人は皆、観客のままでいたいものである。
初めて彼を見た時、幸福という名が人のかたちを取って座っているのだと思った。
それを衝動のままに言葉にしたのには、一体何を言っているのか、というような表情を返されてしまったのだけれど。その日からどうしてか俺は彼のそばをうろちょろとすることを許されている。いや、許している感覚というのも彼にはないのかもしれなかった。だって彼の中での一番は彼だけであって、故に俺が何をしていようと彼の気分を害することがなければそう、障害として排除されることはないのだと思う。その辺りに飛んでいる虫について、いちいち気を揉むだろうか。揉む人間であれば揉むのだろうけれど、彼は当然の如く後者であった。
「きみは―――」
大切に管理された温室を、我が物顔で占拠する彼にものを言う生徒はいない。教師からは規範の内側でやるように、とは言われているようだったが。彼も彼で事を荒立てたい訳ではないのか、何かをするときはちゃんと事前に許可を取っているらしかった。それを聞いたときには随分驚いたものだけれど。彼は彼で好き勝手にやっているのだとばかり思っていたから、この話を信じるか信じないかは君次第だよ、と言った保険医の言葉を、俺は信じることにしたのだった。
―――それに、
そんな、見たままとの乖離を持つ彼はきっと、他の生徒が知っている彼よりずっと美しいと思ったから。
「まるで演者のようだ」
だから、その言葉だってそう、意味のあるものではなかった。
だと言うのに彼は信じられないような言葉を聞いたかのように立ち上がった。がたり、とその丁寧に磨かれたテーブルが音を立てて揺れる。それでもカップが落ちるようなものではないのは、彼の線がひどく細いからなのかもしれない。物理的な力のないだろう彼が単にこれまでやってこれたのは、彼がこうして演者のように振る舞っているからだと、俺はそう思ったからこそ言葉にしたのだけれど。
「はあ」
手のひらを机に置いた彼は幾らかじ、と俺を見つめたあとにため息のような音をさせた。本当にそれがため息なのかは分からなかったけれど。だって、彼にため息など似合わないと思ったから。
「演じているだなんて―――そんなふうに言われるとは思わなかったな」
「そう?」
俺は首を傾げる。だって、それほどまでに彼のその愛おしいまでの仕草の数々は物語のようで、だからこそ俺は彼から離れられないでいるのに。
「君の本質はそう、悪めいたものではないだろう」
「は、だから演じていると? 結論に飛びつくようなものじゃあないか、論証には段階を踏まなければ」
「でも、君がいるから他の生徒は規範の中にいる」
そうだ、彼が望むとも望まざるとも―――俺は、当然前者であると思っていた訳だが―――彼の振る舞いを見た他の生徒は、自分はああはならないようにしよう、とその浮き立った心を落ち着けてしまうのだ。落ち着かせる場所を見つけてしまう、とでも言ったら良いのか。まあ、結論が同じなのであればどうでも途中式などどうでも良いと思うが、彼にとってはそうではなかったらしい。
は、と再びその唇が歪む。しかし、そのいびつさすらも彼の美しさを補強するものにしかならずに、ひどく、眩しい。
「必要悪、とでも?」
「そうかもしれない」
「そんな言葉で片付けないで欲しいものだね」
「なら、裁定者、とか」
「言葉の選択の問題ではないんだよ」
しかし俺がこれだけ彼の目の前でものを言っても、彼は声を荒げるような真似はしなかった。つかれた手のひらは少し震えているようだったけれど、ただ、それだけだったのだし。
「だってボクはただ、こうしたいからこうしているんだ。他の生徒がボクを見て何を思うかなど些細な問題だろう、それともきみはいちいち気にするのかい? ああ、気にしそうだ! でも、ボクは一切そんなもの、気にしない。そもそも気にするのであればこんな学校、来てすらいないよ」
意味がないのだから、と言った彼が既に此処で学べるものは学び尽くしたというような成績を叩き出しているからこそ、温室の私物化が許されていることを、今、思い出す。
「―――では、」
だが、それを思い出すと、今度は次の疑問がわいてくるのだ。
「きみは、どうして此処に?」
「………さあね」
彼が座る。ゆっくりと、優雅に。それは美しい仕草だった。彼のために用意されたように思うほどのもの。
きみに分かるものか、という言葉が、きっと解いてみせろと言われたように聞こえたのは、きっと、俺の勝手な妄想で、どうしようもない慕情であるのだ。
年齢:13歳
一人称:ボク
身長:153.8
髪の毛:薄茶色の長髪
喋り方:どこか鼻につくような喋り方
性格・特徴:幸が薄い
趣味:温室でお茶すること
恋愛:愛してるとか平気で言っちゃう
備考:やっぱり自分が一番好き。
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