海軍大臣をクビになっても従軍する男
ウィンストン・チャーチルはうつ症状に悩まされていたといいます。
うつ症状を治していたら、ヒトラーには勝てたでしょうか。
マイナスの要素に見えても、その人全体にとって掛け替えのない要素になっていて、とんでもない力を発揮する源になるかもしれません。
ウィンストン・チャーチルは、第一次世界大戦中、イギリス海軍大臣としてオスマン帝国に打撃を与えるガリポリ作戦を主導しました。塹壕戦で膠着した西部戦線を打破する決定的な作戦でした。しかし、イギリス軍、フランス軍は大損害を被って作戦は失敗しました。
国民の大バッシングにあい、海軍大臣を罷免されました。
その時の彼は、塞ぎこんでおり、「全てを失った」と言っていました。
この気分のことを、「黒い犬」と読んでいたのは有名な話です。
生涯にこの犬は何度もやってきたそうです。
つまりうつ状態にあったんですね。
直後はサリー州の農場で絵を描いていたといいます。
半年後、少佐として今度は西部戦線、世界大戦の前線に復帰しました。
その25年後、ヒトラーのドイツ軍が電撃戦でオランダとベルギーに侵攻し突破した日、イギリス首相と国防大臣に就任しました。後年振り返ってこういったと言われています。
「私の生涯のすべては、ただこの時、この一大試練のために準備されたものであるという気がした。」
周りの世界が破壊されていく中、著述を続け、その膨大な知識を使って、科学のこと、世界のこと、宇宙のことを筆で語り続けました。
幾度となく国の危機に追い込まれ、破滅的な犠牲と帝国の没落を招きました。
大戦中は、精神的に不安定だった時期ばっかりだったと推察するのですが、
もし、現代の精神科や心療内科に受診したとして、SSRIを飲んだりしたらうつ症状がある程度改善できたかもしれません。
でも、ヒトラーに勝てるでしょうか。
国の生産力のメインを軍事力に向け、歯向かうものはどこであろうと侵攻していく国家に対峙する時、
連日空襲を受け、首都が燃える中、
不安な症状が和らいで、落ち着いた精神状態になれば、どうしようもない絶望や孤独、恐怖に屈することなく、世界中に散らばる帝国の力を結集し、凄まじい犠牲を払いながら戦争を指揮できるでしょうか。
僕はそうは思えないです。
うつ状態の方を助けるのが良くないといっているわけではありません。
もちろん、精神状態の不安定さは、本人にとって不快だし、ひどいと自殺の可能性もあるし、人格を荒廃させたりします。
ただ、一つの見方として、極めて強い力の源にもなり得るといいたいんです。
人生には、100のパワーじゃ全然ダメで、疲れ果てても構わないから瞬間的な1000のパワーがないと乗り越えられない時があります。
一見本人にとってうまくいかない傾向みたいなものも、一人の人間にとって重要なピースで、それがなければ、人生においてここぞという時に何かを実行する力が生まれないということもあるのかなと思います。突破力になるのかもしれませんよね。
人当たりがよく、快活で、積極的な性格のいい人は、カフェの店員には相応しいでしょうが、1億人が死ぬ世界大戦の趨勢を決めるなんて厳しいのではないでしょうか。
そう考えると、うつ症状とは消し去るべきものではなく、(集団としても)超困難な試練のために用意された悪魔のエネルギーなのかもしれません。
チャーチルのその後に戻りましょう。
ドイツが降伏した後、議会は解散し、与党は負けて、チャーチルは野党になってしまいました。
日本が降伏したことを受けて、毎年1冊ずつ第二次世界大戦の経験を綴った本を出版しました。
その本により8年後、ノーベル文学賞を受賞しました。