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今日は父の日

登場モノ

秘密

父が母さんと幼い弟、妹、そして10歳になる僕を置いて出て行ってしまった。

それからは家族4人の苦しい生活が続いた。僕は学校に通うのも止めて港で荷役の仕事をした。

僕は父親がいないからと言って弟や妹に不自由な生活をさせるのは嫌だった。

だから働き、弟は大学も卒業し、現在は教師の職に就いた。

妹も色々な人からお付き合いをと懇願されるレディーに成長した。

やっと、僕も自分の好きな本を買えるようになった矢先、父と名乗る男が帰ってきた。

僕らを捨てた男が当たり前のような顔をして帰ってきた。

蛙の面に小便と言った感じだ。僕には父さんの記憶が残っていたけれどこんな男だったか?

アルバムを見たいと思っても父の写真は母が辛すぎると言って処分してしまった。

けれども母も兄弟たちも目の前にいる男を父として認めているんだからこの男は父なのだろう。

でも僕の覚えている父さんではない。

今日からまた、仲良く暮らそうじゃないか、

父は平然と言った。

僕は思わずかッとして、

僕や母さんがどれくらい苦労したと思っているんだ!!ふざけるな!!

と怒鳴った。すると父は蛇に睨まれた蛙のように身を小さくした。

母が僕の耳にそっと耳打ちする。

お母さんはお父さんともう一度、ちちくりマンボを踊りたいんだよ。許してやろうよ。と、

赤い舌をチロチロさせて言った。父の記憶のない弟、妹は、

兄さんが苦労したのは分かるけど、許してあげたら?兄さんも執念深いね。と言った。

ああ、仕方ないんだ執念深いのは、だってそれは僕らの性質だもの。

この様子を見ていた父は黙って席を立ち、家から出て行った。

母と弟妹たちは父を追いかけようとした。僕は咄嗟に、行っちゃダメだ!!と声をあげた。

父は帰ってきた。

父孵る、父はカエル。

そして僕らは蛇じゃないか…

ああ、父さん、どこで道を間違えたんだい?父さんが僕たちを捨ててでも食べてみたいと言っていた

ちちくり饅頭は蛇をカエルに変えるのか?

ああ、父さんは母や弟妹には御馳走にしか見えていないのかもしれない。

本当に父が恋しいのは僕だけかもしれない。

ねぇ父さん、僕は父さんが食べたかもしれないちちくり饅頭を食べてみたいよ。


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