今日は雷記念日
登場モノ
干椎茸蓑文句先生:干しシイタケの妖精、医者
胞子君:先生の幼少の頃のあだ名
その他妖精
干椎茸蓑文句(ほししいたけみのもんく)先生の本名は椎茸蓑文句と言う。
けれど白い巨塔から追い出された時、自虐的に「干」を付けてしまったのでそれが本名として定着した。
子供のころは胞子(ほうし)君と呼ばれていた。
今からする話は先生が胞子君と呼ばれていた10歳ころのお話。
胞子君は山間部のジメジメしたところで育った。
学校は歩いて15キロのところにあって、そこには学年違いの子供たちが5人通ってきていた。
胞子君は近所の7歳になるヒダ子と家が近かったのでずっと一緒に通学していた。
胞子君は学業もパッとせず、性格も暗い子供だったのでどちらかと言えば
いじめの対象のような生徒だったけれど生徒と言っても
彼のほかは4人しかいなかったので、のほほんとした学生生活を送っていた。
初夏のある日、ヒダ子と下校している時にフッと、
胞子君はおっ母池に寄ってみたくなった。
おっ母池はブナの原生林に囲まれている神秘的な池。
神様の沐浴場なので村モノは祭りの時以外立ち入り禁止となっていた。
ヒダ子に話をするとおませなヒダ子は
「神様の入浴をのぞき見したいの?」と言ってゲヒゲヒ笑って付いてきた。
二人はけものの足跡さえないフカフカの腐葉土を下って池にたどり着いた。
うっそうとした木々に囲まれたその小さな池の表面にはブナの葉が映し出されて
池の水はエメラルドグリーンに見えた。
木漏れ日差すその景色は時が止まっているようで、静けさと相まって怖い感じさえ与えた。
二人はきれいだねとなぜか小声で話し、初夏なのにうすら寒いので心細い気がしていた。
その時、池の底から
「おっ母池はおっかねえぇど~」と低い声がするのを聞いた。
ヒダ子は飛び上がって驚き、一人、逃げ出した。
胞子君は半ベソをかいて「待ってよ~ヒダ子、待ってよ~」と叫んで彼女の後を追おうとしたけれど、
下駄の鼻緒がプッツンと切れてバランスを失い池の中に転がり落ちた。
「助けて~助けて~」胞子君は必死で叫び、バタバタと手足を動かした。
けれど胞子君の背中を引っ張る手が肩口に見えた。
胞子君は池に引きずり込まれ死んでしまうのだと確信した。
「ああ、もう駄目だ」と諦めて脱力したところにヒダ子が引き返してきた。
ヒダ子は池の浅瀬で泥にまみれて手足をばたつかせている胞子君を見て、
「なんだこいつ?」と思ったけれど手を差し伸べて彼を立たせた。
「転んだだけなのに弱虫だ」とヒダ子は笑った。
でも胞子君は確かに胞子君を池に引きずり込もうとする手を見た。
「神様の手を見たんだ、池に引きずり込もうとしてたんだ」と興奮して話すと
ヒダ子は胞子君の肩に張り付いたヤツデの葉っぱを摘まみ上げ、
「これでしょ?」と意地悪い目をした。
胞子君もそれを見て「ああ、なんだヤツデか」と思い、二人は帰路についた。
すると突然、空が曇り始め、雷がゴロゴロと鳴り始めた。
そしてドッカ~ンと音がしたので思わず、ヒダ子を庇って覆いかぶさった。
胞子君は雷に直撃されたけれども丸焦げになることもなくかすり傷一つ負わなかった。
ヒダ子は「もう、あんたなんかと絶対に遊ばない」と言い、一人で帰ってしまった。
その後、ヒダ子は他の生徒や先生にもこの話を披露し「胞子は意気地なしだ」と言い触れ回った。
その後、一か月くらい、村人たちは胞子君を見るとニヤニヤしていたけれど
直ぐに話題は松竹雄(まつたけお)君に取って代わった。
踏んだり蹴ったりに見えた胞子君だったけれど、彼は雷に当たって頭の回路が繋がったらしく、
その後、メキメキト学力を伸ばし医学の道に進むようになった。