めたり祈願したりする。
② 神としてあがめ、一定の場所に安置する。
③ あがめて上位にすえる。まつりあげる。
(大辞林第三版)
という意味がある。
そんなふうに町中の人が儀式を行い、神を「祭る」ことで、人と人がつながり、土地全体が活性化する。
人(生者)はたぶん、神や死者といった「見えない存在」と交流することで元気になる生き物なのだ。
おじさんの居場所
そして、祭りは「神事」ゆえ、老若男女どんな人の存在をも許容する。
中には刺青の入ったかなりヤンチャな、もしかしたら現代では「反社」と呼ばれる人たちも混じっていたかもしれないが、そんなことはお構いなし。
誰もが一緒くたになって代わる代わる太鼓を叩き、鉦を鳴らし、声を上げていた。
個人的には、この祭りの中に男性の、特におじさんの居場所があったことに惹かれた。
世話役として黒い紋付袴で練り歩く姿、祭車の上に乗り、下で浮かれて舞い踊る若い衆をじっと見守る姿。
そこには「おじさん」にしばしば投影されるうだつの上がらなさは見当たらなかった。むしろ「大人の男」としての足腰の強さばかりが引き立った。
町中あげての祭りは、運営・維持する大人の力が欠かせない。
黒い袴を羽織って「影」となり、静かに、時に激しく「本気」を発揮してその役割を果たしている男たちは、勇ましかった。
祭が滅ぶとき
そんな様子に感激して、フェイスブックに投稿を連発していると、友人からこんな内容のコメントをもらった。
「さっき飲んだ桑名の子が、うるさくて寝られないから帰りたくないって泣いてた」
それまで気づかなかった内側からの視点。
確かに、と思った。
調べてみると、このお祭りは二日にわたって深夜から明け方まで太鼓と鉦を叩きつづけることになっている。いま、こんなことを企画したら凄まじい反発にあうはずだ。
それでもできているのは、これが「神事」だからであり、長年にわたり守り、受け継いできた人たちがいたからだ。いまでは、ユネスコの無形文化遺産にも登録され「眠れぬ夜」は許容されている。
それでも、もしかするといつか「うるさくて寝られない」人の声が閾値を超えて大きくなったときに、この祭も滅ぶのかもしれない。
そして、それは「神事」が「人事」に負けることを意味し、神や死者といった「見えない存在」との連絡が途絶えることを意味する。
僕たちの感覚では「うるさくて寝られない」の声のほうがまともだ。
でも、社会規範を逸脱し「狂ってる」からこそできることがある。
それが「神事」であり「ハレ」なのだろうな、と思った。
そして、人は時々、狂わずには生きていけないんだと思う。
祭りのそと
そんなことを思いながら、僕はつくづく「うらやましい」と思った。
転校、転職、転居を繰り返している僕には「地元」と呼べる土地がない。
以前は「身軽だ」などと思っていたけれど、このところ、とみにそのことを寂しく感じるようになった。
土地とつながりたい。
「この土地が好きだ」とか「愛してる」とか言ってみたい。
けれど、転々としている僕はいつも「よそ者」として、祭りを外から傍観するばかりだった。
そんな僕にも、数少ないが、祭りの中にいた経験がある。
小学生の頃、浜松市の東伊場という町の代表として「浜松まつり」のラッパ隊に参加した。
やはり町ごとに祭車と、なぜか凧揚げの凧があって、五月の連休には中田島砂丘でその凧の落とし合いをしていた。
ぷっぷっぷっぷっぷっぷくぷー。
とラッパを吹いて、時々お菓子や飲み物をもらって。
なんだかいい思い出として残っている。
いま気づいたことだけれど、僕が「故郷」と感じるのは、この浜松と勤めていたディズニーランドだ。そのどちらでも「ハレ」の祭りに参加した経験がある(ディズニーランドは毎日がお祭だ)。
「ハレ」を共にすると、人は土地とつながれるのかもしれない。
そうでなければ、いくら長く住んでいても「ここが自分の土地だ」とは思えないのだろう。
そんなことを思っていたからか、来週、岐阜県郡上市の「郡上おどり」に行くことになった。こちらは「よそ者」でも参加できるらしい。
「もしかしたら、郡上に住むとか言い出しかねない」と思いつつ、ものすごく楽しみにしている。浴衣も下駄も買って「一員」になるつもり満々だ。
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