【読んだ】ヘルシンキ 生活の練習
おすすめ度 ★★★★★+★
大好きな本。
実は半年以上前に読んでいたのだけど、書きたいことが多すぎて、ずっとnoteに書けていなかった。多分長くなってしまうと思う。
社会、政治、ジェンダー、子育て、仕事、文化、どの切り口で読んでもすごく面白い。
わっかる…!と声に出すほど共感したし、切れの良い文章は抜群に読みやすい。笑えるところも、泣けるところもある。
なに、最高やんけ。
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作者は、朴沙羅さん。フィンランドのヘルシンキ大学の講師として働くため、2人の子どもを連れて移住する。
日本生まれ日本育ちの在日コリアン(父が韓国人、母が日本人)。
幼少期から、「日本人ではない」扱いをうけ、自分は何者なのか悩んだ末に、大学で社会学を学び、一つの問いに行き着く。
その想いを持ちながら、社会人になり、結婚し、子どもを産む。2人のうち一人は日本人の夫の姓、もうひとりは自分の姓を継いでいる。
というわけで、状況を変えたいと思った著者はヘルシンキにいくことにした。
「はじめに」の時点で、インパクトと説得力と行動力に満ちている。
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話は、主にヘルシンキでの生活について書かれている。
渡航してすぐに、コロナウイルスのためロックダウンになり、日本との行き来が制限されたこと。職場のパーティに子連れで行ったときのこと。
保育園探し、待機児童問題。日本の保育との違いも興味深い。
北欧は福祉国家の印象があるし、「日本が劣っていてヘルシンキが優れている」って話はよく見るんだけど、この方は住民として、とてもフラットに、良くも悪くもなく、両者の仕組みを「ただそういうもの」として書いている。それがとても好きだ。
日本の保育園は、子どものためというより働く親のための福祉施設だ。保育だけを比較すれば、スキルの蓄積や、保護者・保育士・経営者の団結力と友情において、日本のほうが優れているように感じる、と著者はいう。
でも、実はそもそもそんな団結自体いらないのかも。
先生や保護者の情熱や努力・協力の裏で、いわゆる「やりがい搾取」が行われていることに著者は疑問を呈する。
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フィンランドの子育てのスタンスは、日本とだいぶ違う。
例えを上げたらきりがないのだけど、本の言葉を借りて言えば、「スキルに焦点を当てる」という点だ。
本の中には「スキル」という言葉がよく出てくる。
教員の仕事は「この人が悪い」「ここが悪い」とジャッジすることではない。「このスキルを学んでいる最中だね」と互いに確認するのを手伝うことだ、というし、
子どもの面談では、See The Good!というカードを使い、「練習できているスキル」を確認する。
このカードはいわゆる「字がかける」「読める」というスキルではなく、「思いやりがある」「好奇心が強い」「美を鑑賞する」「チームワーク」など感情や人間性みたいなものも含まれる。
持って生まれた才能や人格ではなく、身につけることができるスキルだと捉えることは、フィンランドの根本的なマインドと繋がっている。
それは本に描かれた日常ドタバタ事件から、じわじわ伝わってくる。
日本が今のマインドのままそのまま導入できるものではないし、それが適切とも限らない、と感じる。
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この方はとてもフラットだと先に書いたが、日本社会でさまざまな苦労があったからか、多少批判的な面も多い。それは、明らかに受けてきた差別や偏見のせいであり、納得できるものではある。
といって、フィンランドは日本と比べてここが最高!フィンランドのほうが幸せ!とは言わない。
むしろ、国同士を比較することにどんな理由があるのかと自問する。
ぐさっとくるほど辛辣な指摘のあと、著者はこう述べる。
世界のどの国も、住めば都だけど、どんな都に住んでいても隣の芝生は青く見える。フィンランドにはフィンランドの嫌なことがあり、日本には日本のいいところがある。それだけの話だ、と。
単純にフィンランドでの生活を楽しく学べるエッセイとしての価値もありつつ、社会や差別の問題についても深く考えさせられる。
また時々読み返して、学びを深めたい。新品で購入してよかった。
単純に面白いし。